ネットの話題
飼ってみたい…にNO〝あのペットのウラのカオ〟動物園が伝える理由
水道代10万円!? 蛍光灯が目に負担…「幸せにできる?」
ペットにしても幸せにできない動物がいることを知ってほしい――。個人で飼育する様子がメディアやSNSで紹介されることもあったコツメカワウソやフェネックといった動物たち。環境保全団体や動物園が、野生動物を安易にペットにしないよう呼びかけるキャンペーンを始めました。水道代が月10万円? 蛍光灯さえ目に負担……? ペットに向かない実態を知ってもらおうと、動画やSNSで訴えています。(withnews編集部・水野梓)
「イヌやネコと違って、実はペットには向かない動物なんです」
WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)や動物園が協力して、8、9月にかけてコツメカワウソ・ショウガラゴ・スローロリス・フェネック・コモンマーモセット・スナネコの6本の動画を配信しました。
解説する飼育員は、ペットに向かない〝ウラのカオ〟のポイントを紹介します。
たとえば一見、愛らしくて人気のコツメカワウソなら「月の水道代は10万円!?」「病気になっても獣医さんが見つからない」といった〝ウラのカオ〟があります。
動画の締めには「#ペットにしても幸せにできない動物 がいること、知ってください」と訴えかけます。
WWFジャパンの浅川陽子さんは「『かわいい』という気持ちが先行して『コツメカワウソ 飼い方』と検索してしまう。しかしネット上には飼育の難しさや、飼育にともなうリスクを伝える情報も少ないんです。今回のキャンペーンではそこにスポットを当てて情報発信することにしました」と話します。
WWFジャパンによると、2021年にペットとして輸入された野生動物は推定40万頭を上回ります。近年増加傾向といわれ、日本には世界有数の野生動物のペット市場があるそうです。
WWFジャパンの2021年の意識調査によると、ウサギやハムスターといった家畜化されている小動物をのぞく「エキゾチックペット」を「飼ってみたい」と回答したのは6人に1人(17%)にものぼります。
一方で、こうしたエキゾチックペットにまつわるリスクがあることについては、68%が「よく知らない」と回答しています。
野生動物のペット化の需要が高まると、狩猟・密輸で個体数が減ってしまうことや、感染症が広まるおそれ、外来種としての生態系への悪影響といったリスクがあります。
密輸・密猟の問題では、2007年から2018年にかけて合計78件(1161匹)の動物が、日本向けの密輸として税関で押収されています。
主に子どもが好まれるため、体が弱かったり薬で眠らされたりして、なかには輸送中の過酷な環境で死んでしまう動物もいます。
メディアなどで取り上げられ2017年ごろから〝ペットブーム〟が起きたコツメカワウソは、生息地の環境破壊などを背景に、過去30年間で個体数が3割も減少しました。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト危急種(VU)に指定され、取引がリスクに拍車をかけているとして2019年にはペット利用の輸入が禁止となりました。
規制の前に輸入されたコツメカワウソや、その個体から生まれた個体であれば、その証明ができて許可を受けた場合、購入は違法ではないといいます。
それでも、ペットとして飼うことに自ら疑問を投げかけ、野生動物のペット飼育を見直してほしい――。
そう考え、WWFジャパンでは、上野動物園や京都市動物園・井の頭自然文化園・那須どうぶつ王国と協力して、「飼いにくさ」「飼育に手間がかかる」といった情報を発信するキャンペーンをおこなうことになりました。
動画でコツメカワウソの〝ウラのカオ〟を解説した上野動物園の大橋直哉さんは「動物たちが『かわいい』のは事実だと思います。でも個人で飼うことで、本当にその動物が幸せなのか、幸せにできるのか、いったん考えて立ち止まってほしい」と訴えます。
上野動物園では、珍しい動物を飼育している人から「病気になってしまった」「飼い方を教えてほしい」といった問い合わせを受けることがあるそうです。
大橋さんは「『動物園も飼っているじゃないか』というご批判もあると思います。自分も様々な動物を飼育してきました。自戒も込めてお伝えしますが、動物は自分の気持ちを言葉にして伝えてはくれません」と話します。
「小さな水場でくるくる回っているコツメカワウソが喜んでいるように見えても、その環境でストレスがないかどうか、本当のところは分かりません」
ただ、社会の野生動物保全や動物福祉の流れは確実に変わっているとも指摘します。
「動物園も、過去には動物商から〝消耗品〟のように動物を買っていたこともありました。今ではそれをやめて、野生に負担をかけないように、飼育している動物たちを繁殖していきましょうと変化しています。動物園が『動物を飼育するに値する施設であるかどうか』自問しながら、その流れを加速させたいですね」
WWFジャパンの浅川さんは「野生動物って、自然の環境のなかで生きているものです。私たちの『かわいい』とか『癒やされる』といった目的のために利用されるよりも、本来の生息地で生きていくのがいいのではないでしょうか」と話します。
「もし販売されている個体を見かけたら、どうやって運ばれてきたのか、ペットとして飼うことがその個体や野生で暮らす仲間にどんな影響を与えるのか、考えていただきたいです」と訴えます。
上野動物園の大橋さんは「本当に動物が好きなら、『野生動物を飼う』ではなく、『野生動物を守る』方向に一歩進んでほしいですね」と呼びかけています。
1/13枚