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連載

#9 Y2Kと平成

「Y2K」の流行、〝ジェンダーレス・リサイクル〟Z世代の高い意識

「平成レトロ」はコスプレ感覚?

2022年、Z世代の間で「Y2K(Year 2000 Kilo=2000年代)ファッション」が盛り上がりを見せていました=2000年
2022年、Z世代の間で「Y2K(Year 2000 Kilo=2000年代)ファッション」が盛り上がりを見せていました=2000年 出典: 朝日新聞

目次

2022年、Z世代の間で盛り上がりを見せていた「Y2K(Year 2000 Kilo=2000年代)ファッション」。ルーズソックス、厚底靴、へそ出し……懐かしさを感じるファッションがなぜ再びウケていたのでしょうか。世代・トレンド評論家の牛窪恵さんに話を聞くと、令和の時代、Z世代ならではの「らしさ」が関係していることがわかりました。

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ハッシュタグで広がった「Y2K」

ーーなぜ平成のファッションがリバイバルしたのでしょうか?

よく言われる理由は二つあります。一つは「ファッションのトレンドは20年周期で移り変わる」という業界の定説。2022年ですから、2000年頭くらいのものがリバイバルで戻ってきているということです。

もう一つはファッションに限らずですが、「昭和レトロ」「平成レトロ」ブームが数年前から顕著です。特に「平成レトロ」に関しては、「たまごっち」や厚底ブーツ、「写ルンです」などが、Z世代(一般に10代後半〜20代半ば)から見ると“エモかわいい”んですね。上の世代からすると、「平成がすでにレトロなのか!」という驚きもありました。

今回のY2Kブームに関しては、韓国や中国発の流れが大きいと思います。「BLACKPINK(ブルピン)」「BTS」といったK-POPアイドルや、中国美女(チャイボーグ)らの影響もあり、SNS上で「#(ハッシュダグ)Y2K」を付けて呟く流れができました。
 
ーーSNSから始まったのですね。

この2、3年、コロナ禍で移動が制限され、外に出られなくなったわけです。それまで多かったのは、旅行や映えるスポットに行って画像や動画を撮る、といった発信でしたが、それが家の中で楽しめることへと移ってきました。ファッションコーディネイトも、その一つです。

ネットの世界では「『ググる』から『タグる』時代」とも言われますが、タグを基に検索するケースも多いのが、Z世代の特徴です。2018年ごろからハッシュタグ文化が広がり、ファッションでもタグ付けが当たり前のことになっています。ハッシュタグをつけて皆が投稿し始めると、そのタグから探したほうが、グーグルで検索するより早いんです。

Z世代はSNS上で、インスピレーションを大切にします。「このテイスト、いいな」と思ったら、たとえ名前を知らなくてもフォローして、自分も似たテイストのファッションに近づけるなど。

私がZ世代に調査した際、彼らのスマホを見て「なんでこの人をフォローしているの?」と聞くと、「なんとなくファッションのテイストが好きだから」とか「好みが自分に似ているから」と返ってきました。「この人は歌手?モデル?一般人?」と聞くと「よく知りません」と。

インスタグラムでは画像にもタグをつけられるので、クリックすればどこのブランドの服かが分かることも多い。いまは、それを即ネットでも買える時代なので、誰かのスタイルをまねる、フォローしてその(よく知らない)人のファッションに近いものを選ぶといったことが浸透したのだと思います。
 
世代・トレンド評論家の牛窪恵さん=本人提供
世代・トレンド評論家の牛窪恵さん=本人提供

「コスプレ」感覚も

ーートレンドの採り入れ方は時代で違うのでしょうか?

バブルの時代までは、皆がマスメディア発信の同じようなブランドに憧れ、肩パッドやハマトラ、ニュートラ、ボディコンなど共通のトレンドがあり、ファッションの世界でも大量生産・大量消費が続いていました。
ところがバブルがはじけてからは、多少のトレンドはあっても、それぞれが「自分らしさ」や独自性を重視し始め、多様化が進みました。

また平成に入ると、「プチ個性」の時代が到来。「デコる(デコレーションする)」文化が普及しました。ファストファッションやユニクロをデコる、「ユニデコ」などがその象徴です。
「デコる」ことで差別化する背景には、「皆と同じスタイルは嫌、でも悪目立ちや大はずしはしたくないという思いがあるようです。

そして近年、Z世代は、テイストやニュアンスをまねることがあっても、全て同じブランドでそろえたり、上から下まで毎日ファストファッションだけで通したりする人は、少数派です。例えばデニムのパンツは、SNSでいいなと思ったちょっと高額なブランドを買って、トップスはGUやしまむらで似たような安いアイテムを見つけて買う、など。

Z世代は、SNSなどで自分の世界観を表現するのが得意で、多くが自分に合ったカラーやテイストにこだわります。ただし、それをどんなアイテムで表現するかは、ケースバイケースです。

「平成レトロ」のファッションも、いつもそのスタイルにこだわっているわけではなく、たとえば「今週は平成レトロでいこう」とか、友達どうしで「今日は「平成レトロ」で集合ね」と盛り上がるような、「なんちゃって」感覚が多い印象です。
 
ーーネタでやっているということでしょうか?

そうですね。コスプレのように、ネタとして楽しんでいる部分もあると思います。

いまはフリマアプリがあるので、平成初期にしか売っていなかったようなブランドも、メルカリなどで検索して簡単に買うことができます。アッという間に「平成レトロ」に変身できるんです。
 
ルーズソックスをはく女子高生=2008年
ルーズソックスをはく女子高生=2008年 出典: 朝日新聞

「平成レトロ」根底にSDGs

ーー「Y2K」など「平成レトロ」ブームへの関心は女性のほうが高いのでしょうか?

いつの時代もブームの火付け役は女性が多いのですが、20年前の平成初期と大きく違う点は「ジェンダーレス」が進んだ部分です。現代の平成レトロブームでは、女の子が男物のぶかぶかのシャツをミニスカで着こなしたり、男の子がぴたっとしたレディースのTシャツをローライズに合わせたりするのも特徴です。

昔は百貨店やショッピングセンターでは、レディースとメンズのフロアやエリアが分かれていましたが、近年はあえて分けない施設やショップも増えています。そもそもトレンドのテイストも似てきましたし、ブランド側もむしろジェンダーレスをアピールするほうが支持されるんですよね。Z世代は、ジェンダーレスに敏感なので。

SDGsの認知度アップも、ジェンダーレスファッションに貢献していると思います。男性がスカートのようなパンツをはいたり、女性と似たメイクをしたり、といった傾向も定着してきましたし、いまは制服や水着でさえ、男女どちらも選べるようにしようとの流れにあるほどです。
 
ーーはやっているものは平成でも、令和ならではの感覚なのですね。

そうですね。またZ世代は、社会貢献の意識がとくに強い世代です。ジェンダーレスのほか、いかに衣服ロス、衣料廃棄物を減らせるかにも注目しています。

フリマアプリもそうですが、着なくなった服をどうアレンジして今っぽく着るか。過去のものをなるべく生かしつつ、今っぽくおしゃれに着るテクニックが、間接的に循環を生み、ひいては地球環境に貢献する。そんな社会貢献欲求も、「平成レトロ」の根底にあると思います。
 
画像はイメージです
画像はイメージです 出典: Getty Images

価値観の多様化が進む

ーーこの「Y2K」ブームに関して、どのように受け止められていますか?

今回の流れは大人たちが仕掛けたブームではありません。少なくとも日本国内のブームは、Z世代自身がかつてのブームを、いかに自分たちらしくアレンジするか、またジェンダーレスや環境問題をも意識して、いかに古いモノを再生させるか、といったところに楽しみを見つけている気がします。

彼らは無意識のうちにも世の中の流れを感じとり、SNSのハッシュタグなどを通じて似たテイストの仲間を瞬時に見つけていく。そして仲間と共に、自分なりのテクニックやSDGs志向を披露し合い、どんどんアップデートしていく。そういう時代になったんだなと思います。

近年、アメリカではファッション系のサブスクリプションサービスが目覚ましい伸びを見せ、洋服を買わずに借りて返す人が急増したとされます。人気理由の一つは、お薦めを教えてくれる「スタイリスト」とつながりが持てることで、日本も似た方向に向かうでしょう。

今後AIが進化すれば、好みに合ったファッションを、AIがどんどん提案してくれるようになります。しかしZ世代の多くは「機械的なお薦めより生身の人間から、自分にぴったりのスタイルを教わりたい」「それを自分なりにアレンジして着こなしたい」との思いを持っています。

Z世代は「何々系」とカテゴライズするのが、とても難しい世代です。コロナ禍で彼らに関する本を書いたとき、事前に同世代134人にインタビューやアンケート調査を行なったのですが、「(身近な人以外で)憧れの人は?」と聞くと、134人中「2人以上」同じ回答がダブったのは、たった2人、すなわちイチローさんと大谷翔平選手しかいませんでした。

それほど価値観の多様化が進んだのが、令和の若者です。ひと口に「Y2K」ブームと言っても、かつての「渋谷系」や「ギャル系」とはニュアンスが大きく違うのです。
 

若者たちのニューノーマル: Z世代、コロナ禍を生きる
(牛窪恵著)

【連載】Y2Kと平成

いま流行している「Y2Kファッション」。街中でルーズソックスを履いている高校生を見かけることも珍しくありません。広い層に2000年代の出来事や空気感への興味・関心が高まったこの機会に、当時の世情を振り返り「現代社会」を考えます。

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