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面白風味でも大まじめ「レコードっぽいテープ」に賭けた社運と野望

「売れなくて当然」それでも開発した理由

レコードそっくりなテープを開発した、とある老舗メーカー。切実な生産背景に迫りました。
レコードそっくりなテープを開発した、とある老舗メーカー。切実な生産背景に迫りました。 出典: 松浦産業提供

目次

荷物の包装・固定作業や、チアリーディングで手に持つ「ポンポン」作りに使われる、半透明のテープ。このほど新商品を開発した老舗メーカーが、香川県にあります。意外にも、レコードを模した外観です。一体、どんな理由から生まれたのか? 背景には世界情勢の変化に翻弄されながらも、自社の強みを活かそうともがく、職人の意地がありました。(withnews編集部・神戸郁人)

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レコード針を落とせそうな仕上がり

1932年創業の松浦産業(香川県善通寺市)。主に紙袋の持ち手用のひもを製造し、全国の製袋(せいたい)メーカーなどから高い支持を得るといった形で、確かなブランド力を発揮してきました。

同社が今年12月3日に発売したのが、真っ黒なテープ「レコードみたいなレコード巻」です。長さ500メートルのポリエチレン製で、同心円状に巻き取られており、中心部に穴が空いています。

そして穴の周りには、ローマ字の社名「MATSUURA SANGYO」と書かれたラベルが貼られています。オレンジと赤の2種類あり、テープが重なる部分が、さながらレコード針を落とすための溝のよう。音楽を流せそうな仕上がりです。

「レコードプレーヤーに乗せても決して音は鳴りません」。ラベル上のそんな注意書きを含めて、遊び心満載です。新鮮な驚きと、ひとさじのユーモアで、見る人を楽しませてくれます。

しかし開発の経緯を探ると、切実な事情が見えてきました。

テープを正面から見ると、本物のレコードのように見える。
テープを正面から見ると、本物のレコードのように見える。 出典: 松浦産業提供

エネルギー情勢の混迷がきっかけ

「青とかシルバーとか、様々なカラーでテープを試作してみたんです。最終的に黒にしようと決めるまで、試行錯誤を続けました」。そのように振り返るのは、松浦産業の松浦英樹副社長(50)です。

同社は1966年に、テープの製造を開始しました。ポリエチレンなどのプラスチックで作るのですが、これには2つの種類があります。石油由来のバージン原料と、工場から出る端材や市場から回収した資源を加工した再生原料です。

後者は前者と比べ、仕入れ値が比較的安価なため、支出削減に役立ちます。同社も従来、瀬戸内海沿岸に立地する再生原料メーカーと連携。ティッシュ箱の取り口に貼りつける、膜状のフィルム素材などからできた再生原料を使用してきました。

長らく安定的な供給量を保ってきたものの、2022年早々に想定外の出来事が起こります。2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻です。経済制裁の一環で、欧米を中心にロシア産原油の禁輸が決まるなど、原油をめぐる情勢は混迷しました。

プラスチックなど石油化学(石化)製品作りには、ナフサ(粗製ガソリン)という原油由来の基礎原料が欠かせません。上述の状況に加え、大幅な円安も災いし、ナフサの価格は急騰しました。日本は原油のほとんどを輸入に頼っているためです。

国内の石化製品の価格は、ナフサの平均輸入額をベースに、四半期ごとに算出される「国産ナフサ価格」を基準として決まります。2022年4~6月期には1キロリットルあたり8万6100円と、前年同期比で約1.8倍に上りました。

「原油と国産ナフサ価格の高騰に連動して、再生原料の値段や加工費も高くなりました。すると再生原料メーカーが、それまで提供してくれていた端材を、コストカットのため自社内で再生原料化し始めた。調達に影響が生じたんです」

テープを光にかざすと、他の類似商品同様、半透明であることがわかる。
テープを光にかざすと、他の類似商品同様、半透明であることがわかる。 出典: 松浦産業提供

原料の弱点を逆手に取り開発

こうした経緯から、松浦産業は、より安い再生原料の選定を余儀なくされます。様々な方途を尽くして入手したのが、シャンプーなどの保管に用いられるボトル・ブロー容器です。しかし過去に使ったことがなく、課題に直面しました。

ブロー容器の再生原料は性質上、黄色っぽい外観です。素材の色合いのままでテープに加工すると、黄ばんでいるように見えてしまいます。商品の印象に関わるため、別のカラーリングを考案する必要がありました。

3カ月ほどかけて検討する過程で、松浦さんは、ふとひらめきます。「黒なら色みが目立たない。レコードのような見た目にもなって、面白いんじゃないか」

テープはその形状から「レコード巻」と呼ばれる場合があります。由来として説得力十分です。さらに偶然も重なりました。実物のレコードの規格には直径5インチ(125ミリ)のものが存在します。松浦産業のテープも同じ大きさだったのです。

松浦さんによると、ラベル部分にQRコードを刻むといった形で、楽曲を再生できるようにしたい意向といいます。将来的に、歌手のコンサート会場などで販売されるグッズとしての取り扱いや、CDショップへの出荷を目指しているそうです。

バージン原料(左側)と、ウクライナ侵攻後に新たに調達した再生原料。後者は前者と比べて、黄色みが目立つ。
バージン原料(左側)と、ウクライナ侵攻後に新たに調達した再生原料。後者は前者と比べて、黄色みが目立つ。 出典: 松浦産業提供

興味の先に販促戦略があった

ただ、「今回の商品だけで収益を上げようとは、最初から思っていません。大規模に売れるわけがないし、それが当然です」と松浦さん。どういうことでしょう?

いわく「レコードみたいなレコード巻」は、自社製品への興味を喚起するための、いわば呼び水です。その先に、ぜひ多くの人々に知ってほしいテープがあるといいます。たとえば、昨年3月に発売した「来るなら濃いテープ」シリーズです。

カラーは濃いピンクと、ブルーの2種類。シカやイノシシを始めとした野生生物が嫌う配色で、牙や角に絡まりやすいという特長を備えます。そのため田畑の周辺に張り巡らせると、農作物の食害抑止に役立つそうです。

顔料と酸化防止剤の組み合わせや配合比率を工夫し、一般的なテープと比べて色あせにくく、長期間使える点も特筆点です。「既製品との差別化を図ろうと努めていたら、完成まで2年もかかってしまった」と松浦さんは笑います。

野生生物の食害対策を目指して開発された商品「来るなら濃いテープ」シリーズ。
野生生物の食害対策を目指して開発された商品「来るなら濃いテープ」シリーズ。 出典: 松浦産業提供

また今後、植物由来の生分解性プラスチックで作る、独自開発のテープも世に出す予定だといいます。樹木に巻きつけることで、クマが皮をはいで食べるのを防げる上、地面に落下後、土中のバクテリアにより分解される仕組みです。

事業上の阻害要因と向き合いつつ、新機軸を打ち出し続ける松浦さん。今後の展望に関しては、次のように語りました。

「弊社は今年、創業90周年を迎えました。しかし周囲を取り巻く状況は、これまでで最悪レベルと言っていい。だからデザインやネーミング、機能性でどこにも負けないものを作っています。その努力について知って頂けたらうれしいですね」

   ◇

「レコードみたいなレコード巻」は1個550円(税込)。「来るなら濃いテープ」は1個1200円(同)。共に松浦産業の公式ウェブショップなどで購入できます。

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