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ユーミンは時空を超える? 酒井順子さんが読み解く「50年」の魅力

キーワードは「除湿機能」「助手席感」「業の肯定」

NHKの紅白歌合戦で「やさしさに包まれたなら」を歌う松任谷由実さん=2018年12月31日午後10時46分、池田良撮影
NHKの紅白歌合戦で「やさしさに包まれたなら」を歌う松任谷由実さん=2018年12月31日午後10時46分、池田良撮影 出典: 朝日新聞

目次

今年デビュー50周年を迎えた松任⾕由実さん。時代を作った歌の本質には何があるのか。「ユーミンの罪」(講談社現代新書)の著者であるエッセイストの酒井順⼦さんは、ユーミンの⼤ファンでもあります。そのサウンドや歌詞の本質にあるものを「除湿機能」「助⼿席感」「業の肯定」という三つのキーワードから語ってくれました。(朝⽇新聞⽂化部・定塚遼)

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声質や音楽性が生んだ「除湿機能」

ユーミンの特徴として、まず酒井さんが挙げているのは「除湿機能」。酒井さんは著書の中で「逆演歌」などとも表現しています。

デビューした1972年の年間ナンバーワンヒットといえば、宮史郎とぴんからトリオ「⼥のみち」。端的に⾔えば「ド演歌」とも⾔えるこの歌は、300万枚を超える空前のヒットを記録しました。

歌詞も「私がささげた その⼈に あなただけよと すがって泣いた」というように、やはり演歌の王道と⾔えるような情念がこもった曲です。

この曲のような演歌が⾳楽シーンのメインストリームにいて、⼤衆に受け⼊れられていた時代に、そうした演歌的な情念を切り離していったのが、ユーミンだったと酒井さんは指摘します。切り離すとはどういうことでしょうか。
酒井順子(さかい・じゅんこ):1966年東京都生まれ。大学卒業後、広告会社を経て、エッセイストに。2003年刊行の「負け犬の遠吠え」がベストセラーとなり、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。2012年に雑誌「小説現代」で連載「文学としてのユーミン」を執筆し、その内容を2013年に「ユーミンの罪」(講談社現代新書)として刊行。近著に「ガラスの50代」(講談社)、「女人京都」(小学館)など
酒井順子(さかい・じゅんこ):1966年東京都生まれ。大学卒業後、広告会社を経て、エッセイストに。2003年刊行の「負け犬の遠吠え」がベストセラーとなり、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。2012年に雑誌「小説現代」で連載「文学としてのユーミン」を執筆し、その内容を2013年に「ユーミンの罪」(講談社現代新書)として刊行。近著に「ガラスの50代」(講談社)、「女人京都」(小学館)など 出典: 朝日新聞 2022年6月3日、山本裕之撮影
「海外の曲のような洗練されたサウンドだったことに加え、ユーミンの声質も関係しているような気がします。強弱をつけず、声に込める感情の量がいつも均等という部分が、都会的に感じられました。詩の内容はかなりの湿り気を含んでいても、そういった多重的な除湿機能によって、我々の耳にはカラッと届いたのだと思います」

たとえ恋に破れても、相手に泣いてすがったりせず、次の恋へと歩んでいく女性達が歌われたユーミンの歌。

そうした背景には晩婚化という時代の流れもあったと酒井さんは指摘します。

ユーミンがデビューした1972年の⼥性の平均初婚年齢は24.2歳でしたが、20年後の1992年には26歳に、そして2021年には29.5歳となっています。結婚をしないという選択肢も、当たり前になっていきました。

酒井さんは「恋愛というものが、何度も繰り返せる時代になった」と話します。

「かつては、女性は結婚して子供を産んで一人前とか、結婚までは処⼥でいなくてはならないといった規範が⽇本には根強くありましたが、ユーミンの歌はすでに、その部分は超越しています。恋愛は何度でも繰り返せるし、恋愛は必ず結婚に結びつけなくてもいいのだというスタンスの上に⽴っている歌だからこそ、昔の規範の尻尾をまだ持っている女性たちをも解放したのでは」
若者のスターでユーミンと呼ばれるシンガーソングライターの松任谷由実さん(当時31歳)=1985年7月15日
若者のスターでユーミンと呼ばれるシンガーソングライターの松任谷由実さん(当時31歳)=1985年7月15日 出典: 朝日新聞
きれいごとではないドロドロした感情をも歌にしたのも特徴的でした。

よく同時代で⽐較される中島みゆきさんもそうした楽曲を作りますが、ユーミンの「除湿」はそうしたところにもはたらき、中島みゆきさんと⽐べても乾燥しているように聴こえます。

「嫉妬や後悔など、女性の中に渦巻く⿊い感覚もよく、ユーミンはピックアップしています。『真珠のピアス』もそうですよね」

「この歌の主人公は、まもなく別れる彼のベッドの下に、⾃分の真珠のピアスを1個、置いていきます。すでに他の女性と付き合っている彼からしたら、それは爆弾のような存在なわけで、別の歌⼿がこのことを歌ったら怨念ソングになりそうです。でもユーミンが歌うと例の除湿機能が働いて、ベッドの下の一粒の真珠が、キラッと輝くかのよう。嫉妬という黒い感情が浄化されて真珠になったかのような」

急進的になりすぎない「助手席感」

続いて、酒井さんがユーミンを語る上でのキーワードとして挙げたのは「助⼿席感」です。

「ユーミンは⾃⽴した⼥性の象徴のようなイメージがありますが、80年代までの歌を聴いていると、男の⼈が車を運転して⼥の⼈が助⼿席にいる歌や、スポーツする男の⼈を⼥の⼦が遠くでじっと眺めている歌が目立ちます。主導権は男性が持っていて、それを横で見ているのが幸せ、といった感覚は、当時としては一般的なものでした」

『ノーサイド』だったら、ラグビーをする彼を客席で眺める⾃分。
『SURF&SNOW』だったら「サーフィンをする彼を浜辺で眺める私」のような――。

「こんなに素敵な彼と付き合っている私が素敵、といった⼼理状態が、当時の⼥性たちにはあった気がします。だからこそ、相手が乗っている車や学歴に対するこだわりが生じたのでは」

強い⼥性像、⾃由で新しい⼥性像を打ち出しつつも、急進的になり過ぎず、当時の⼀般的な価値観に合った、共感を呼ぶような女性像が見えてきます。

ある種の保守性を持ち合わせていたことは、⼤衆に広く受け⼊れられるために重要な要素だったのかもしれません。
日本武道館のコンサートでステージに立つ松任谷由実さん=1990年6月19日、東京都千代田区、古沢めぐみ撮影
日本武道館のコンサートでステージに立つ松任谷由実さん=1990年6月19日、東京都千代田区、古沢めぐみ撮影 出典: 朝日新聞

「業の肯定」で私たちをけしかけた

三つ⽬のキーワードは「業の肯定」。

かつて落語家の⽴川談志師匠は、「落語は⼈間の業の肯定だ」という有名な⾔葉を残しています。酒井さんは、ユーミンの⾳楽にもそうした部分があると感じています。

「『もっと素敵な恋愛をしたい』とか、『もっと楽しいことをしたい』とか、『きれいになりたい』『ちやほやされたい』など、若い女性はたくさんの煩悩を持っています。我々より上の世代の場合は、女の規範にのっとったまっとうな人生を歩むべく、親などからその煩悩を潰されるケースが多かったと思うのですが、ユーミンは全部肯定してくれた」

「歌はあくまでフィクションであるにもかかわらず、『こんな風に生きている女の子がいるなら、OKなのね』と思わせてくれたところに、実は罪深さがあると思うんですよ。それで、本を『ユーミンの罪』というタイトルにしたんです」

そうした楽曲は、今はやりの「そのままでいい」という現状肯定ソングとはちょっと違うようです。

「今の『そのままでいいんだよ』ソングの数々は、聴き手を真綿で優しくくるむような気遣いを感じるのですが、ユーミンは⼥性たちの⿐先にニンジンをぶらさげて、『もっと⾛れ、⾛れるはず』と、我々をけしかけてくれました」

「私たちは素直に、尻をたたかれていました。すごくすばらしいゴールが、⾛った先にはあるような気がして」
NHKの紅白歌合戦で「やさしさに包まれたなら」を歌う松任谷由実さん=2018年12月31日午後10時46分、池田良撮影
NHKの紅白歌合戦で「やさしさに包まれたなら」を歌う松任谷由実さん=2018年12月31日午後10時46分、池田良撮影 出典: 朝日新聞

永遠の命へ、ユーミンの挑戦

ユーミンは⾃分の楽曲が「詠み⼈知らず」になることを究極の⽬標として語っています。

12⽉初旬に記者がユーミンに取材でお会いしたときも、ご⾃⾝の曲は「1000年はわからないけど、100年は残ってほしい」と語っていました。

最近は「AI荒井由実」というプロジェクトで、AIによって荒井由実時代の歌声を再現する試みをしています。

2022年10⽉にリリースされた50周年記念ベストアルバム「ユーミン万歳!」には、松任⾕由実とAI荒井由実とのコラボ曲「Call me back」が収録されました。今年の紅⽩歌合戦でも、AI荒井由実と共演するそうです。

⾃⾝が⾁体的に死を迎えた後も、楽曲はAI荒井由実が歌い継ぎ、ライブや新曲を出していく。「ユーミン」に永遠の命を吹き込むという壮⼤なプロジェクトにみえます。

酒井さんはこう語ります。

「永遠の命や永遠の美を求める⼈は昔からいましたが、そういった野望は常に打ち砕かれてきました。そんな難題にあえて挑戦するところに、ユーミンの覚悟を感じます。堂々と永遠を求め、デビューから50年経った今も、美しさを保ちながら歌い続ける。その姿勢に、私もいまだに尻をたたかれている気分です」
2022年デビュー50周年を迎えた松任谷由実さんのメモリアルイベント・プレミアムコンテンツによる祝祭が開幕中です。松任谷由実さんの楽曲で、クリスマスの丸の内を彩る「Marunouchi Bright Christmas 2022 ~YUMING 50th BANZAI!~」が12月25日まで開催中。Spotifyと朝日新聞ポッドキャストは、「ユーミン: Artist CHRONICLE」を制作し配信しています。東京・六本木の東京シティビューでも展覧会「YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)」が2023年2月26日まで開かれています。

1:Marunouchi Bright Christmas 2022 ~YUMING 50th BANZAI!~
・開催期間:2022年11月10日(木)~12月25日(日)
・開催場所:丸ビル、新丸ビル、丸の内オアゾ他
・主  催:三菱地所株式会社
・共  催:株式会社朝日新聞社
・協  力:有限会社雲母社、株式会社ニッポン放送
・公式サイト:https://www.marunouchi.com/lp/brightchristmas2022/
 
2:Spotify|朝日新聞ポッドキャスト「ユーミン: Artist CHRONICLE」
・配信更新期間:2022年11月10日(木)から12月22日(木)まで全7回を配信。
※期間後も、配信音源をお楽しみいただけます。

・出演者:朝日新聞ポッドキャストチーフMC:神田大介、アートディレクター:森本千絵さん、エッセイスト:酒井順子さん、朝日新聞記者ら
・公式ページ:https://spotify.link/ArtistCHRONICLE_Yuming 
・朝日新聞特設ページ:https://www.asahi.com/special/podcasts/ 

3:東京シティビュー 「YUMING MUSEUM」(ユーミン・ミュージアム)
・展覧会名: YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)
(英語表記): 50th Anniversary Exhibition of Yumi Matsutoya “YUMING MUSEUM”
・会期: 2022年12月8日(木)~2023年2月26日(日) ※会期中無休
・開館時間: 10:00~22:00(最終入館21:00)
・会場: 東京シティビュー(東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
・主催: 東京シティビュー、朝日新聞社、NHKプロモーション
・企画協力: 雲母社
・協力: NHK
・グラフィック・デザイン: 森本千絵(goen°)
・会場構成: 阿部真理子(aabbé)
・公式サイト:https://yumingmuseum.jp/
 

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