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STU48、異例のロングヒット 「都会じゃなくてもアイドルになれる」
じわじわ広がった「平和を願う歌」
瀬戸内7県を中心に活動するアイドルグループ「STU48」が今年、結成から5周年を迎えました。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、4月に発売した8枚目の最新シングル「花は誰のもの?」が平和を訴える歌としてじわじわと人気を伸ばしています。中心メンバーの石田千穂さん(20)と中村舞さん(23)に、地元でアイドル活動をする意味や新曲に込める平和への思いを聞きました。
2017年3月に結成されたSTU48は、AKB48の国内姉妹グループとしては最も新しいグループです。
プロデューサーは秋元康さんですが、他の姉妹グループと違って拠点が1カ所ではありません。瀬戸内7県(兵庫、岡山、広島、山口、愛媛、香川、徳島)を公演して回っています。
もともとの「売り」は船の中に設けた劇場で行う「船上公演」でした。しかし2021年に「船上公演」は終了。
実はこのほかにも、2018年の西日本豪雨によるシングルの発売延期やコロナ禍による5周年コンサートの中止(7月に振り替え実施)など、苦難の連続でした。
それでも1期生の石田千穂さんは「正直、逆境が多かった。でもそれを乗り越えて、今は歌番組などに出させてもらえるようになった。全部意味があった」と前向きです。
結成メンバーである石田さんは広島県の出身。昔からAKB48が好きで、地元に姉妹グループができると知って「絶対に入りたい」とオーディションを受けたそうです。
2018年1月のオーディションを経て加入した愛媛県出身の中村舞さんも、中学生のころからAKB48などのオーディションを受けていたそうです。
アイドルの世界に入ることができたのは、高校3年生の冬でした。追い続けた長年の夢がかないました。
ともにAKB48という東京を拠点にする国民的アイドルグループに憧れを持ちながら、自ら選んだのは地元を拠点とするグループでした。
中村さんは「生まれ育った土地で、家族にも直接応援してもらえるし恩返しができる。これは地元ならでは」と幸せをかみしめるように言います。
「小さいころは、東京や都会に行かないとアイドルになれないと思っていた」と石田さん。
「実際に地元でアイドルになった自分の姿を見て、子どもたちが『都会じゃなくてもアイドルになれる』という気持ちになってくれたらうれしい」と話します。
「地元アイドル」としての役割について、2人は「地域の発信」と口をそろえます。
中村さんは「とにかく海産物がおいしい」、石田さんは「食べ物以外にも、広島だったら『熊野筆』が有名なんですよ」とアピールし、「10年以上住んでいるからわかる魅力を発信していきたい」と話します。
そんな地域愛の強い2人は最新シングルの「花は誰のもの?」で、瀧野由美子さん(25)とともにセンターを担います。
3人が交互にセンターを務める「トライアングルセンター」という珍しい試みです。
♪もしこの世界から 国境が消えたら争うことなんかなくなるのに…
こんな歌い出しで始まる「花は誰のもの?」。作詞はグループのプロデューサーである秋元さん、作曲は元チェッカーズの鶴久政治さんです。
世界平和を願うメッセージソングとして有線放送や動画サイトでじわじわと人気を伸ばしています。
発売から5カ月たった9月21日付の「週間 USEN HIT J-POPランキング」では4位に再浮上しました。
ひょっとしたら、STU48を知らない人でも、そのメロディーや歌詞に聞き覚えがあるかもしれません。
地元が被爆地で、幼いころから戦争や被爆の体験談を聞いてきたという石田さんは「平和への願いは、STU48だからこそ伝えられるメッセージだと思う」と話します。
ミュージックビデオの撮影中に歌詞を知り、「この曲をたくさんの人に届けたい。日本だけではなく、海外の人にもこの曲を伝えたい」と思ったそうです。
クラシックバレエを続けてきた中村さんは、「バレエ大国」であるロシアとウクライナによる交戦に胸を痛めます。
「この曲をもらって、戦争について考える機会が増えた。誰もが争いたくて争うわけじゃない。そういう背景やそこに住む人たちの感情にも思いを寄せながら、この曲を歌いたい」と話します。
このロングヒットで、歌番組への出演も増えました。
9月にはテレビ朝日の「ミュージックステーション」に初めて出演。控室に入ったところ、出演者にしか配られないという番組のティッシュペーパーボックスが人数分置かれていて、感激したそうです。
「このチャンスを無駄にしたくない」と石田さんは言います。
年末の紅白歌合戦やレコード大賞に出演してSTU48の存在を全国に知ってもらい、「もっと大きなグループになりたい」と力を込めます。中村さんも「日本全国をライブで回って、瀬戸内を広めたい」と今後の活動への思いを口にしました。
2人に共通する思いは「瀬戸内の魅力を全国に発信する」という、グループの存在意義そのものでした。
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