ネットの話題
狂気の細やかさ!ゼンリン「47都道府県バッジ」で見せた本気の偏愛
〝境界線〟に込めた地図事業者の誇り
地図制作大手のゼンリン(本社・北九州市戸畑区)が手がけたグッズが、人々の度肝を抜いています。47都道府県の「外観」を、忠実に再現したピンバッジです。狂気すら感じられる仕上がりに、SNS上を中心に話題が沸騰。専門事業者の意地と誇りが詰まった商品の開発背景に迫りました。(withnews編集部・神戸郁人)
写っているのは、同日に取り扱いが始まった、各都道府県がモチーフのピンバッジです。添付画像には、人の横顔のごとき形をした山形県や、すらりとした動物の胴体とも解釈できそうな鳥取県など、4県分のものが写っています。
驚くべきは、その丹念な仕事ぶり。何と、市区町村の境目を表す線が、びっしりと刻み込まれているのです。地形に沿って複雑に分岐し、さながら血管や葉脈とも評すべき強烈なビジュアルは、見る者に忘れられない印象を残します。
「ゼンリンの本気を見た」「小さい頃、旅行先の土産店にあった都道府県型キーホルダーを思い出す」。ツイッター上では、そんな感想があちこちで躍(おど)り、当該のツイートに6千超の「いいね」もつきました。
「47都道府県ピンバッジ」発売開始!
— 株式会社ゼンリン (@ZENRIN_official) March 10, 2023
都道府県版のピンバッジつくってほしい...というたくさんのお声から、いよいよ商品化しました☺️
どどんと全都道府県分(!)本日発売です🗾
#47都道府県ピンバッジ pic.twitter.com/eCWNYHNXvt
こだわりあふれるアイテムは、どのような経緯から生まれたのでしょうか。造形や制作を担当した、ゼンリンのデザイナー・長縄樹里(ながなわ・じゅり)さんに話を聞きました。
ゼンリンでは、自社で保有する日本国内の地図データをあしらった、文具やバッグといった生活雑貨類を販売しています。「地図柄でいつもの暮らしを豊かに」というコンセプトがあり、ピンバッジもその延長線上に位置づけられるものです。
長縄さんによると、今回の商品には前日譚(たん)があります。2020年、日本列島の9つの地方ごとにかたどった「日本列島ピンバッジ」を売り出したことです。
「47都道府県のピンバッジの構想自体は、もっと以前からありました。ただ一つひとつ生産すると相当な量になってしまう。売れるかどうかの確証がない中、コストをかける踏ん切りが付かず、まずは地方別に作ってみようと考えたんです」
実際に販売してみると、列島の形につなぎ合わせられるという趣向も相まって、にわかに注文が殺到。SNS上では「自分が住んでいる都道府県のバッジも欲しい」という声が散見されました。こうして目標への一歩を踏み出したのです。
都道府県別のバッジを眺めてみると、その精巧さに目を見張ります。ギザギザとした海岸線や山の稜線(りょうせん)はもちろん、新潟県の佐渡島や粟島、長崎県の対馬や五島列島など、離島までデザインに落とし込まれているのです。
「ピンバッジなので、身につけられなければ魅力が半減してしまいます。そこで3センチ四方に収まる大きさとしました。その上で、各都道府県を象徴する離島については、海を隔てる形で再現しています」(長縄さん)
一方で東京都の小笠原諸島など、島嶼(とうしょ)部が広く点在している地域もあります。省略線を入れて表す案も浮上したものの、一般にイメージされる都道府県の形状を崩さず、利便性も保つ上で、やむなく割愛したケースも多いそうです。
そして極め付けが、SNS上をどよめかせた市区町村の境界線です。この意匠には、とりわけ強い思い入れがあるのだと、長縄さんは言葉に力を込めます。
「都道府県を切り出し、白地図のようにするなら、正直手書きベースでも実現できます。私たちゼンリンが手がける以上、やはり一工夫加えたい。いかに面白くできるか考えた結果、境界線を入れてみようかという話になりました」
最初の一個に選んだのが、179自治体を擁する北海道でした。それぞれの線が欠けずに全て刻まれているか。形状が変わっていないか――。外部の制作業者から届いた試作品を穴の空くほど観察しつつ、微調整を重ねたそうです。
「メロンを思わせる見た目で、業者の方も驚いていましたね(笑)。全体のシルエットを美しくするため、最終的に他の都府県よりもサイズアップしました。この体験に自信を得て、残りの分については、さほど苦労せず線を入れられました」
地図専門企業として持つ技術の粋を集めた、47都道府県ピンバッジ。発売から2週間近くが経ち、福島県や兵庫県など23県分が既に売り切れました(2023年3月22日時点)。時期は未定ですが、再入荷を検討中といいます。
長縄さんが強調するのは、今回の商品が、地図の面白さに気付くきっかけになって欲しいということです。
たとえば名刺大の台紙を見ると、01~47の数字が振られています。実はこれ、国が各都道府県に割り当てた「都道府県番号」なのです。地図にまつわるうんちくをちりばめ、奥深い地図の世界へと誘(いざな)う仕掛けになっています。
ちなみに「日本列島ピンバッジ」と異なり、それぞれの都道府県の縮尺がばらばらなため、つなぎ合わせて列島を再現することはかないません。反面で、ゆかりのある地域を選び出し、個別に愛(め)でるといった楽しみ方ができます。
過去に転勤などで赴任した土地や、故郷のバッジを手に取るもよし。気に入った形の都道府県のものを買うもよし。選び方、使い方には無限の可能性があります。その点を前提としつつ、長縄さんは次のようにも語りました。
「商品の作り手としては、バッジを通じてコミュニケーションが生まれる、という体験をして頂けたら大変うれしく思います。人と人をつなげる媒体となったならば、企画者冥利(みょうり)に尽きるというものです」
「地図が持つのは機能的な側面だけではありません。懐かしさや、『こんな場所に住みたい』といった憧れを引き出すなど、情緒を刺激してくれます。ぜひ実際に持ち寄り、わいわいと感想を述べ合い、盛り上がってもらいたいですね」
◇
「47都道府県ピンバッジ」はアンティークゴールド・アンティークシルバーの2色展開で、1個1100円(税込み)。ゼンリンのグッズ販売店「マップデザインギャラリー」の実店舗(福岡市中央区・北九州市小倉北区)と、公式ウェブショップ上で購入可能です。
1/192枚