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〝ヒラヒラ〟で「気配」、筆談ボード…「しゅわハウス」はなぜできた

住まい探しの難しさの原因は

「しゅわハウス」の外観=東京・世田谷区
「しゅわハウス」の外観=東京・世田谷区

目次

健聴者とろう者が一緒に暮らすシェアハウスが東京・世田谷区にあります。22日に最終回を迎えるドラマ「silent」(フジテレビ)では、健聴者と中途失聴者の手話コミュニケーションの場面が多く描かれていましたが、このシェアハウスではどのようなコミュニケーションが行われているのでしょうか。聴覚障害者の住まい探しの困難さについても聞きました。

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「助け合える」シェアハウス

国産の杉の木の豊かな香りがただよう広々とした空間。板倉工法という木造建築の技術でつくられた「しゅわハウス」は、不動産業に精通する伊澤英雄さんがオーナーの物件です。入居者の定員は10人で、現在は20~30代の8人が入居。4人は健聴者、4人が聴覚に障害があります。

伊澤さんの次男(23)は生まれつき耳が聞こえないろう者です。物件のオーナーや仲介業者とのコミュニケーションのとりにくさなどから聴覚障害者の住まい探しが難しいということは、親同士のコミュニティーの中で見聞きしてきました。
「大家さんとしても『何かあったら』って考えますよね」と一定の理解を示しながらも、次男が高校生の頃から、「ろう者が暮らしやすい場所をつくりたい」という思いを持ち始めました。

3年ほど前にシェアハウスを建てるのに最適な土地を東京・世田谷区に見つけたことで「ろう者と健聴者が一緒に暮らす中で、何か困ったときに声を掛け合える環境をつくりたい」と、建設を始めました。

「シェアハウスはコミュニティーができるじゃないですか。例えば、もし震災があっても、健聴者に比べてろう者が得られる情報が少ない。でも、健聴者が一緒にいると情報を得られる。健聴者にとっても、普段出会わないろう者との関係ができる。何かあったときに助け合いができるのがシェアハウスじゃないでしょうか」

しゅわハウスの共用スペースに置かれた本の中には、手話にまつわるものも
しゅわハウスの共用スペースに置かれた本の中には、手話にまつわるものも

手話を覚える人、「気配」を知らせる人…

2020年の入居者募集当初は、木がふんだんに使われた住空間に魅力を感じた健聴者からの応募が殺到し、入居待ちの状態が続いていました。「ただ、そうなるとコンセプトとしては違う」と、いまは健聴者とろう者で入居者数のバランスがとれるよう調整しています。

しゅわハウスの共用スペースには、手話にまつわる本がさりげなく立てかけられていたり、大きなダイニングテーブルには、筆談用のボードが置かれたりしています。

ここに住む人たちには入居後、変化はあったのでしょうか。

「手話を覚えて、手話を使い出している健聴者の入居者もいますよ」と伊澤さん。
他にも、ろう者の背後からいきなり目の前に現れるのではなく、手をヒラヒラさせて自分がいることを伝えたりする配慮を、日常的にするようになったりしているといいます。服のすれる音や足音で「気配」を感じることが難しい聴覚障害者にとって、この「ヒラヒラ」は重要です。

ダイニングテーブルには筆談ボードがそっと置かれている
ダイニングテーブルには筆談ボードがそっと置かれている

国産材でつくった木造建築「社会性のある物件を」

新たなコミュニティーを生んでいる建物自体にも、多くのこだわりを詰め込んでいます。

不動産業や賃貸業を営んできた伊澤さんは、「利益重視の会話がすごく嫌だった」といい、年々「社会性のある物件で賃貸がしたい」という思いが募っていました。

そんな時、木造建築技術の一つである板倉工法に出会いました。「国産材を使うことで、荒れた山を生まない一助としたい」という思いから、部材は自ら栃木県と徳島県の木材を手配し、建設中は現場にはりついて見守るなど、「100年もたせたい」という伊澤さんの思いが詰まったシェアハウスが完成。

ただ、伊澤さんは、シェアハウスという形だけにこだわっているわけではなく、今後、最適な土地が見つかれば、ろう者だけの生活空間も含め、様々なバリエーションを考えたいといいます。

「ろう者はろう者だけで暮らしたいという人も、もちろんいると思う。それは健聴者だって同じ。そもそも一人で暮らしたいという人もいるだろうし。いろんな選択肢があっていいと思う」

ダイニングルームからの吹き抜け
ダイニングルームからの吹き抜け

家探し、会っても筆談なら…

聴覚障害がある人でも家探しがしやすくなるための一つの策として、伊澤さんは「電子契約がもっと普通に使えるようになればいい」と提案します。

家探しの際、対面での健聴者との細かなやりとりは聴覚障害者にとってもストレスになります。「会っても結局筆談になるのであれば、ネットを活用し、メールなどでのやりとりで賃貸契約ができれば、負担は軽くなると思う」

無理解や「余裕のなさ」が生む、家探しの困難さ

障害者に物件を仲介することもあるという、居住支援法人メイクホームグループ(東京)の代表取締役・石原幸一さんによると、聴覚障害のある人が入居を希望しても、仲介業者や物件のオーナーが敬遠する場合も多いといいます。

例えば、普段の連絡手段を電話にしているオーナーの場合、近隣で火災があったり、家賃の督促の際に電話での連絡ができないことを障壁に感じる人も。また、物件によっては、聴覚障害者本人は気にならない音について、周囲が騒音に感じてしまい、近隣トラブルになるリスクを回避したいという場合もあるそう。
「他にも、仲介業者が、物件選びの際の筆談などのやりとりに負担に感じることもあります」

メイクホームには年間1000件ほどの聴覚障害者からの相談がありますが、相談者が希望する物件にたどり着ける人の割合は半数程度だといいます。
「オーナーや不動産仲介・管理業者の障害への無理解や『余裕のなさ』が現状を生んでしまっている面もある」と石原さん。

「コミュニケーションとればリスク回避可能」

障害者や外国籍、生活保護利用者など、住まいを探しに難しさを抱える人に向けて、理解ある不動産業者を紹介するプロジェクトLIFULL HOME’S「FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)」を展開するライフルの 龔軼群(キョウ・イグン)さんは、「ユーザーの困り度合いはかなり高い」と話します。

フレンドリードアは3年前に始動したプロジェクトですが、ユーザー数は伸び続け、フレンドリードアを介しての問合せ率は通常の問い合わせよりも平均2~3倍ほど高くなるといいます。
「今後高齢者がどんどん増えていき、困り事を抱えた高齢者の住居問題に不動産業界も対応していかないといけなくなる」と指摘した上で、「聴覚障害は高齢者の耳の聞こえの問題とも近く、対応していかなくてはいけない」と話します。
龔さんは、「入居後のトラブルは現実にはそんなに多いわけではなく、コミュニケーションをしっかりとればリスクも回避できる。長く住んでくれる可能性も高く、オーナー側にメリットもある」と話します。

しゅわハウスの伊澤さんも、「もしトラブルがあったとしても、コミュニケーションで解決できればいいと思う」と話しています。

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