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額にシリコンの角、舌先が裂けるスプリットタン…身体改造続ける理由
「自分の可愛いを突き詰めたい」
額に埋め込まれたシリコンの角、蛇のように舌の先が裂けてる「スプリットタン」に、吸血鬼をほうふつとするとがった牙……もにかさん25歳(仮名)は、身体のあちこちに改造を加えてきた。 ピアスやタトゥーを含めるとその数、34カ所。何が彼女をそこまでの行為に走らせるのか。誰かが考えたものではない「理想の自分」を求め続ける姿を追った。(ライター・千絵ノムラ)
福岡出身のもにかさんは、現在、都内で専業主婦をしている。身体改造に目覚めたのは思春期まっさかりの13歳ごろ。当時ビジュアル系バンドが好きで、たまたまブログで見つけたバンギャのお姉さんがスプリットタンだったことにより、身体改造の存在を知り、興味を持った。
それからすぐ、歯茎のピアス「スクランパー」を開ける。バンドのライブを観るため東京に行った際、原宿でピアッシング専用のニードルを購入し、自ら施術。口の中なら親にも学校にもばれないということで歯茎にした。「めちゃめちゃかわいい!」と感動したという。
次なる身体改造は「スプリットタン」。蛇のように縦に裂けている舌のことで、かつて映画に登場したこともあり注目を集めた。「スクランパー」からすぐのことだった。
「スプリットタン」も自力で行う。100均で購入したカミソリで少しずつ舌先を切開していくが、「ビビりのため」数日を費やしたという。また、出血がひどく、なにより切開後に癒着した舌をはがすのが痛かったという。
3回目に選んだのも舌のピアスで口内だったが、ものすごく腫れてしまう。滑舌が悪くなり、ご飯が食べられなくなったことで、母親に気づかれてしまう。
「スクランパー」を知った母親からは「そんなピアスなんかあけて!パパにばれたらどうするの!?」と叱られたが、父親とはほとんど会話をしていなかったため「ばれないよ〜」って笑って誤魔化した。ちなみに、「スプリットタン」はいまだにばれていないという。
この一件後も、身体改造への欲求はおさまらず、高校生になると耳にピアスを開け、ヘアカラーをピンクにした。
そして、20歳の誕生日には、シリコンで角を作る「ホーン・インプラント」を行い、その後は、好きなキャラクターのタトゥーや、手の甲にハートの鍵穴型のシリコンを入れた「ボディーインプラント」、皮膚への切り込みで形成されるケロイドを利用して文様を描く「スカリフィケーション」、歯にかぶせ物をして作る牙など、次々と身体改造を重ねていった。
どうしてもにかさんはそこまで身体改造を続けるのか。理由の一つが「いじめ」だった。
「小さい頃からずっと友達がいなかったんです。小中高専門ってずっといじめられていて、本当に人が嫌いだし、悪口の定番であるブスって言われて辛かった。きっと暗かったからだろうけど、容姿や顔のことでいじめられるのが一番嫌でした」
服やおしゃれが好きだったもにかさんは、服飾の専門学校に進む。見た目を飾ることが生きるモチベーションになっていった。
「そもそも顔を変えたいっていうのはあったけど、整形した可愛い顔ってだいたい決まってるじゃないですか。でも身体改造の人には、猫が可愛いから猫みたいな顔にする人もいて、それぞれの好きに向かって自分の美意識がはっきりしてるのが、すごいいいなって」
見た目を変えるのに、いわゆる美容整形ではない、違う方向性もあることを知ったもにかさん。自分が可愛いと思う方向性に進んで、自分が納得すれば、他人にブスなどといわれても気にしなくなるという思いから、身体改造を続けることになる。
もう一つの理由に父親の存在があるという。
「父親のことは生まれた時から嫌いで、抱っこされただけで泣きわめいていたみたい。亭主関白で、自分が働きに出るから、子育ては妻がして当たり前という価値観を持っていました。何も良い思い出がなくて、両親がケンカしてるとか、母方の祖母が父の悪口を言ってるとかの記憶しかないです」
お金や仕事のことでもめ、何に対しても文句を言っていたという父親。両親が口げんかをしているところへおもちゃの車に乗っていった時に目にした、父親が母親を突き飛ばした光景は今でも覚えているという。
「身体改造で角を生やせることを知った時、死神になって父といじめた子たちに仕返しをしてやろうって思いました」
その“念願”である角、「ホーン・インプラント」を入れたのは20歳の誕生日の時。その後、2度目の施術で角のサイズをアップしている。
顔を洗う時にピアスが邪魔をし、角で帽子がかぶれない生活を送るもにかさん。母親や友達から気持ち悪がられたりするのは「正直、悲しい」が、それはそれで仕方ないという。
今も母親からは「お金出すから直してきて」と言われるが、「母親にとって一人娘であるから、気持ちは分かるけど自分の人生だからどうしてもやりたい事はやらせてほしい。もう後戻りする気はまったくない」と返している。ちなみにプールや温泉はそんなに好きではないので、タトゥー禁止などで困ることはない。
好き嫌いが分かれる見た目をしているため、しゃべる前から合わない人は距離を置いてくるそうだ。逆に、人見知りのもにかさんにとってありがたいのは、見た目に興味を持った人が自分から話しかけてくれること。そこから友だちになることも少なくなく、夫も、身体改造について理解があるという。
病院では、頭の角について医師から「自分の身体を大事にしなさい」と怒られることも。「でも、看護師さんから『可愛い、そんなのあるんだ』と言われたこともあって、その時はうれしかったですね」。
取材場所となったもにかさんの部屋には、もう一つ、特徴があった。とにかく動物が多い。現在、トイプードル1匹、フクロモモンガ1匹、ラット1匹、ハムスター3匹、マウス2匹、リクガメ1匹、蛇4匹、レオパード・ゲッコー3匹、ハイナントカゲモドキ1匹、ヤモリ1匹、インコ2羽、ベタ1匹の合計21匹を飼っている。
動物好きであることは、身体改造を続ける姿に重なる部分があるという。
「人じゃない方が可愛い、動物の方が可愛い。だから人外を目指しているところはあると思います」
もにかさんが憧れる存在に、ディズニーのマレフィセントという魔女がいる。強くてキレイな彼女のようになりたいのもまた、角が生えている人外の存在であるからだ。
「強くて可愛い生き物になりたい。流行に流されず、いじめられたくない。そのために見た目から強くして固める。まだ足りないです」
最後に、自分のことを客観的にどう考えてるか聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。
「できれば普通の生活を(自分には)平凡な日々を送ってほしい」
普通? いったいどういうことだろう。
「茶髪で、キレイな服を着て、友達とご飯を食べたり、普通に働いたり。身体に手を加えない整形でもよかった」
でも、そんな普通が「納得できない。それじゃつまらない」と悟った末、身体改造の道へ突き進むことになった。そして、いつしか自分の中の「普通」も変化していったという。
「私はずっとこんなんだから、自分の中ではこれが普通になっちゃって。でも、みんなの普通になれたら、もっと友達もできただろうし、母にも喜ばれたと思います」
それでも、もにかさんは身体改造の道を選んだ。
「自分の人生だし、可能な限り自由にやりたいことはやりたい。ちょっと道を外れちゃったし、普通のことは考えずに、自分の可愛いを突き詰めたいです」
正解などあるわけがないこの世界で、流行に流されず我が道をいく生き方を続けるには、相当の覚悟と強さが必要だ。その厳しさを受け止めた上で、身体改造をやめない決断をしたもにかさん。
今後は、長くとがったエルフ耳にしたり、ペットたちを彫って全身タトゥーにしていきたいという。自らが考えた理想の自分になるための努力は続いていく。
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