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元モー娘。石黒彩さん「正しい母親像」に縛られて…子育てを振り返る
寝る間を惜しみ、手作り料理…「余裕がなかった」
アイドルグループ「モーニング娘。」初代メンバーの石黒彩さんには、成人した3人の子どもがいます。子育てをする中で気づいたのは、「理想の母親像」に縛られていたことでした。いつも余裕がなく、ピリピリしていた時、子どもたちからの「ある一言」がきっかけで、家庭の雰囲気が劇的に変わったといいます。思春期の子どもたちとの接し方について聞きました。(ライター・小野ヒデコ)
「長女が社会人になったのもあり、今年に入って、ちょうど子どもたちの思春期時代のことを家族で振り返っていたところです」
そう話すのは、元「モーニング娘。」の石黒彩さんです。22歳で初出産をした石黒さんは、長女(22)、次女(20)、長男(18)の子どもがいます。
子どもたちが小中学生だった思春期まっただ中。石黒さんは習い事の送迎に奔走していました。それぞれ、キッズダンス、ピアノ、新体操、サッカーに塾など3〜4個の習い事をしていたので、1日に10回以上車を運転することもあったといいます。
「送迎のために、車の免許を取った」という石黒さんは、なぜ多忙な中でも子どもたちに習い事をさせたかったのか。それは、オーディション番組で歌手デビューをした際、苦しい思いをした経験からでした。
「私は譜面が読めず、ダンスもできなかったので、他の人が寝ている間に一生懸命覚えました。誰もがタレントや歌手になるわけではないけど、習い事をやってできることが多い方が、子どもたちにとって将来が楽になるのではと思ったんです」
習い事に励んでいた当時について、今年子どもたちに聞いてみた石黒さん。すると、予想だにしない返答がありました。
「『別に、あんなに習い事したくなかった』って言われたんです。えーーー!!って叫んでしまいました。私は死に物狂いで送り迎えをしていたのに(笑)。『ママが(送迎するのが)うれしそうだったから、ちょっと言えなかった』って言われました」
良かれと思ってやっていたことが、本人たちに無理をさせてしまった面もあったことに気づいた石黒さん。それから、子どもたちと向き合おうと思い、一人ずつ話し合う時間を設けました。
息子とは3年ほど、会話の少ない時期もありました。高校生になったとき、思春期時代の気持ちを語ってくれたといいます。
「『なんか分かんないんだけど、ママが悪いとか、環境が悪いとかそういうんじゃなくて、ただ日常的にイライラしてた。その理由も分からなくて、ただ話したくなかった。その頃は、モヤモヤしていた』と当時は感じていたそうです」
子どもたちの本音を聞けてよかったと思う一方、当時は本心に気づいてあげられなくてごめんねと伝えることもできたといいます。
「メンタル弱め」と称する石黒さんのメンタルを気遣った3きょうだいは、小中高生時代にこんな会話も交わしていたそうです。
「私、メンタルが弱いんです。きょうだいから『この前、クソババアって言ったら、ママ泣いちゃったね』『ママって打たれ弱くね?』という話になったみたいで。ある時期から誰もきつい言葉を吐かなくなっていたと思っていたのですが、そういうことだったんだと合点がいきました」
子どもたちが思春期の頃は、「強くて何でもできるママ」を目指していたと石黒さんはいいます。
「夫(バンド『LUNA SEA(ルナシー)』ドラマーの真矢さん)は忙しかったので、一人でママ業もパパ業もやろうと思い、すごく気張っていました。でも、実際はそんなことはできなくて」
そして30代半ばの頃、「つらかったらママだって泣いてもいい」と思うようになりました。
そのきっかけとなったのは、夕食の時間にもピリピリ張り詰めた雰囲気が続いていた頃でした。
仕事の合間を縫って習い事の迎えをし、イライラしながら午後7時ごろに帰宅。
「温かい手作りのご飯を作ってあげないといけない」と思い、必死の形相で急いで料理を作り、自分は食卓にはつかずに、すぐに洗い物に取りかかるという毎日を送っていました。
「その時は本当に家庭内の雰囲気が悪かったです。そんなある時、子どもたちから『マジでデリバリーでもカップラーメンでもいいから、一緒に座ってニコニコしながら食べたい』って言われました。それを聞いた時、すぐには意味が分からなくて。それくらい余裕がなかったんです」
石黒さんが縛られていたのは「正しくて良いお母さん像」でした。当時、「ママタレント」という肩書きもあり、ブログでの発信にも力を入れていました。一生懸命に働いて、寝る時間を惜しんで毎日ご飯やお弁当作りをすることが「正しい」と思い込んでいたといいます。
「その状態は子どもたちにとって“いいお母さん”ではないのだと学びました。ずっと前から言いたかったんだろうけど、私がピリピリしていて、言えなかったんだと思います」
「ママはもっとラクしていいんだよ。その方がうちらも楽しい」と、突破口を開いてくれた子どもたち。また、子どもを産んだ時、夫の真矢さんには「私が子育てをしたい」と伝え、基本的に夫は仕事、石黒さんは家事・子育てを担うと決めていたといいます。
夫にその一連の話を伝えると、「俺もラクしていいと思う。子どもたちも大きくなって、もう外食だって行けるよ」と声をかけられ、肩の荷が下りたような気持ちになりました。
「その瞬間、すべてが変わりました」
それからは、子どもたちの前でも強がることなく、小中学生だった子どもたちに「ママは今とても悲しいからちょっとハグしてもらえる?」と言えるようになったと石黒さんは言います。
現在、長女は就職し、次女は大学に進学、長男は好きな音楽活動に勤しんでいます。
子どもの頃の習い事も、運動で体力がついたり、学校の行事でピアノを弾いたり……。これまでの経験が何らかの形で生きていると感じているようです。
「思春期の子どものいる皆さん、振り返ると思春期はほんの一瞬です。この子育ての時間を楽しんでくださいと伝えたいです」
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