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「罰ゲーム」「ドッキリ」の今 〝制限〟が生む笑いの構造

テレビの「罰ゲーム」「ドッキリ」には逆風が吹くが……。※画像はイメージ
テレビの「罰ゲーム」「ドッキリ」には逆風が吹くが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

バラエティー番組における「罰ゲーム」「ドッキリ」の在り方が見直されるようになって久しい。数々の名物企画を世に放ってきた代表的な番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)や『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などでは、最近になってさまざまな動きがあった。「罰ゲーム」「ドッキリ」のこれまでと現在から、今後を考える。(ライター・鈴木旭)
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「ルール」「制限」で笑いが生まれる構造

『ダウンタウンDX』1000回の記者会見をしたダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功=東京都世田谷区、2016年9月8日撮影
『ダウンタウンDX』1000回の記者会見をしたダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功=東京都世田谷区、2016年9月8日撮影 出典: 朝日新聞社
近年のバラエティー番組における「罰ゲーム」企画の代表例として、誰もが思い浮かべるのは「笑ってはいけないシリーズ」だろう。日本テレビ系の年末特番として2020年まで15年間にわたり放送されたが、21年は休止。22年についても夏ごろから今に至るまでその放送の有無がニュースになるなどして取り沙汰されている。

この「笑ってはいけないシリーズ」、メジャー化に伴い、もともと『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)の一企画だったことを知らない人も増えてきた。

そんな中、9月4日、11日の同番組で、これまでの「対決&罰ゲームの歴史」を振り返る特別企画が放送された。ちょうど松本人志の誕生日が近く、コンビ40周年を記念したものだ。懐かしい映像が流れた感慨深さと同時に、改めて番組企画の秀逸さを感じることになった。

例えば2002年に行われた「ノーリアクションパイ地獄」。松本人志がナレーション通りに日常生活を送る中で、ことあるごとにパイを投げつけられるという内容である。この企画のポイントは、そんな状況下で松本以外のレギュラーメンバー4人の存在を無視し、ノーリアクションでいなければならないことだ。

ある特定のルール、制限を設けることで笑いを亢進させる作り方は、松本および同番組企画の大きな特徴でもある。また、「パイ地獄」と「24時間耐久鬼ごっこ」といった罰ゲーム企画が結びつき、後の「笑ってはいけないシリーズ」へとつながっていくのも実に興味深い。

他方、「パイ地獄」は、この笑いの構造に基づいた系譜とも呼べるさまざまな他番組の企画に影響を与えている。例えば2015年4月~2017年3月までレギュラー放送されていたバナナマンとバカリズムの番組『そんなバカなマン』(フジテレビ系)の企画「ノーリアクション柔道」。「ビンタ、くしゃみ、色仕掛けなどに屈せず、いかにノーリアクションでいられるか」を競う企画だ。

現在、YouTubeを見渡せば、若いYouTuberたちの「ノーリアクション系」企画の動画を多数見つけることができる。このように、『ガキの使い』で提示された新たな笑いの構造は、時代やメディアを超えて今もなお影響を与え続けている。

ドキュメンタリーチックな際どい企画

もう一つ、松本の「笑いの構造」を引き継ぐ実験的な番組と言えば、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)になるだろう。

とくに『ガキの使い』と近いニュアンスを感じるのが、ドキュメンタリーチックな際どい企画だ。今年8月24日に『水曜日~』で放送された「事務所が痛みを伴う罰ゲームのために『特別な訓練』の講習を開催しても昨今の状況なら受け入れちゃう説」は、その真骨頂とも言える企画だった。

コンプライアンス重視が叫ばれる昨今、少々大げさとはいえ「罰ゲーム講習会」なるものがあっても半信半疑にならざるを得ない。番組では、これを受け入れた複数の芸人に講習と耐性検査を実施。パンサー・尾形貴弘が表情を歪ませながら、「アツアツおでん」「わさび」「電流」と耐性検査をクリアし、「免許」を得て喜ぶ姿は滑稽さを超えて感心してしまうほどだった。

この企画にはさまざまなことを考えさせられた。「罰ゲーム」というものがテレビを通して広く一般に認知され、今や「その講習を受けるドッキリ」が成立してしまうほどになった。それほどポピュラーな企画となった半面で、「痛みを伴う笑い」を制限しようとする流れへの批評的なユーモアとも受け取れる。

ここで重要なのは、テレビにおける「罰ゲーム」「ドッキリ」がプロの出演者によって行われていることだ。事前なのか事後なのか視聴者にはわからないものの、受ける側・仕掛ける側は何らかの契約や合意に基づき、収録に参加していることが前提になる。

難しいのが、それを視聴者に勘付かれてしまうと、笑いが成立しないということだ。罰ゲームやドッキリは、仕掛けられた出演者の素の(または、そう見えるような)リアクションが肝であり、それゆえに非常に企画の線引きが難しい。

実際問題として、罰ゲームには、危険を伴うものが多い。逆に言えば、痛そうに感じたり危険に見えたりするからこそ視聴者は笑ってしまう。大事なのは、この“危険に見える”という点で、実際に危なければ視聴者は引いてしまうし、明らかに安全だとわかれば興味を失ってしまう。その意味で、ダチョウ倶楽部・上島竜兵や出川哲朗は、体を張った企画を「安心して見られる」芸にまで昇華した逸材と言える。

しかし、過去には過激な企画で大ケガをしたタレントもいる。ここ最近の『水曜日~』では、おいでやす小田が狭い場所に閉じ込められた際に閉所恐怖症である可能性が発覚、その見せ方や企画に対する批判の声も上がった。

罰ゲームやドッキリを巡る問題は、時代によっても感覚が違ってくるだろう。昨今、そもそも「ひどい目にあっている人を見て笑えない」という意見も聞かれる。プロの出演者による“テレビショー”だとしても、「そもそも面白くない」という意見だ。これが多数派となれば、罰ゲームやドッキリは今後、テレビから本当に消えてしまうかもしれない。
 

テレビ史初期のドッキリから現在に至るまで

『ガキの使い』と『水曜日~』は、こうした時代をたくましく生き抜いているように見える。いずれの番組も共通するのは、仮の企画をたっぷりと行ってターゲットを混乱させる点だ。罰ゲームやドッキリそれ自体で笑わせるというより、まるで芸人を使った実験のごとく、芸人同士の関係性を企画に擦り込ませてリアルな状況を作り込んでいく。

『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)でも芸人のキャラクターにスポットを当てた際どい企画があるが、初期の看板企画と言えば恋愛ドッキリの「ブラックメール」だった。その意味で、本来持っている番組カラーは別物という印象が強い。

バラエティー史を振り返ると、ドッキリ系の番組は『元祖どっきりカメラ』(日本テレビ系)や『スターどっきり(秘)報告』(フジテレビ系)などが放送された1970年代~1980年代に隆盛を極めている。

しかし、そこにあったのは「スターがどんな反応を示すか」という興味だ。当時の視聴者にとって芸能人は、今以上に手の届かないミステリアスな存在。だからこそ、芸能界のスターがドッキリを受けるというだけで刺激的だったに違いない。

日本が高度経済成長からバブル期へと向かっていく景気の良さもドッキリ人気を後押ししたのだろう。1985年4月にスタートした『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系・1996年10月終了)では、寝起きドッキリの進化版「早朝バズーカ」や突如として日常風景に100人が押し寄せる「100人隊」など過激なものへと変化していく。

またスターというよりも、味のあるタレントや面白い素人にスポットが当たるようになり、ドッキリの臨場感そのものが押し出されるようになった。さらには1989年に特番『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(同)がスタートすると、罰ゲームやドッキリを含めて若手芸人が体を張るコーナーが中心となり、「リアクション芸人」という言葉まで生まれている。

こうした流れが、体を張った企画と芸人の結びつきを強くし、『ガキの使い』や『電波少年』へと引き継がれたことは想像に難くない。『水曜日~』はこのあたりのニュアンスを継承しつつ、サブカルやアカデミックな要素を含んだ番組だと考えられる。

実は微妙に軌道修正したダウンタウン

ダウンタウン=東京都新宿区、1996年5月15日撮影
ダウンタウン=東京都新宿区、1996年5月15日撮影 出典: 朝日新聞社
これまでに何度も新しい笑いを世に提示してきたダウンタウン。かつての若者は彼らの先進的な笑いに胸躍らせ、今は家族で番組を見ながら笑うようになった。ダウンタウンを見て芸人を志した者も数知れず、いまだ業界内外で圧倒的な支持を誇っている。

しかし、彼らは若手時代の“攻めた芸風”をそのまま貫いているわけではない。根底にある持ち味は変えぬまま、時代とともに微妙に軌道修正を図っているのだ。2013年に『爆笑 大日本アカン警察』(フジテレビ系)、14年に『100秒博士アカデミー』(TBS系)が終了した時期には、ネット上で「ダウンタウンは終わった」というネガティブな声も見られた。

そして、そんな矢先に始まったのが『100秒博士アカデミー』の後続番組『水曜日~』(放送日は火曜から水曜へ移動)だった。それまではダウンタウンが番組を仕切り、後輩芸人たちをぞんざいに扱って笑わせるパターンも少なくなかった。しかし、『水曜日~』では番組側が少々意地の悪い企画を用意し、ダウンタウンが行き過ぎたVTRやナレーションにツッコむ役回りとなった。つまり、視聴者目線のコメントを担うようになったのだ。

「罰ゲーム講習会」のような企画は、ダウンタウン・松本の率直なリアクションがあるからこそ成立すると言っても良いだろう。かつて『ガキの使い』では、「山崎VSモリマン」といったプロレス形式の対決ものや浜田雅功がレギュラーメンバーにブチ切れるドッキリなど、見ていてハラハラするような企画も多かった。そんな彼らが“止めに入る”ことによって、ある種の担保となっているに違いない。

コンプライアンスが重視される昨今、とくにバラエティー番組はあらゆる策を講じて企画を考えなければならなくなった。苦しい状況と言えるが、これを転機として新たなコンテンツが生まれるかもしれない。ダウンタウンが「笑ってはいけないシリーズ」を生み出したように、制限が設けられたことでバラエティーに画期的なアイデアが生まれることを切に期待している。
 

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