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「近くて尊い。それでいて温かい」間近で見えた渡辺徹さんの〝人柄〟

渡辺徹さん=2016年撮影
渡辺徹さん=2016年撮影 出典: 朝日新聞社

目次

今年11月28日、敗血症のため亡くなった俳優の渡辺徹さん(享年61)。刑事ドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)でデビューし、歌手としてもヒットを記録。バラエティーの司会でも活躍し、お茶の間の人気者となった。その活動は多岐に渡るが、根底にあったのは「役者」という意識だ。2020年10月に筆者がインタビューした記憶とともに、徹さんの足跡や人柄を振り返る。(ライター・鈴木旭)

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対面し、若々しさに驚いた

2020年10月某日、東京・信濃町にある名門劇団「文学座」の事務所へと向かった。俳優・渡辺徹さんにお会いするためだ。

筆者は、同年3月に新型コロナウイルスによる肺炎でコメディアン・志村けんさんが他界したことを受け、生前のエピソードを遺そうとあらゆる芸能事務所にできる限り企画書を送った。その中、快く引き受けてくれた一人が徹さんだった。

秋晴れの14時半に事務所を訪ねると、担当者から「こちらでお待ちください」とある一室に誘導される。徹さんは、仕事が押しているようで不在だった。それほど大きくはない、物の少ない室内。筆者と同席したカメラマンは淡々と準備に入っていた。

しばらくすると扉が開き、「いやいや、すみません。お待たせしました」と少しザラつきのある温かな声がした。振り向くと、徹さんだった。柔和な笑顔で頭を下げると、遅れた理由を、端的にかつ軽やかに説明してくださった。

背は高く、スマートな体形。綿素材と思しき紺色のスーツが似合っていて、とても60歳手前とは思えない若々しさだった。

新人時代のアイドル的人気

渡辺徹さん=1985年撮影
渡辺徹さん=1985年撮影 出典: 朝日新聞社

徹さんは茨城県古河市出身。1980年に文学座附属演劇研究所に入所し、1985年に文学座の座員となっている。

 

テレビドラマの出演は早かった。1981年に『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)のラガー刑事役でデビュー。正規座員になる前の新人時代に、当たり役を演じたことになる。ドラマではスマートな新人刑事だったが、実はオーディションで体形についての指摘があり、ダイエットして合格したようだ。

 

1982年には、「彼〈ライバル〉」(エピックソニー 現:エピックレコードジャパン)で歌手デビューを果たした。同年に発売された2ndシングル「約束」(同)は、グリコ「アーモンドチョコレート」のCMソングとなり累計50万枚以上の大ヒットを記録。若者から支持される俳優・歌手としてアイドル的な人気を博した。

 

1983年には、日本テレビで放送された映画『スター・ウォーズ』(日本では1978年公開)の主人公であるルーク・スカイウォーカーの吹き替えを担当。当時の人気ぶりがうかがえる。また、その温かな声色は、後に19年近くに渡って務めた『地球ドラマチック』(NHK Eテレ)のナレーションでも生かされた。

どんなことも笑って包んでくれる

座談会に出席し、趣味の将棋について語る渡辺徹さんら。(右から)田中寅彦九段、渡辺さん、先崎学六段=1997年8月、東京都内で
座談会に出席し、趣味の将棋について語る渡辺徹さんら。(右から)田中寅彦九段、渡辺さん、先崎学六段=1997年8月、東京都内で 出典: 朝日新聞社

一方で、バラエティーの世界でも活躍。とくに1980年代~90年代は、当時もっとも勢いのあった山田邦子さんとの共演が目立つ。

深夜番組『いきなり!フライデーナイト』(フジテレビ)から始まり、『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(同系列)、西川きよしさんの後を継いで司会を務めた『ビデオあなたが主役』や『邦子と徹のあんたが主役』(ともにテレビ朝日系・後続『必撮ビデオ!!あんたが主役』1996年終了)など、レギュラーだけでも数多い。

時代を感じさせるところでは、『スーパーマリオクラブ』(テレビ東京系・1990年~後続『マリオスクール』2001年終了)の司会者としても親しまれていた。当時、一世を風靡したスーパーファミコン用ソフトでゲーム対決をしたり、クイズを行ったりする内容で人気を博した子ども向けゲーム番組だ。

2020年12月に放送された『ゴッドタン』(テレビ東京系)の年末特番「第18回 芸人マジ歌選手権」の中で、バカリズム・升野英知さんが「僕らの世代はスーパーマリオクラブ(筆者注:を見ていた)」と口にしていたのを思い出す。

実際に披露したマジ歌は、升野さんがアニソン歌手に扮して徹さんをテーマにオリジナルヒーローソングを歌うというもの。スクリーンに徹さんの写真や劇画タッチの絵が映し出される中、「短めの茶髪は正義の証」「宇宙ベテラン俳優 渡辺徹(ナベトー)」といった、いかにもヒーロー然とした歌詞を歌い上げ見る者を笑わせた。

ヒーローソングと徹さんが合体するアイデアは実に“バカリズム”らしい。その根底には“テレビに出ている気さくなお兄さん”といった親しみやすさがあったはずだ。かくいう筆者も、何も考えず笑っていた。徹さんには、どんなことも笑って包んでくれる大らかなイメージがあった。

志村けんさんとの共通点

「ゲゲゲの女房」の稽古をする渡辺徹さん(左)と水野美紀さん=2011年9月14日
「ゲゲゲの女房」の稽古をする渡辺徹さん(左)と水野美紀さん=2011年9月14日 出典: 朝日新聞社

もう一つ、バラエティーにおける徹さんを語るうえで、ザ・ドリフターズのメンバーである志村けんさんの存在は外せない。

『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』(TBS系)や『志村けんのバカ殿様』(フジテレビ系)といった番組にゲスト出演し、『けんちゃんのオーマイゴッド』では演者として、『Shimura-X』(ともに同)シリーズではトークコーナーでレギュラーを務めた。

また、視聴者から募った投稿ビデオを紹介する『加トちゃんケンちゃん~』の「おもしろビデオコーナー」を土台に立ち上がった『ビデオあなたが主役』で司会を務めたことなども、何かと縁を感じる。

さらには、番組収録後の飲みの席で、後に志村さんが毎年開催することになる舞台「志村魂」につながる話をしていたり……と関係性も深かった。なぜここまで志村さんから信用されたのか。この件について徹さんはこう語っている。

「志村さんってエキスパートは好きでしたね。たとえば僕自身がいまだに劇団にいるってことをすごく評価してくださった。『芸能界でこれだけいろんなことをやっていて、俳優をやめたっていいはずなのに徹ちゃんはこだわりがあってやってる。そういう人間が好きだ』って言葉をいただいたことがあります。ということは、志村さん自身もそういう考え方だったんでしょうね」<拙著『志村けん論』(朝日新聞出版)より>

徹さんは、他界する直前まで舞台「今度は愛妻家 THIS TIME IT'S REAL」(今年10月、11月に上演)でバーのママ・文太役を演じた。生涯コントにこだわった志村さんは、同じく役者を軸に活動する徹さんにシンパシーを感じていたのだろう。

「近くて尊い。それでいて温かい」

取材を始めて40分が過ぎた。秋の日はつるべ落とし。先ほどまで明るかった事務所の一室は、みるみる暗くなっていった。

窓辺のブラインドの隙間からオレンジ色の夕陽がこぼれている。逆光となった徹さんはこちらに人差し指を向け、志村さんについてひたすら熱く、熱く語り続けてくれた。

間近で見た観察眼や演技力のすごさ、美術セットへのこだわりとスタッフとの独特な信頼関係、視聴者投稿のホームビデオで見られる動物や子どもの面白さが志村さんの芸に通じていること、志村さんから学んだことがお笑いライブ「徹☆座」で生きた話、古典落語やシェークスピアと志村さんが生み出すコントとの類似性など、興味深い話が次々と飛び出した。

こちらが負けじと質問すると、毎回想像を超えた言葉が返ってくる。その迫力と含蓄のある話に圧倒されるばかりだった。

インタビューも佳境に入り、少しだけ間が空く。「志村さんって、“近さ”を感じるんです」。筆者がそう言うと、「そう、うまい。近いんだよなぁ」と徹さんは大いに共感してくれた。そして、少しトーンを落としてこう続けた。

「今までいろんな人と共演させていただいて、それぞれに素敵な人がいたけど、志村さんは圧倒的に“近い”んですよね。近くて尊い。それでいて温かい。お笑いだからとかじゃなくて、ああいうスターっていないんですよ。はにかみ屋でとっつきにくそうな雰囲気に見える時もあるんだけど、温かいんだろうなぁ」(前述の『志村けん論』より)

徹さんが亡くなった後、妻の榊原郁恵さん、息子の渡辺雄太さんは、笑顔で記者会見を行った。お二人が語っていた「マヨネーズが好きだった」「周りを楽しませるのが好きだった」「(筆者注:夫婦げんかをしても)意見が食い違ったまま、あのことを進めるとか、そういうことはしなかった」といった言葉からも、十分過ぎるほど人柄が伝わってくる。

徹さんが志村さんに抱いていた思いは、ほとんどそのまま周りが徹さんに抱く思いと同じものだった。それだけに、多くの人たちが寂しさを感じたのだと思う。

個人的には、徹さんの「そう、うまい。近いんだよなぁ」という一言がなければ前述した拙著を書き上げることができなかった。志村さんの「何を特別に感じるのか」「何を知りたくて追っているのか」が曖昧だった中、「近さ」にあると気付けたのは徹さんの後押しがあってこそだ。

そのおかげで、曲がりなりにも一本筋の通った本にすることができた。この場を借りて感謝させていただきたい。そして志村さんと同様に、徹さんが天国で安らかに眠っていることを心より祈る。

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