みなさんはどんな「お通し」が好きですか?居酒屋さんなどで出されるお通しがガチャガチャになりました。それにしてもなぜお通し……。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
お通し、突き出し…さながらガチャガチャ
関東ではお通し、関西では突き出しや先付けと言われており、一説によると、昭和10年頃から始まったようです。
お通しには「何がでるかわからない」という面白さを感じさせ、どこかガチャガチャと共通しているところがあります。「お通しガチャ」といったところでしょうか。
このお通しの魅力に取りつかれ、ガチャガチャにしてしまったのが、「真面目にふざける」をコンセプトに掲げるカプセルトイのクリエイティブユニットの「まる部(@marubu_capsule)」です。
このまる部は、Web制作から企画・運営などを展開する面白法人カヤック(以下、カヤック)と、企業コラボやアーティストコラボでオリジナル商品を手掛けるメーカーのSO-TA(@SOTA170317)がタッグを組んで誕生しました。
「ふざけた発想」取り込みたい
カヤックには、自分の好きなことをプレゼンできる「推しプレゼン大会」があり、日野原さんがガチャガチャの商品化を提案したところ、企画が通り、以前から付き合いがあったSO-TAと組むことで商品化へと動き出します。
カヤックとコラボすることについて、SO-TA代表の安藤こうじさん(@kojiando01)は「カヤックさんは、当社にないものがあります。当社は商品のディテールにこだわり、商品のクオリティを追求したりするなど、何でも真面目に取り組んでしまうところがあります。当社にはカヤックさんのような、良い意味での『ふざけた発想』がなく、コラボすることで、その要素を社内に取り込みたいと思いました。コラボ依頼が来たときは即決でした」と話します。

「それは、美味なる挨拶。」
今回は、まる部の第1弾として7月に発売された、「お通し」を紹介します。
コンセプトが「お通し」に決まるまで、昨年の6月から毎月、オンラインで会議をしたそうです。
日野原さんは「お通しに決まるまで、毎月のようにSO-TAさんに意見をうかがいいつつ、アイデアを出し、ボツ案もたくさんありました。数々のアイデアのひとつにお通しがありました」と話します。
「お通しはランダムに提供され、価格も400円くらいです。お通しの存在自体がガチャガチャっぽいと思い、企画を出しました」と教えてくれました。
SO-TA側で今回担当したのは、大林明子さん。お通しの企画の決め手について、こう話します。
「日野原さんはコピーライターなので、日野原さんが書いたお通しのキャッチコピー『それは、美味なる挨拶。』に心打たれました。私たちには、文章で遊ぶ発想はありませんでした。このキャッチコピーはすごくいい。社内で満場一致で決まりました」。
日野原さんは、料理が出てくる前のお通しを「挨拶」と表現し、「最初におもてなしをするという心が美しい」という想いを込めて、コピーに落とし込んだそうです。

発案者「あの感動は、今でも忘れません」
お通しの企画が決まった後、まる部でラインナップの肴をどうするかの議論を何度も交わした結果、誰もが見てもお通しだと思う、「冷奴」「タコワサ」「枝豆」「ホタルイカの沖漬け」「明太子」の5種類に決めました。
商品の造形で苦労した点を尋ねると、ホタルイカの沖漬けを挙げた大林さん。居酒屋さんに足を運び、観察を重ねたそう。
「ホタルイカの点描を出すため、(商品を製造する)工場に何度も掛け合いました。ホタルイカの『てかり』を出すことで、出したら食べたくなる、『シズル感』を表現するのが大変でした」と話します。
それ以上に苦労したところが、豆腐の上にのっているネギの彩色だったそうです。
「工場で最初に出てきたネギの色が青緑で、本物のネギの色とかけ離れていました。実際のネギの色に近づけるために、試行錯誤の連続でした。このお通しをデスクに置いてもらい、仕事終わりの午後5時が待ち遠しくなるように感じてくれれば嬉しいです」(大林さん)
大林さんの話を聞いていると、ガチャガチャではなく、飲食店の食品開発をしているのではないかと思うほど、お通しにかける熱意がヒシヒシと伝わってきます。
日野原さんは、最終的なサンプルを見た時のことを「あの感動は、今でも忘れません」と振り返ります。
「イカのディテールがしっかりと作り込んであり、しかも下にシソが美しく置かれているところに、魅力を感じました」(日野原さん)。

仕事うまくいかなくても「俺はすごい」
私が驚いたのは、枝豆のリアルさです。
ちゃんと枝豆の中の豆が見えており、微妙に透けている薄皮が表現されています。商品にとことんリアルさを追求しているところに、SO-TAの強みが表れている感じがします。
商品化に携わった日野原さんは、「ガチャガチャとして具現化できたことが嬉しくて仕方がありません。今後、仕事が上手くいかない時でも、『俺はガチャガチャを作ったんだ、すごいだろ』という気持ちで、仕事を続けていけます」と胸を張ります。
SO-TA代表の安藤さんは、「大人が買って楽しい商品にできました。決してアイデアだけではなく、クオリティを加えることが大事です」と話します。
使い方の想定として、安藤さんは「居酒屋さんに購入して頂いて、お客さんとのコミュニケーションのきっかけとして、活用してほしいです」と話します。
安藤さんは「このお通しは、作る上での物語があります。何のために作ったのかという位置づけが差別化に繋がります。まる部は、アイデアはふざけていても、真面目に取り組むところをしっかりと続けていきたいです」と話します。
このお通しのガチャガチャは、飲食業界がコロナ禍で厳しい中、ひょっとしたら、飲食業界の活性化への起爆剤のひとつになるかもしれないと感じた商品でした。
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お通しは、冷奴、タコワサ、枝豆、ホタルイカの沖漬け、明太子の5種類。1回400円。
参考文献:『日本大百科全書4』(小学館 1985年)、『居酒屋の誕生 江戸の呑みだおれ文化』(飯野亮一/著 筑摩書房 2014年)
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ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani)
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。