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〝クズ芸人〟が支持され続ける理由 メディア出演、全員「いい人」?

相席スタートの二人。山添寛さん(右)、山﨑ケイさん=2017年12月21日撮影
相席スタートの二人。山添寛さん(右)、山﨑ケイさん=2017年12月21日撮影 出典: 朝日新聞社

目次

ここ数年で“クズ芸人”と呼ばれる括りが定着した。人気番組で度々、クズ芸人企画が放送されるなど、毎年のようにスポットが当たっている。なぜ彼らは支持され続けるのか。空気階段・鈴木もぐら、相席スタート・山添寛、岡野陽一など代表的な面々からその魅力について考えると、コンプラ重視が叫ばれる時代において「やれる範囲の中で最高のパフォーマンスを見せる」という芸人のしぶとさが垣間見えてくる。(ライター・鈴木旭)
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だらしなさを凌駕する真っすぐさ

「スポーツは普通にチケット買ったらそれで終わりじゃないですか。でも、競馬とかって観られるプラス勝ってお金が返ってくるっていう可能性もあるんで。勝てば返ってきますんで。むしろ増えると言いますか。(「全財産失う可能性もあるわけでしょ?」という質問に)それはまぁ入場料というか、はい」

これは7月23日放送の『人生最高レストラン』(TBS系)の中で、空気階段・鈴木もぐらがギャンブルについて語った言葉だ。売れない時代は安アパートに住んでおり、ほとんど風呂にも入らなかった。あまりの臭いに劇場の客からクレームが入り、見かねた相方の水川かたまりがなけなしの1000円を渡したこともある。しかし、もぐらはその足でパチンコ店に向かい一瞬で金を溶かしたという。

ここ数年、テレビではもぐらのようなクズ芸人の活躍が目覚ましい。2019年には『ウチのガヤがすみません』(日本テレビ系)で多額の借金を抱える岡野陽一がスタジオを沸かせ、2020年には『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞』(テレビ朝日系・2021年9月終了)でだらしない生活を送るラランドのニシダらが注目を浴び、昨年は『ダウンタウンDX』(フジテレビ系)でザ・マミィの酒井貴士らによるクズ芸人企画が放送された。この時代、何がクズ芸人たちをスターダムに押し上げたのか。幾人かの芸人を例に、分析してみたい。

もぐらが憎めないのは、もぐらが信じ難いほどの真っすぐさを持っていることだ。初めての彼女(現在の妻)には、借金があること、ネズミしかかからない病気になったことなどを洗いざらい話してから交際をスタートさせたそうだ。また、高校時代にはロックバンド・銀杏BOYZに入れあげ、地方のライブハウスにまで押し掛けるような熱烈なファンでもあった。この愚直なまでの生き方が、だらしなさを凌駕してしまうのである。
 

借金を“キズナ”と呼ぶ芸人

もう一人、ギャンブルを“正当化”するプロと言えば、相席スタート・山添寛が思い浮かぶ。山添は相方の山﨑ケイに「今日ってなんぼ借りられます?」と声を掛け、金の無心をしてはデート代やギャンブル代につぎ込んだ。4年間で総額400万円ほどに至ったが、なぜか金の貸し借りでコンビの関係性が良好になったという。

山添は借金を“キズナ”と呼び、貸し手を幸せにすることをモットーだとうたっている。金を借りたことでいかに幸せな時間を過ごしたかをリポートし、相方の山﨑の気持ちをも満足させる。まるでクラウドファンディングのような関係性を作り、仕事で稼いだ金でしっかりと完済。今年1月に放送された特番『芸人シンパイニュース』(テレビ朝日系)の中でその模様が放送され、山﨑から「ちょっと寂しい」との言葉を引き出した。

その後、所属事務所の吉本興業に“キズナ”を作ったという山添。ある種まっとうな芸人の生き方にも見えてしまうのが不思議だ。

“クズ”の連鎖が生んだ師弟関係

“クズ”の連鎖は、離れ難い師弟関係さえ作ってしまった。岡野陽一とザ・マミィの酒井貴士のことである。

どちらもパチンコ、競馬、ボートレースといったギャンブルを好み、岡野は約1200万、酒井は約350万円の借金を抱えた。岡野は主に知人から借金をし、大口の債権者のために“木曜日を差し出す(1週間のうち1日は、岡野自身を担保として債権者に言われるがまま服従する)”という立場ながら一等地のタワーマンションに彼女と同居するクズである一方、酒井は実家が避暑地に別荘を持つほどの資産家で、借金の一部を肩代わりしてもらったこともあるビジネスクズとして知られている。

一方で、どちらもネタに定評があり、岡野はコンビ時代(巨匠)に「キングオブコント」、ピンで活動し始めてからは「R-1ぐらんぷり」(現:R-1グランプリ)決勝に進出。事務所の後輩で「女芸人No.1決定戦 THE W」王者の吉住にも影響を与えた実力派だ。酒井はトリオ時代(卯月)から同業者の間でキャラクターが称賛され、コンビになって「ツギクル芸人グランプリ」で優勝、キングオブコントで準優勝するなど快進撃が続いている。

今月6日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS系)では、2人の師弟愛が垣間見られた。「説教中の『帰れ!』額面通り受け取るわけにはいかない説」という企画の中で、岡野が「帰れ」と言い放つも酒井は「岡野さんいなかったら無理っすよ」「お許しください」と涙ながらに食い下がり、約48分間もその場を離れようとしなかった。ネタばらし後、彼らは熱い抱擁を交わす。このシーンには、感動的な空気さえ流れていた。

昭和の“やさぐれ感”操る女性芸人

納言・薄幸とヒコロヒーもまた、酒やタバコ好き、借金を抱えるクズ芸人としてバラエティーの露出を増やした一員である。

薄幸はタバコを吸いながら街をディスるネタで注目を浴び、2019年にアルバイトを辞めたものの、思い描いていた収入に届かず借金生活に。その後、これを心配した親が全額を返済したという。また、『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞』では、1日20杯以上飲酒する女性芸人として紹介され、自宅で酔っ払い謎のシャドーボクシングをする姿も放送された。

同時期に活躍し始めたのがヒコロヒーだ。本人の弁によれば、家賃滞納、消費者金融、以前のバイト先の社長、元カレなどから一時は総額200万円以上の借金があった。自身のYouTubeチャンネルの中で、さらば青春の光・森田哲矢や霜降り明星・せいやらに返済のための借り入れを直談判する模様も公開。動画の中で自身の月収も公表するなど、完済までのリアルな経緯が話題となった(完済報告後、実際にはまだ少し残っていたようだ)。

また昨年7月に放送された『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)では、芸人仲間から数々の遅刻エピソードを暴露され、その強心臓ぶりが露呈した。

とはいえ、これらは彼女たちの魅力を際立たせる“スパイス”となっている。薄幸は『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)の屋上料理企画の中で、酒のツマミになる一品を考案して3連覇を達成。料理上手な一面を覗かせた。またコンビのネタ作成を担当しており、番組収録後は反省点をスマホにメモして次の番組に生かすしっかり者でもある。

ヒコロヒーは今月4日に放送された特番『グータンヌーボ2』(関西テレビ/フジテレビ系)の中で、共演者の恋愛観を引き出す聞き手として存在感を示した。またブレーク前からダイアンの魅力をメディアで語るなど、分析力の高さにも定評がある。

昭和の芸人を思わせる“やさぐれ感”は、大いなる振りとなってギャップを生み出している。とくに2人は、女性芸人としてクズを操る数少ない成功例と言えるだろう。

欲望のままに生きる潔さ

ラランドのニシダ(右)、サーヤ=2019年12月4日撮影
ラランドのニシダ(右)、サーヤ=2019年12月4日撮影 出典: 朝日新聞社
欲望のままに生きる潔さが支持されるケースもある。これに該当するのが、ラランド・ニシダと安田大サーカスのクロちゃんだ。

ニシダは裕福な家庭に生まれた帰国子女でありながら、自堕落な生活を送っていたことで大学退学を余儀なくされた。またYouTube企画でLINE IDを公開したことで、ニシダの友だちリストが爆発的に増加。爆睡するニシダをファンが起こすことも珍しくなくなった。これに加え、「マッチングアプリに月10万円を費やし彼女をゲットした」という逸話も持っている。
安田大サーカスの3人。左からHIROこと広瀬さん、団長こと安田さん、クロちゃんこと黒川さん=2010年4月24日撮影
安田大サーカスの3人。左からHIROこと広瀬さん、団長こと安田さん、クロちゃんこと黒川さん=2010年4月24日撮影 出典: 朝日新聞社
クロちゃんは、売れない時代のみならずブレーク後も実家から仕送りをもらっていた強者だ。『水曜日のダウンタウン』の企画によって、姑息、嘘つき、女好きなど、欲望へとひた走る姿が広く明るみとなった。とくにNetflixやFODで配信されていた恋愛バラエティー『テラスハウス』を模した企画「モンスターハウス」では、二股をかけたうえ隙あらば意中の女性にキスをせがむ、告白するも盛大に振られて号泣するなど、過去に例のない醜態をさらして大きな話題となった。

そんな2人にも、他方、どこか許されてしまう魅力がある。ニシダは相方であるサーヤの弟分のような立ち位置をまっとうする一方で、千原兄弟・千原ジュニアにタメ口をきいて許されるような一面も持つ。また、大柄ながらキュートな顔立ちをしていて、単純に見た目にもかわいげがある。

クロちゃんは、アイドルのプロデュース能力に長け、とくに作詞についてはプロも称賛するほどの世界観を持っている。芸人としても、イジられた時の返しの速さやパターンの豊富さが尋常ではない。この安定感によって、たびたびバラエティーから声が掛かるのだろう。
 

メディアでクズをうたえる人は、全員いい人

ラジオ収録に臨む高田純次さん(右)と河合美智子さん=東京都港区の文化放送で、2011年5月7日撮影
ラジオ収録に臨む高田純次さん(右)と河合美智子さん=東京都港区の文化放送で、2011年5月7日撮影
これまでも、“元祖テキトー男”の異名を持つ高田純次のような魅力的なタレントはいた。

時代は1980年代後半、バブル景気の真っ只中。大御所女優が大切にする指輪を自分の口の中に放り込んだり、自分の靴の匂いを嗅いで「パワーアップ!」と言い放ったりする高田の突飛な言動は、当時のテレビの過激な演出とマッチし、視聴者を笑わせたのだ。

今のクズ芸人も、ある種テキトーな要素は持っている。しかし、コンプライアンス重視が叫ばれる中で、関係のない他人を巻き込む芸風は避けなければならない。このような背景がある中、あくまでも彼らはバラエティーでのエピソードトークやプロ同士の絡みといった、自分のテリトリーの中で“クズ”を笑いに変えているのである。

芸人考察に定評のある平成ノブシコブシの徳井健太は、クズ芸人および相席スタート・山添についてこう語っている。

<メディアでクズを謳える人は、全員いい人なのだ。いや、いい人ではないか。「バラエティーに特化することができる人」とでも言えばいいのだろうか。極端なことを言えば、メディアで「いい人」な部分しか見せない人は、逆に怪しんだ方がいいかもしれない。(中略)僕がそうだからわかるのだが、(筆者注:山添は)ギャンブラーにありがちの、自分の欲求や感情のままに発言したり行動したりはしない。ちゃんと世間に寄り添ったスピードでお笑いをやっている。これは品だ>(2022年7月23日に公開された「デイリー新潮」の「相席・山添が売れた本当の理由は「クズキャラ」ではない? ノブコブ徳井が明かす「相席スタート」の素顔」より)

いつの時代も芸人は、求められているものを瞬時に理解し、笑いとして提示している。ダメなものを避けながら、やれる範囲の中で最高のパフォーマンスを見せるのだ。クズ芸人は単なるクズではない。信頼できるクズとして自らを商品化し、安心と刺激を視聴者に提供する完成度の高い芸風なのである。
 

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