連載
#14 小さく生まれた赤ちゃんたち
28週1730gで生まれた陸上・山縣亮太選手、誕生の話を聞き思うこと
「小さく生まれた子どもへ、伝えたいことは?」への答え
2021年に陸上男子100mの日本新記録を樹立し、活躍している山縣亮太さん(30)。実は1730gと小さく生まれました。日本ではおよそ10人に1人の赤ちゃんが、2500g未満の低出生体重児として生まれています。小さく生まれたことで困ったことや壁を感じたことはあったのでしょうか。(聞き手:withnews編集部・河原夏季、沼田千賀子)
筆者の1歳の息子も低出生体重児です。出産当時、不安に襲われながら検索する中で、小さく生まれた著名人の情報にたどり着きました。
その中の一人が、山縣亮太選手でした。
ただでさえ山縣選手のように日々の努力が実り、活躍する人はほんの一握り。しかし、子どもが小さく生まれて不安に押しつぶされそうな保護者にとって、その成長や活躍はひとつの「希望」となっています。
小さく生まれた赤ちゃんについて取材をする中で、「小さく生まれた本人に話を聞きたい」という声をたびたび耳にします。成長した低出生体重児の情報は、それほど多くありません。
低出生体重児と一口に言っても1000g未満から2500g未満と差があり、早産も妊娠22~36週と幅広いため、出産の状況やその後の成長は人それぞれです。
年間およそ20人に1人が早産で生まれますが、母親が何かをしたから早産になるわけではなく、予防法も確立していません。より早く小さく生まれるほど病気や障害のリスクは高くなり、医師からそんな説明を受けることもあります。
山縣選手は、小さく生まれてもみんなそれぞれ状況が違うことを前提としつつ、「小さく生まれた本人」としての思いを話してくれました。
体は小さくても、物心ついたときから外で遊ぶことが好きで元気だった山縣選手としては「へえ、大変だったんだ」と、本当にそれ以上でも以下でもないのだと思います。
答えづらい質問だとは思いつつ、前向きなメッセージを期待して「小さく生まれた子どもたちへ、伝えたいことはありますか?」と尋ねてみました。
すると、やや困った表情をしつつも考え、こう話してくれました。
「子どもはあくまでも『フラット』だと思うんですよ。自然に生まれて、育ってきていると思うから。僕の場合は『あなたは小さく生まれたからこういう風に生きなさい』という感じのことを言われなくて良かったと思っています」
「逆に小さく生まれた子たちに言うことってあるのかな? 言うことによって気にしてしまうかもしれない。そこは気が引けますね」
身を隠したいくらい恥ずかしくなりました。低出生体重児の親だからこそ、気にしすぎていた部分もあるかもしれません。
山縣選手のご両親は、不安だらけだったけれど心配しすぎず、そのときそのときで一生懸命に対応してきたそうです。
小さく生まれた事実は伝えても、「あえて具体的に話すことではないと思っていた」とも話してくれました。そこには、息子に心配をかけないようにという親心と、「亮太の活動にマイナスになったらどうしよう」という思いもあったそうです。
親の不安を子どもに感じさせず、息子の活動への影響も考えてサポートする。おおらかな姿勢や心の余裕を大切にしていきたいと思います。
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