連載
#59 「きょうも回してる?」
沖漬けの「てかり」、枝豆の薄皮…酒飲みの所業だ お通しがガチャに
「俺はガチャガチャを作ったんだ、すごいだろ」
みなさんはどんな「お通し」が好きですか?居酒屋さんなどで出されるお通しがガチャガチャになりました。それにしてもなぜお通し……。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
今回は、まる部の第1弾として7月に発売された、「お通し」を紹介します。
コンセプトが「お通し」に決まるまで、昨年の6月から毎月、オンラインで会議をしたそうです。
日野原さんは「お通しに決まるまで、毎月のようにSO-TAさんに意見をうかがいいつつ、アイデアを出し、ボツ案もたくさんありました。数々のアイデアのひとつにお通しがありました」と話します。
「お通しはランダムに提供され、価格も400円くらいです。お通しの存在自体がガチャガチャっぽいと思い、企画を出しました」と教えてくれました。
SO-TA側で今回担当したのは、大林明子さん。お通しの企画の決め手について、こう話します。
「日野原さんはコピーライターなので、日野原さんが書いたお通しのキャッチコピー『それは、美味なる挨拶。』に心打たれました。私たちには、文章で遊ぶ発想はありませんでした。このキャッチコピーはすごくいい。社内で満場一致で決まりました」。
日野原さんは、料理が出てくる前のお通しを「挨拶」と表現し、「最初におもてなしをするという心が美しい」という想いを込めて、コピーに落とし込んだそうです。
お通しの企画が決まった後、まる部でラインナップの肴をどうするかの議論を何度も交わした結果、誰もが見てもお通しだと思う、「冷奴」「タコワサ」「枝豆」「ホタルイカの沖漬け」「明太子」の5種類に決めました。
商品の造形で苦労した点を尋ねると、ホタルイカの沖漬けを挙げた大林さん。居酒屋さんに足を運び、観察を重ねたそう。
「ホタルイカの点描を出すため、(商品を製造する)工場に何度も掛け合いました。ホタルイカの『てかり』を出すことで、出したら食べたくなる、『シズル感』を表現するのが大変でした」と話します。
それ以上に苦労したところが、豆腐の上にのっているネギの彩色だったそうです。
「工場で最初に出てきたネギの色が青緑で、本物のネギの色とかけ離れていました。実際のネギの色に近づけるために、試行錯誤の連続でした。このお通しをデスクに置いてもらい、仕事終わりの午後5時が待ち遠しくなるように感じてくれれば嬉しいです」(大林さん)
大林さんの話を聞いていると、ガチャガチャではなく、飲食店の食品開発をしているのではないかと思うほど、お通しにかける熱意がヒシヒシと伝わってきます。
日野原さんは、最終的なサンプルを見た時のことを「あの感動は、今でも忘れません」と振り返ります。
「イカのディテールがしっかりと作り込んであり、しかも下にシソが美しく置かれているところに、魅力を感じました」(日野原さん)。
私が驚いたのは、枝豆のリアルさです。
ちゃんと枝豆の中の豆が見えており、微妙に透けている薄皮が表現されています。商品にとことんリアルさを追求しているところに、SO-TAの強みが表れている感じがします。
商品化に携わった日野原さんは、「ガチャガチャとして具現化できたことが嬉しくて仕方がありません。今後、仕事が上手くいかない時でも、『俺はガチャガチャを作ったんだ、すごいだろ』という気持ちで、仕事を続けていけます」と胸を張ります。
SO-TA代表の安藤さんは、「大人が買って楽しい商品にできました。決してアイデアだけではなく、クオリティを加えることが大事です」と話します。
使い方の想定として、安藤さんは「居酒屋さんに購入して頂いて、お客さんとのコミュニケーションのきっかけとして、活用してほしいです」と話します。
安藤さんは「このお通しは、作る上での物語があります。何のために作ったのかという位置づけが差別化に繋がります。まる部は、アイデアはふざけていても、真面目に取り組むところをしっかりと続けていきたいです」と話します。
このお通しのガチャガチャは、飲食業界がコロナ禍で厳しい中、ひょっとしたら、飲食業界の活性化への起爆剤のひとつになるかもしれないと感じた商品でした。
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お通しは、冷奴、タコワサ、枝豆、ホタルイカの沖漬け、明太子の5種類。1回400円。
参考文献:『日本大百科全書4』(小学館 1985年)、『居酒屋の誕生 江戸の呑みだおれ文化』(飯野亮一/著 筑摩書房 2014年)
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