マンガ
ある日冷たくなっていた愛猫…生前の記憶、漫画に描き考えたこと
「別れは寂しい。でも…」作者のメッセージ
いつもくつろいでいる場所で、愛猫が冷たくなっていた……。大切な家族を見送るまでの日々を描いたエッセー漫画が、ツイッター上で話題です。作者に話を聞くと、記憶を整理したことで、心に浮かんだ思いがあると語りました。(withnews編集部・神戸郁人)
9月26日、「そよちゃん」と題された11ページの漫画がツイートされました。
タイトルの「そよちゃん」とは、猫の名前です。「ぼくの心のだいじなところに ずっと棲(す)みついている」。作品は、かつてそよちゃんと暮らした、主人公の独白から始まります。
そよちゃんは保護猫でした。へその緒がついた状態で、デパートのごみ箱に捨てられているのを、ある人物がもらい受けたのです。それから6年が経ち、飼い主と付き合い、同棲(どうせい)し始めた主人公と出会います。
身体が大きく、食べることが大好き。ご飯がなくなると、主人公を追いかけ回す場面もありました。猫嫌いな主人公でしたが、身の回りの世話を続けながら、段々心を通わせ合えるようになっていきます。
主人公が寝そべっていると、そよちゃんがやってきて、お腹の上で香箱座り(両脚をたたみ、箱のような格好で身を落ち着ける姿勢)をしました。そのまま上着のボタンを閉じて、互いのぬくもりを確かめ合うのがお気に入りだったのです。
そよちゃんへの思い入れが強まるほどに、主人公の中で、喪うことへの恐れが膨らんでいきます。不安を振り払うように、猫との別れがテーマの漫画を描くなどして、気を紛らわせました。
しかし、老いは容赦なく、そよちゃんのもとを訪れます。「死ぬときはきっと ぼくか恋人が抱いて その瞬間を見つめているんだ」。できることが減っていくさまを目の当たりにして、主人公は別れのときを思い、涙するのです。
そして2021年の夏、そよちゃんは静かに天寿を全うしました。6歳の頃に出会い、16歳で逝った愛猫。「この10年は夏の日差しのようにきらきらしていた」「うつくしくて痛くてかなしくてうるさい10年」。主人公は、そう追想します。
そよちゃん亡き後、主人公は3匹の猫に囲まれて、騒がしい日々を過ごしています。それでもなお、一瞬たりとも、そよちゃんを忘れたことはない――。そんなせりふに続き、感謝の言葉で、漫画は締めくくられるのです。
「ぼくを愛してくれて ありがとう そよちゃん」
「気持ちが分かりすぎて心が痛い」「そよちゃんが大切なご主人の住む場所で亡くなることができて良かった」。ツイートにはあまたの感想が連なり、1.4万超の「いいね」もつきました。
デパートのごみ箱の中から見つかった、小さなメスの子猫。発見当時、他のきょうだい猫と共に、ビニール袋に入れられていたそうです。電気さんの恋人が、そのうちの一匹を引き取り、そよ風にちなみ「そよ」と名付けました。
「顔がキジ色で、身体はサビ柄でした。目は緑色の星雲のように美しくて、とても繊細な性格だった。初対面の人には攻撃的でしたが、仲良くなると、悲しんでいるときに寄り添ってくれる優しい子でした」
そよちゃんとの関係は、始めから順調だったわけではありません。電気さん自身、猫への苦手意識を持っていたからです。子どもの頃、友人の飼い猫から、頻繁に引っかかれたり飛びかかられたりして、恐怖心を抱いたことが原因でした。
当初は「なるべく関わらないようにしていた」ものの、3カ月ほど共同生活を続けると、心境が変わってきたといいます。
「猫にもちゃんと気持ちがあり、生きている。ご飯を食べる様子などを眺めていると、そんな当たり前のことに気付きました。そよちゃんのためになることがしたいと思うようになり、トイレ掃除などをするうち仲を深めました」
心を開いたそよちゃんは、愛らしいしぐさをたくさん見せてくれました。
冬場に足をこたつに突っ込み、クッションにもたれかかっていると、お腹の上に乗ってくる。後ろから抱きしめたまま、昼間まで眠る……。いつの間にか、そよちゃんはかけがえのない家族になっていました。
ずっと、一緒に生きたい。強く願った電気さんですが、現実は非情でした。人間以上の速度で老いゆく様子を、間近で見守るしかなかったのです。
「高いところに登ったり、走ったりしなくなって、おばあちゃんになったことに気づきました。少しでも元気でいて欲しくて、毎日身体のあちこちをなでたり、何とか遊ばせようとしたり。死の気配にあらがっていました」
電気さんいわく、そよちゃんには持病があり、他の猫ほど長生きできないことを理解していたといいます。それでも、飼い主より早く死んでしまうという運命の重さは、耐えがたいものでした。
猫に寿命をわける話(1/3) pic.twitter.com/NpxRYCoA1o
— 電気こうたろう (@gurigurisun) June 14, 2018
電気さんが備えてきた、別離のとき。その瞬間は、突然やってきました。
「昨年8月1日、カラッと晴れた正午過ぎのことです。ご飯をたくさん食べたそよちゃんは、一度中庭に出た後、部屋の中に戻ってきました。しばらく目を離していたら、いつも身を置いている場所で冷たくなっていたんです」
自分の子どものように思ってきた愛猫が、息を引き取ってしまった。その悲しみの深さはひとしおです。死から一年以上が経った今も、そよちゃんのことを話したり、漫画に描いたりすると、涙が出て声が震えるといいます。
しかし今回の作品の公開後、読者から共感の声が寄せられたことで、少しだけ喪失を受け入れられたと話しました。そして様々な反応に触れる中で、こうも考えたそうです。
「(大切な家族との)別れは寂しい。けれど、いつまでも寂しいままで、悲しいままでいてもいい。そう思います」
電気さんは現在、縁あって迎え入れた、3匹の元野良猫と暮らしています。それぞれに愛情を注ぎつつ、そよちゃんを思う日々。亡き家族への思いを改めて尋ねると、次のように答えてくれました。
「自分の中で輝き続ける、太陽だと思っています」
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