結論から言うと、これは防衛省の防衛装備庁の「艦艇装備研究所」です。同省によると、船舶、船舶用機器、水中武器、音響器材、磁気器材、掃海器材についての考察、調査研究及び試験等を行っています。
同省担当者に話を聞きました。艦艇装備研究所は全国に複数の拠点があり、「目黒地区」はその一つです。他には神奈川県横須賀市の「久里浜地区」や山口県岩国市の「岩国海洋環境試験評価サテライト」、静岡県沼津市「大瀬実験所」など、主に海の近くに研究所があります。
ここで、目黒地区の長い屋根の建物の中にあるのは「大水槽」。船の模型を水槽に入れて走らせ、流体力学の面から性能を評価しています。この水槽は長さ247m、幅12.5m、深さ7m。国内でもっとも古い水槽です。
2019年に当時、防衛相に就任直後だった政治家の河野太郎さんが内部を視察。その一部始終を迅速にTwitterで“実況”したことでも注目されました。
では、なぜ海に接していない目黒に、艦艇の研究拠点があるのでしょうか。実は、この研究所は1930年に建設された海軍技術研究所の跡地にあります。大水槽などのいくつかの施設は、約90年後の現在まで引き継がれているものです。
疑問は残ります。なぜ、目黒に海軍の研究所があったのでしょうか。公式サイトの
『歴史を訪ねて 目黒火薬製造所』というページでこのエリアの歴史を紹介している目黒区を取材しました。
同ページには1857年に江戸幕府により目黒砲薬製造所が造られたとあります。このことを契機として、1879年に明治政府の火薬製造所ができたと考えられます。
再び防衛省によれば、その後、1930年に海軍の研究所の移転先となった、という経緯です。
元々は目ぼしい産業の乏しい「三田村」にあった江戸幕府の砲薬製造所、今は「一等地の住宅街」。艦艇装備研究所は、土地のイメージが時代により変化していくことの証左でもあります。