「お宮参り」やった?
実は、私はこの言葉自体が初耳でした。私がやったこと、やったと聞かされた記憶もありません。
ベビー用品メーカーのCombiが2011年3月に実施したアンケート(回答合計数1062)によれば、お宮参りをしたことのない家庭は約10%。ベネッセ・たまひよが2020年11月に実施したアンケート(回答合計数4152)ではお宮参りに「行かない」家庭は10%以下でした。
回答するのがこうした行事に積極的な層だとしても、メジャーな行事ではあるよう。だとすると、自分が知らなかったことにびっくりします。
一方、妻は育児雑誌に書いてあって知り、親族から「やらないの?」と聞かれたこともあって、我が家ではすることになったという経緯です。元々は知らないか、忘れていても、子どもができるとあらためて知る機会があるとみることもできます。
私自身もいろいろと調べてみました。『妊娠・子育て用語辞典』(公益財団法人・母子衛生研究会発行)によれば、お宮参りとは以下のような風習。
<無事に出産したこと、そして赤ちゃんの健やかな成長を願い、初めて赤ちゃんと共に土地の守り神(氏神・うじがみ)様に参拝する儀礼。「初宮詣(はつみやもうで)」「産土神(うぶすなかみ)参り」とも言います。男の子は31日目、女の子は32日目とされますが、現代は赤ちゃんの健康やママの回復などを考え、日を選ぶのが一般的です。>
古くは父方の祖父母と父と子どもで行う行事だったようですが、うちの場合は、ちょうど妻の両親が孫の顔を見に来てくれるタイミングだったので、義父母と妻、私、子どもで、都内の有名な神社にお参りをすることに。ちなみに、祈祷料は約1万円でした。
そういえば、私は安産祈願のいわゆる「戌(いぬ)の日参り」も知りませんでした。妊娠して5カ月目などに赤ちゃんの無事成長を祈って腹帯を締め、安産を祈願する風習で、「多産でありながらお産が軽い」ことにあやかり、戌の日に行なうもの。この時の祈祷料は5000円程度でした。
関連して、お参りに同行してカメラマンが写真を撮影してくれるサービスなどもあり、その撮影料金は数万円〜といったところ。戌の日参りでは写真はスナップだけ、お宮参りのときは私が持っているカメラと三脚で撮影しました。
お参りは写真とともに大事な思い出になり、やってよかったこと。一方で、先ほどからお参りの祈祷料を付記している理由でもあるのですが、子育てにはこうした“オプション”にどこまで手を出すか、という悩みもついてまわります。
やってもいいし、やらなくてもいい。だとしたら何を、どれくらいのお金をかけてするのか。可愛い子どものため、できるだけのことはしたくなるからこそ、頭が痛い問題でもあります。
幅広い“オプション”
ここで、驚いたことに、おしり拭きには「おしり拭きウォーマー」という専用家電が存在するのです。値段は5000円前後と、「おしり拭きを温める」ためだけにこの家電を買うかどうか、悩ましいところです。
ウエットティッシュのようなパッケージになっている使い捨てのおしり拭き自体、つい数カ月前は見たことがありませんでした。それを温める家電を買うかどうか悩む今とのギャップにくらくらします。
他にも、赤ちゃんは自分で鼻をかめないため、「鼻吸い器」があると便利ですが(かつては親が口で吸っていたという話も聞きますが、もちろん衛生的ではありません)、これにも手動から電動まで幅広いラインナップがあります。
しかし、鼻が詰まっている場合は綿棒で取ってあげることもできるので、鼻吸い器自体、なくてもいいと言えばいいのです。
そもそも、すでに手放せないベビーカーでさえ、三輪か四輪か、生後1カ月からのA型を買うかレンタルにするか、7カ月からのB型はどうするか、オートブレーキ機能は必要か……と夫婦の議論は尽きませんでした。
首がすわればバウンサー、離乳食が始まればハイチェア、発達段階に応じた絵本やおもちゃと、子どもの成長に伴い無数の選択を迫られることになるわけです。
コリック(黄昏泣き)も始まり夫婦とも疲弊する中、予算を決め、商品の当たりをつけ、口コミを確認しーーお金とモノの置き場所には限りがあるので、「鼻吸い器は電動にしよう」「おしり拭きウォーマーはなくていい」と都度判断するのは意外と負担です。
【参考】赤ちゃんギャン泣き「コリック」「黄昏泣き」なぜ起きる?専門医に聞く イライラしても〝絶対NG〟な行為
こうした悩みに直面したとき頼りになるのは、周りで子育てをしている人の意見であることもしばしば。ネットには情報がたくさんありますが、多すぎて決め手に欠けるのです。そんなとき「XXさんの家はこうしたって」という情報は、最後の一押しになりやすいと感じます。
逆に言えば、子育ての悩みは子育ての当事者や経験者間で主に語られて、その外に出にくいということでもあります。当事者以外にとって、そうした情報は必要も、興味もないのだから、当然と言えば当然なのですが。
「知る人ぞ知る」子育て
そのことをあらためて感じさせられたのが、子どもの写真・動画共有アプリの「家族アルバム みてね」のニュースです。
2022年8月、同アプリの利用者数(iOS・Androidアプリとブラウザ版の登録者数の合計/海外を含む)が1500万人を突破したことが発表されました。実はサービス開始は2015年4月で、今年で7周年を迎えます。
提供するのは株式会社ミクシィ。同社によれば、国内の子どもを持つ親の約47%がみてねを利用しているとのこと。同社の決算説明会の資料を確認すると、国内だけのユーザー数でも約1000万人が利用しているようです。
もう一つのポイントは、孫の写真や動画を見るために、祖父母世代もこのアプリを使っていること。同社はこうして獲得した高齢者ユーザーに対しても「みてねみまもりGPS」「みてねコールドクター」が使用できるようにして、事業拡大を図っています。
一方で、こうして「ユーザー数の伸び」が注目されて経済やITのニュースになる、つまり子育て当事者以外にも広がると、サービス自体を「知らなかった」と驚く声がSNSに投稿されます。
国民の10人に1人が使っていても、当事者以外にはまだまだ知られていない。子育てにまつわることが「知ってる人は知ってる」情報になりつつあると言えるのではないでしょうか。
かく言う我が家もユーザーですが、このアプリの存在自体、私は子どもが生まれるつい数カ月前までは、まったく知らなかったのです。
今では妻が日常的に子どもの写真をアップして、義父母やきょうだいからのリアクションを楽しみにしているよう。「家族外に勝手に共有しない」などある程度のルールを事前に伝えておけば、離れて住む親族にも子どもの成長を見守ってもらえる、いいサービスだと感じます。
子育てを軸とした事業が拡大し、経済圏ができつつある。つい最近まで「知らなかった」側だった私にとっては、置いていかれていたようで、ちょっとショックでもありました。
昨今、当事者でない人が子育ての情報に接する機会は少なくなっているかもしれません。少子化が進む中、この傾向は、今後も加速していくと考えられます。
「子育ては大変」という漠然としたイメージだけでなく、「おしり拭きウォーマーと鼻吸い器のオプション」のように、具体的にどんな悩みがあるかがもっと知られることで、当事者でなくても子育てをよりリアルにシミュレーションできるようになることを願っています。
【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。