連載
#66 「きょうも回してる?」
スマートウォッチの画面が…?〝哲学的思考〟から抜け出せないガチャ
「スマートに身に着ける。ストーンをウォッチする」
円安が続く中、ものづくりメーカーの苦境が続いています。ガチャガチャ業界も例に漏れず……。そんな中でもオリジナリティーを遺憾なく発揮している商品があると、ガチャガチャ評論家のおまつさんがピックアップするのは、「ストーンウォッチ」。どんな商品なのか、おまつさんが開発者に聞きました。
現在、ガチャガチャ業界は、円安や新規参入メーカーの進出を受け、ブームが続いているとはいえ、古参のメーカーにとっては苦しい環境下になりつつあります。
そこで鍵を握るのはやはり「オリジナリティー」。逆に言えば、オリジナル商品を作るメーカーは、今以上にコストを意識しながら魅力あるものづくりをしていかなければ、生き残っていくのは難しい時代に突入しました。
オリジナル商品はメーカーの企画担当者やクリエイターの商品の熱がどこまで伝わるのかが、 醍醐味と言えます。
その「熱」がこれでもかと伝わってくるのが、 ブシロードクリエイティブのブランド『TAMA-KYU(たまきゅう)』から年末に発売された「ストーンウォッチ」です。
ストーンウォッチは、ekōD Works(以下、エコードワークス) のフクサワタカユキさんが企画したガチャガチャです。
スマートウォッチは、皆さんのご存じの通り、時計をはじめ、メール、健康管理など多機能を持つデバイスで、身に着けている人が多いですよね。しかし、ストーンウォッチは、違います。
商品ディスプレイのPOPに記載しているキャッチコピーで表現しているように、「スマートに身に着ける。ストーンをウォッチする。ただそれだけのローテクデバイス」です。つまり、時計ではなく「ストーン」。電子機器でもなく、時計機能もありません。ただ「ストーン」を身につける商品です(本物の石材ではなく、ストーン(石)をイメージした樹脂パーツ)。
ストーンウォッチ開発のきっかけについてフクサワさんに聞きました。
いわく、企画のアイデアを考える際に、フィギュアとして新しい造形を起こすのではなく、「世の中にあるもので、カプセルの中に入れたら面白いものは何か」という考えが浮かび、その観点からストーンウォッチが浮かんだそうです。
また、スマートウオッチに対する考えがユニークで面白い。
フクサワさんは、「スマートウォッチを身に着けて歩いている人は、ファッションとして、スマートでかっこいいですよね」としつつ、「スマートウォッチを着けている人はスマートに見えるけど、それはスマートウォッチを使いこなしている人でなく、スマートウォッチを的なものを腕に巻き付けている人がそう見えているのではないか」と疑問を投げかけます。
「つまり、スマートウォッチを着けている人がスマートに見える現象があるのでは。僕自身はスマートウォッチを着けませんが、やっぱりスマートウォッチを着けているという行為はかっこいいと思います。とはいえ、自分で何万円も払って買うかというと、買いません(笑)。あの見た目に対する憧れだけがありました」
そんな思いから 生まれたストーンウォッチ。たかがガチャガチャだからって、フクサワさんは手を抜きません。
ストーンウォッチのバンドの色まで自分で選択し、自分が納得する色が表現できるまで試したそうです。デザインも本物志向の仕上がりです。
それは、エコードワークスが持つコンセプト「ユーモラスな切り口で遊び心のある『愉快な無用品』を発明し続ける」があるからです。エコードワークスのオリジナル商品について、「商品の出し方によっては、しょーもないジョークグッズやギャグアイテムに捉えられかねないところを、デザイナーズブランドのような世界観や、コンセプトの作りこみをちゃんとしたクオリティーとディテールを作り込みます」とフクサワさん。
「400円のガチャガチャなんだから、400円クオリティーでいいかと言えば違います。回して出てきたものが、明らかに3〜4万円のものに見えたら、回したいと思いませんか?エコードワークスの名前を出している以上、エコードワークスとしてのクオリティーを保つようにしています」
ストーンウォッチの魅力について、フクサワさんは「確かに機能的か機能的ではないかというと、機能的ではないですね」と自嘲しつつ、ただ、ワンコインで、まるでスマートウォッチを着けている人のように、スマートな人間に見えて、スマートな装いを体験できてしまうところが魅力です。僕もストーンウォッチを着けていますが、スマートウォッチをつけている人として、見られている感覚がありますよ 」と笑って教えてくれました。
私たちの生活は通信機器の発達で生活が便利になりました。スマートウォッチも同様に便利なガジェット です。ただ、私もストーンウォッチを着けた瞬間、スマートな自分になった気分を味わえたと同時に、「その便利さは本当に必要なのか」 という哲学的な問いをしたくなってしまう。それが今回のストーンウォッチでした。
ストーンウォッチは1回400円。ブルーグレイ、カナリーイエロー、アイボリー、スカイグリーン、コーラルピンクの5種類
1/10枚