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連載

#11 コウエツさんのことばなし

職場の同僚、どう呼ぶ?ニックネーム、さん付け…ルールを決めた理由

「あだ名」を禁止する学校もあるけど…

歓迎式で迎えられる、ウェブマーケティング会社「フォノグラム」の新入社員
歓迎式で迎えられる、ウェブマーケティング会社「フォノグラム」の新入社員 出典: フォノグラム提供

目次

職場の人たちをどう呼んでいますか。○○さん? ○○君? ニックネーム? ルールを決めている会社もあります。えっ会社で? と驚く人がいるかもしれません。でも、実際に呼び方を決めている企業に聞いてみると、好評なようです。どんなルールなのか、なぜ決めているのか……。(朝日新聞校閲センター・本田隼人)

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好きな食べ物からニックネームも

ビフィ、ダンボ、おきょう……。こんな言葉で職場の人を呼んでいる会社があります。

ウェブマーケティングの「フォノグラム」(広島市)。ここでは、ニックネームで呼び合うことがルールです。

導入したのは2003年の会社設立から数カ月経ったころ。事業が軌道に乗り、新規採用を始めたのがきっかけです。

設立時からいる創業メンバーと、新たに採用した人の間に壁ができないように。そんな思いからでした。

フォノグラム社員のニックネーム。公式サイトで紹介されています=同社サイトから
フォノグラム社員のニックネーム。公式サイトで紹介されています=同社サイトから

仕事やプライベートについて「相談していいのかな?」と迷うことは多くの人にあると思います。

ニックネームはその壁を取り除くツール。「呼び方一つですが、心理的ハードルを越えやすくなっているよう。話しかけやすいという声が多い」。創業メンバーの河崎文江代表はこう話します。

命名のルールは他の人と重ならず、先輩社員がつけること。もちろん本人も納得して、楽しんでいます。

好きな食べ物や、期待する役割から名付けるケースが多いよう。

ちなみに河崎さんは「ハーチィ」。由来は、好物がギョーザ→その本場が中国→河崎を中国語読みするとハーチィ、というわけです。

冒頭に登場したビフィは、ビフィズス菌のように社内を整える力を発揮してほしい、という期待から。

ダンボは、愛用のヘッドホンから連想される大きな耳で話をよく聞く人に、という思いを込めて。

おきょうは、出身地が山口県でお酒好きなので、山口の地酒「五橋(ごきょう)」をもとに命名しています。

ずいぶん、くだけた印象も。先輩も本当にこれで呼ぶのだろうか? 半信半疑で尋ねてみると、「全員、ニックネームです」と河崎さん。

アイデア勝負の会社 意見出やすく

従業員が増え始めたころには、年齢やキャリアが多様になってきたこともあり、上司と部下の関係を気にして、少しだけ本音が言いづらい雰囲気が出てきたこともありました。

「私たちみたいな小さな会社はアイデア勝負。発言や意見を出すことに遠慮してほしくなかった」。ニックネームのみで呼び合うことを、これまで以上に徹底しました。

導入の効果もあってか、業績は増収を維持。「若手からアイデアや企画も多く生まれています」

緊張感が薄れ、仕事に「緩み」が生じないか尋ねると、「なぜニックネームが必要なのか、みんなが理解しているので問題はありません。デメリット? 挙げるとすれば、名前を二つ覚えないといけないことです」。

フォノグラム社員の名刺には本名とニックネームが併記されています=同社提供
フォノグラム社員の名刺には本名とニックネームが併記されています=同社提供

ニックネーム、あだ名をめぐっては、小学校などの教育現場で昨今、いじめ防止を理由に「禁止」する動きもあります。

しかし、フォノグラムでは互いの距離を縮める「潤滑油」として職場環境に良い影響を与えているようです。

「さんづけ」で実力主義を浸透

一方、IT企業ソースネクスト(東京都港区)は、社員同士のコミュニケーションでは「さん」をつけて呼ぶことをルールにしています。AI通訳機器「ポケトーク」の販売などで知られる、勢いのある会社です。

さんづけは1996年の会社設立時から。導入した背景には、創業者の松田憲幸会長のかつての体験があります。

以前勤めていた会社では、優秀でも一定の年齢にならないと役職に就けない「不文律」がありました。これに息苦しさを感じていた松田さんは、年齢にとらわれない実力主義を、設立した会社にとり入れました。

ソースネクストの小嶋智彰社長
ソースネクストの小嶋智彰社長

今では、呼び方はフラットな関係を象徴する重要な社内文化の一つ。小嶋智彰社長は会社の目標を達成するうえで「さんづけ以外は考えられない」と話すほどです。

社内では、昨年まで部下だった人が同じ役職になって、翌年には上司になることも。「呼び方によってある一定の上下関係ができてしまいます。日頃からさんづけで呼び合っていれば、役職の上下が入れ替わってもあまり違和感はありません」

「世界一エキサイティングな会社」がソースネクストのビジョンになっている=同社提供
「世界一エキサイティングな会社」がソースネクストのビジョンになっている=同社提供

実際、小嶋さんは入社5年目の28歳で執行役員に就任しています。若い役員が周囲にすんなり受け入れられたのでしょうか。

「すでに20代のマネジャーがいて部下は年上というのは普通でした」。さんづけをルール化し、年齢や社内年次にこだわらない社風が、受け入れやすくしたようです。

さんづけで呼ぶなかで、社員たちは丁寧な対応も心がけるように。「職場の雰囲気やモチベーションでも良い効果が得られています」

ソースネクストでは女性管理職の比率が高く、女性にも働きやすい職場を目指している=同社提供
ソースネクストでは女性管理職の比率が高く、女性にも働きやすい職場を目指している=同社提供

実力を重んじる姿勢は、女性が活躍できる職場にもつながっているようです。社内の女性管理職の割合は28.6%。国内平均の2.2倍で、女性の昇格にも積極的と言えます。

こうした、さんづけは他の企業でも。小売店「無印良品」を展開する良品計画は20年ほど前に導入し、現在では社内カルチャーとして定着しているそうです。

呼び方で会社の成長を後押し

学生時代の友人に職場での呼び名を聞いてみると、「さん」や「ちゃん」、「呼び捨て」などさまざまでした。

さんづけとニックネーム。呼び方のルールとしては異なりますが、目指しているのは同じです。

年齢や上下関係にこだわらず、自分の考えや意見を遠慮なく伝えられる……。そんな働きやすい職場で、クオリティーの高い仕事をしていくことです。

今回取材した企業は、もちろん他の取り組みもあるからこそ、こうした職場の環境を築けています。会社設立の早い段階からとり入れているだけあり、思い入れの強さを感じた呼び名。企業の成長をしっかり後押ししているようです。

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