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「魂のあるマンガを描きたい」手塚治虫文化賞『チ。』25歳作者の願い

魚豊さん「丸裸ではない、本音のマンガを」

手塚治虫文化賞マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト
手塚治虫文化賞マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト 出典: ©魚豊/小学館

目次

中世ヨーロッパを舞台に、異端とされた地動説を命がけで追究する人々を描いたマンガ『チ。―地球の運動について―』(魚豊さん作、小学館)の勢いが止まりません。4月に雑誌連載を終え大団円を迎えた物語は、第26回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)のマンガ大賞を受賞。そしてこのほど、最終8巻の発売を前にアニメ化も発表されました。作者の魚豊さん(25)は、なぜ地動説を巡る物語を描いたのか。どんな人物なのか。インタビューでの印象的な言葉とともに、取材した記者が紹介します。(朝日新聞文化部・黒田健朗)

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■手塚治虫文化賞記念プレゼントキャンペーン
朝日新聞社は、第26回手塚治虫文化賞を記念して、受賞者3人による描きおろし記念イラスト(複製画)を抽選で各5名様、計15名様にプレゼントします。また、マンガ大賞受賞作「チ。―地球の運動について―」(魚豊著/小学館 全8巻)を抽選で1名様にプレゼントします。
応募はこちら(https://que.digital.asahi.com/question/11008050?cid=Mkt-CDP_PR0022_mLink_202206-0030)から。7月10日締め切り。

受け継がれていく「知」

「チ。」は天動説が信じられていた中世ヨーロッパの「P王国」を舞台とするフィクションだ。劇中では、宗教「C教」の異端審問官によって教義に背いたと判断された者は拷問を受けるなど、迫害されていく。

そんななか、主人公の神童ラファウが、地動説を研究する元学者のフベルトと出会い物語は動き始める。フベルトは火あぶりに処せられるが、ラファウは彼の資料をひそかに引き継ぎ、研究にのめりこんでいく。

しかし、ラファウは密告により投獄されてしまう。改心と資料の処分を求められたラファウだったが、裁判で地動説を信じると宣言し、衝撃の死を遂げる。

その後、物語の主人公は世代を超えて次々と変わり、「知」は細い糸がつむがれるかのように受け継がれていく。

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ 出典: ©魚豊/小学館

次々と継承されていく「知」のバトン――。
このような構成にした理由を受賞記念インタビューで魚豊さんに尋ねると、「コラボレーション(協力)」も大切なテーマだったと明かしてくれた。

「パラダイムシフトというのは、“一代で、ひとりの天才が何かを変える”のではなくて、受け継がれて、環境的な条件やデータの蓄積などがそろってから、一気に行くような感じがしていて。実際の世の中も、世界が変わるまでには大勢の天才が関わっているというのがあると思います」

「時代とか場所を越えたコラボレーションというのが、アカデミズムや人間の文化の面白いところだな、と。そこを描きたかったので、いろんな時代の人が出てくるという話の構成になりました」

現代に通じる「知性と暴力の混然一体」

劇中には、目を背けたくなるような拷問の描写も少なくない。真理の追究の途上では、多くの「血」が流れる。この物語では、「知性と暴力」を描きたかったのだという。

「中世の頃はそこ(知性と暴力)が混然一体となっていて、学問研究とフィジカルな処罰や暴力が近い位置にある。それ故にアンダーグラウンドやストリートにこそ自由な知性があったりする。この混然一体さがアンバランスでギャップがあって面白いなと思いました」

一方、それは中世に限られる話ではなく、現代にも通じる、とも。

「現代も知性と暴力が一見分離しているように見えるけれど、それは不可視化されているだけで、根っこはいつもつながっている。なので、現代をうっすら描けるのではないかと期待もありました」

今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト
今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト 出典: ©魚豊/小学館

取材中、よどみなく繰り出される知識や説得力を感じさせられる言葉の数々に、こちらは圧倒されっぱなしだった。

「アリストテレスの『ポリス的動物』って、超いいなと日増しに思います」
「(敵役の)キャラ造形のモチーフに最初したのは、アドルフ・アイヒマンです」……。

その源泉を探ろうと、「普段、本をたくさん読まれていますよね?」と尋ねると、「いやいや、全然読めていません」と謙遜。

ただ、作品執筆にあたっては、物語の鍵を握る地動説や活版印刷に関する取材にも力を入れたそうだ。その姿勢は、主人公たちが劇中で見せる「知」への強い欲求とも重なる。

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館) 出典: ©魚豊/小学館

丸裸ではない、本音のマンガ

24歳(※4月の発表時)でのマンガ大賞受賞は、手塚治虫文化賞史上最年少。今後の活躍も期待されるなか、生み出していきたい作品を尋ねると「魂のあるマンガ」と語った。

「さかしらな言葉をもてあそぶだけのものより、単純でいいから、というより単純な方がいいから魂のあるマンガにしたい。本音を言っているマンガにしたいと思います」

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ 出典: ©魚豊/小学館

一方、「丸裸と本音は違う」とも。どういうことか。その答えには、冷静さを感じさせられた。

「全て丸裸にすることが、自分の生の気持ちをさらけ出すことが、本音、という意見もあると思うんですけど、僕はそう言う自意識というか、羞恥(しゅうち)心というか、精神分析的な無意識とか、情動をわざわざ露悪的なくらいに出力する私小説的なものを書こうという意識は薄いです」

「それより、そういう自分の中の欲望と、それに上乗せされる理性で理想へと向かっていく、そう言うものが人間の本音な気がする。そこに魂がある気がする。そういう匂いをうっすらまとっているようなマンガにしたいです」

丸裸ではない、本音のマンガ――。冷静さの中に熱さを秘める25歳は、どんな次回作を見せてくれるだろうか。

手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)は、マンガ文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫の業績を記念する賞。第26回マンガ大賞は魚豊さんの「チ。―地球の運動について―」、新生賞は谷口菜津子さんの「教室の片隅で青春がはじまる」「今夜すきやきだよ」、短編賞はオカヤイヅミさんの「いいとしを」「白木蓮(はくもくれん)はきれいに散らない」が受賞。贈呈式での魚豊さんの受賞コメントはこちら

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