すっかり日常になった、コンビニやスーパーなどでのキャッシュレス決済。コロナ禍を経て、どのように浸透していったのでしょうか。キャッシュレス決済の種類で分かれた明暗や、現金支払いとの二極化など、データから振り返ります。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
キャッシュレス決済、特にスマホだけで完結するようなモバイル決済(かざすだけのタイプやコードを読み取るタイプ)の普及により、ちょっとした外出であれば、電車に乗ったり、コンビニやスーパーに立ち寄ったりするとき、財布を持っていなくても困らなくなりました。
一方、例えば現金支払いのみの「地域で人気の焼き鳥屋さん」「食券制のラーメン屋さん」など、今でもキャッシュレス決済が使えないところがまだまだあります。そうした店に出合うと、違いに戸惑うことがあるのではないでしょうか。
キャッシュレス決済をよく使うようになると、使っていなかった頃をもう思い出せない、なんてことも。一方、日本でどのようにキャッシュレス決済が浸透していったのか、いくつかのデータを確認してみると、こうした実感との乖離も浮き彫りになってきます。
日本のキャッシュレス決済比率が低いことは、よく知られていました。経済産業省の2021年8月の資料によると、日本のキャッシュレス決済の比率は近年、約30%という数字になっています。ほとんどの決済がキャッシュレスになった人からすると、意外な数字かもしれません。
また、22年6月に同省が発表した21年のキャッシュレス決済比率は32.5%となり、20年の29.7%、19年の26.8%から、堅調に上昇していることがわかります。ちなみに12年は15.1%で、この10年でキャッシュレス決済が約2倍に増加しています。
その内訳をみると、19年から21年にかけて、約3割と大きな割合を占めるのはクレジットで、24.0%、25.8%、27.7%と右肩上がりで推移しています。電子マネーは2%前後で伸び悩んでおり、コード決済が19年は0.31%、20年は1.1%、21年は1.8%と急増していることがわかります。
コロナ禍と照らし合わせると、この期間に普及を大きく伸ばしたのは、PayPayや楽天ペイ、LINE Payなど、QRコードやバーコードを読み込むタイプのキャッシュレス決済だとわかります。
一方、主要各国ではキャッシュレス決済の比率が40〜60%台にのぼり、海外との間には未だに大きな差が。同省はキャッシュレス決済比率を25年までに4割程度に引き上げ、将来は世界最高水準の80%にすることを目標にしています。
コロナ禍はこうした動向に、いかに影響しているのでしょうか。株式会社電通の電通キャッシュレス・プロジェクトが実施する第2回『コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査』(※)からは、2020年3月の緊急事態宣言が消費者の心理に影響した可能性がうかがえます。
※インターネット調査。2021年12月16、17日に実施。全国の20〜69歳男女500人(人口構成に基づきウェイトバック集計を実施)を対象。
まず、対象者に「キャッシュレス決済を利用しているか」と聞くと、93.3%が「利用している」と答えました。前回調査(20年12月)の88.6%から4.7ポイントの上昇です。
さらに、「利用している」と回答した人の56.2%は「キャッシュレス決済をよく利用している」と回答、これも前回調査の43.5%から12.7ポイントの上昇です。
インターネット調査なので、そもそもキャッシュレス決済にある程度、親和性のある人のみが回答している可能性がありますが、この調査からは、キャッシュレス決済を利用する人が増えている傾向、利用者はさらにキャッシュレス決済を利用するようになっていることが読み取れます。
そして、20年3月の緊急事態宣言以降、キャッシュレス決済の利用割合が変化したかどうかを聞いたところ、56.8%が「増えた」と答えました。これは前回調査の47.7%から9.1ポイントの上昇になります。
キャッシュレス決済が増えた場面の1位は「コンビニエンスストア」(40.6%)、2位は「スーパー・ショッピングモール」(38.5%)「ドラッグストア」(32.6%)で、生活に密接な場面でキャッシュレス決済が普及しているようです。
ただし、この調査において、「コンビニエンスストアで最もよく使われている決済手段」1位のモバイル決済(51.7%)に続く2位は現金(46.9%)でした。スーパー・ショッピングモールでは、1位がカード(56.4%)で、2位が現金(54.7%)。ドラッグストアではトップが現金(49.2%)になっています。
「これまで現金がキャッシュレス決済より多かったが、キャッシュレス比率が増えた」人は14.0%。「これまで現金しか使わなかったが、キャッシュレス決済の比率が増えた」人は7.7%と、現金からキャッシュレスへと少しずつ移行しているものの、日本では今も現金を利用する人が多いと言えるでしょう。
この調査からは、「日本でもコロナ禍によりキャッシュレス決済を使う人が増えた」こと、「使う人がより使うようになった一方で、現金支払いの人も根強くいる二極化が進んでいること」が見受けられます。
ここで考えてみたいことがあります。コロナ禍が決済方法に影響しているというのは、そもそもなぜなのでしょう。
いわゆる「接触感染(ウイルスが付いたものに触った後、手を洗わずに、目や鼻、口を触ることにより感染すること)」を防ぐために、「スマホやカードをかざす・画面を読み取らせるだけ」といった非接触型のキャッシュレス決済が推進されたと考えられます。
しかし、現在までに、世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルスの感染経路のうち、接触感染が起きることは少なく、主なものは飛沫感染やエアロゾル感染であるとしています。
厚生労働省のアドバイザリーボードも、6月8日、接触感染については「考えられていたよりリスクは低い」と指摘しています。
そのため、例えばビュッフェ形式のレストランでの手袋着用などは、ムダではないかという批判もされています。物に触れた後、目や鼻、口などを触る前に、手を洗う方が合理的と指摘する専門家もいます。
つまり、浸透するキャッシュレス決済は、非接触型のものでも、新型コロナ対策としての意味合いは、大きくないと言えるでしょう。2020年の緊急事態宣言の頃にはまだわからなかったことですが、この点については、消費者側にもアップデートが必要です。
実際にキャッシュレス決済に移行すると、改善の余地も多々あります。消費者側だけからみても、例えば複数の支払い方法が乱立し、店により使用の可否があること、レジで自分でそれを選ぶときのシステムがわかりにくいこと、さらにそのシステムも店によって違うこと――。
しかし、支払いにかかる時間やレジの列が短くなることなど、総じてキャッシュレス決済が便利であるからこそ、少しずつでも普及が進んでいるとも言えます。
コロナ禍を後押しにしたキャッシュレス決済ですが、医学的な知見が集まるに伴い、改めてそれが便利であること自体をいかに現金支払いの人に伝えていくか、という局面を迎えることになりそうです。