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パートナー「呼び方問題」他人の妻・夫、どう呼ぶ? #令和サバイブ

自分のパートナーを呼ぶとき、相手のパートナーを呼ぶとき、それぞれどんな呼び方を使っていますか?※画像はイメージ
自分のパートナーを呼ぶとき、相手のパートナーを呼ぶとき、それぞれどんな呼び方を使っていますか?※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

男性が自分の配偶者の話をするとき、使われることがある「嫁」という言葉。逆に女性が「主人」という言葉を使うシーンも、世代によってはまだあります。「妻・夫」よりも堅苦しく聞こえないからか、フランクな会話で飛び交うことも。

でも、これらは過去に異なる意味で使われた言葉です。知らずに使うことでSNSで炎上した事例や、別の呼び方をする夫婦も。この時代に自分や他人のパートナーをどう呼ぶべきか、考えます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)

【連載「#令和サバイブ」】この連載は、withnewsとYahoo!ニュースの共同連携企画です。
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自分のパートナーの呼び方でSNS炎上も

まず、自分のパートナーを指して言うときの呼び方について振り返ってみます。現時点でもっともフラットとされる表現は「妻・夫」です。

近年、有名俳優や企業の公式SNSアカウントが、女性のパートナーを「嫁」と呼び、炎上する事例が続きました。代表的な批判には「妻を指して嫁と呼ぶ表現は不適切」などがありました。

「嫁」という呼び方はかつて、「息子の妻」を指した言葉です。家族の基本が「家」だった時代には、結婚すると女性が姓を変えて男性の家に入ることが当たり前であり、女性は「XX家の嫁」とされました。

男性のパートナーを「主人」と呼ぶことも、同様に「家」を基本としています。こうした時代には家の長は基本的に男性であり、その妻から見て夫は「XX家の主人」だったためです。

「嫁・主人」という呼び名について、ジェンダー平等などをテーマにする相模女子大学大学院特任教授の白河桃子さんは「過去の社会制度が形がい化して残ったもの」と指摘します。

「“嫁”“主人”という呼び名は、“家長”である夫とその“家に入る”妻という、明治民法時代の家制度の名残です。この制度では妻が“無能力者”と定義され、働くには夫の許可が必要であるなど、言うまでもなく非常に女性差別的な内容でした。とはいえ、家制度自体は1947年の民法改正で廃止されています」

時代背景を踏まえると、「嫁・主人」という呼び方が、かつて上下関係を内包していたことは確かで、ジェンダーニュートラルではないと言えそうです。白河さんは「当事者間の同意があっても、それが第三者に向けて使われる言葉である以上、無意識のうちに社会にステレオタイプを再生産してしまう」と問題点を指摘します。

こうした経緯から、呼び方に違和感を持つ人もいます。朝日新聞がフォーラム面で実施したアンケート※では、「結婚をするときの慣習などに違和感を抱くこと」が「ある」と回答したのが88.7%、その主な理由として「姓を変えるのは女性だという意識がある」(74.3%)、「『XX家に嫁ぐ』という言い方」(67.2%)が挙がりました。

その上で、「結婚後、『嫁』や『主人』としてのふるまいを求められたり、『嫁』や『主人』として扱われたりしていると感じることがありますか?」という質問には、74.1%が「ある」と回答。「家」を基準にした慣習から日本社会が抜けきれていない実態もうかがえます。

※2021年8月16日-30日に実施、計467回答。

一方、テレビやYouTubeでは、人気のお笑い芸人などが「嫁」を使うシーンもよく見かけます。これは、関西の芸人文化の中で昔から妻を指して「嫁はん」と読んでいたものが省略され、「嫁」として浸透していったものという見方があります。お笑いの世界では「妻」という言葉はやや堅く、笑いにくいというのが理由として挙げられます。

その影響か、若い世代のフランクな会話で、「嫁」という言葉が聞かれるシーンも増えてきました。冒頭のSNS炎上は、こうしていわば逆輸入的に起きた、家制度などの経緯について無意識のものである可能性があります。だからこそ白河さんが指摘する「ステレオタイプの再生産」という問題も、警戒する必要があると言えるでしょう。

「夫さん」など呼び方の模索は古くから

「妻」「夫」がやや堅いという意見は、一般からも聞かれます。そこで、さらに別の呼び方を選ぶ夫婦もいます。

東京都の佐藤さん(仮名)夫婦もその一組で、妻の美里さんのことを夫の博紀さんが「お妻」と呼んでいます。どうしてこのような呼び方をするようになったのか、佐藤さん夫婦に話を聞きました。

美里さん・博紀さんは2015年に結婚。博紀さんが一回りほど年上です。ほどなくして博紀さんは他の人がいる場では美里さんを「お妻」と呼ぶようになりました。博紀さんは「嫁」の元々の意味を知っており、また「妻」は続柄に書く言葉でもあり堅苦しいとも感じていたためです。

初対面やフォーマルな場では「妻」と呼びますが、そうでなければ積極的に「お妻」と呼んでいます。会話のきっかけになり、場が和むというメリットもあります。周囲も美里さんのことを「お妻」と呼んでくれるようになったそうです。

逆に、美里さんは博紀さんのことを「名前にさん付け」で呼んでいます。年の差はあっても、二人の関係は対等という意識のもと、どちらかを“主”とするのはおかしいと感じ、「主人」と呼ぶことはないそうです。

2017年放送の人気ドラマ『カルテット』では「夫さん」という表現が話題になりました。作中、松たか子さんが演じるヴァイオリン奏者の巻真紀は自分の夫を「夫」と呼び、周囲が「ご主人」などではなく「夫さん」と呼んでいたのです。

このように、社会において他の呼び方をすることへの試みが始まったのは、実は最近のことではありません。

社会言語学の研究者である水本光美さんは、論文『他人の配偶者の新呼称を探るアンケート調査--「ご主人」「奥さん」から「夫さん」「妻さん」への移行の可能性--』(2017)で、「夫さん」という呼び方について先行研究を紹介する中で、“どうやらすでに80年代には一部ではこの呼称を用いる試みがなされていたようである”としています。

また、同じ論文の中で“「夫さん・妻さん」は馴染みのない表現である故、その語を使う違和感があることは明らかになったが、意味理解に関する誤解は生じないため、現実的にネット上では多くの使用例が見られる。その将来的可能性は大いに期待出来るだろう。”と述べました。

ここで注意が必要なのは、「呼び方」には自分のパートナーを指して言うケースと、他人のパートナーを指して言うケースがあることです。

前者では、佐藤さん夫妻のように、新しい呼び方も比較的、チャレンジしやすいでしょう。そもそも、堅苦しかろうとも「妻」「夫」という呼び方があるので、気になるのであれば、それらを使えばいいとも言えます。

しかし、ジェンダーニュートラルを意識した上で、後者、つまり他人のパートナーについて言うとき、新しい呼び方を試すのは、『カルテット』のように話題になる、つまりまだ珍しいことであると考えることもできます。

他人のパートナーについて言うときは、どうしても無難に、男性の場合は「ご主人」「旦那さん」、女性の場合は「奥さん」など、ジェンダーニュートラルではない呼び方になりがちではないでしょうか。

一つの例として、日本語には昔から「お連れ合い様」や、近年では「パートナーさん」など、夫婦を片方から見たフラットな言い方も存在します。ジェンダーニュートラルを目指した模索が続く中、こうした表現が、いわば暫定解として用いられている現状もあります。

呼び方は時代により移ろいゆくもの

ここで、パートナーの呼び方は時代により変化してきたものだということも、あわせて考える必要があります。

ジェンダーニュートラルでないとして現在、問題視される「嫁」「主人」などの表現が、家制度を前提としていることは先に述べたとおりです。では、それ家制度が作られた明治以前は、パートナーをどのように呼んでいたのでしょうか。

実は、江戸時代以前には他人のパートナーを指す呼び方が、複数あったのです。例えば、日本国語大辞典(小学館)によれば、「御台所」という言葉は、近世では将軍の妻を指す言葉です。

同様に、「奥様」はもともと、公家の内室、大名の正妻など、身分のある人の妻を指す言葉でした。武家の妻を指す「御新造」、商家の妻を指す「御内儀」という言葉もあります。庶民は「女房」や「おかみさん」と呼んでいたとされます。

家制度以前、上記の身分制度があった時代には、このように今ではまったく使われなくなった呼び方がありました。一方で、「奥様」のように、もともとの意味から変わって、今も使われ続ける言葉もあります。

こうして相対化してみると、パートナーの呼び方は移ろいゆくものだったことがわかります。「妻さん」「夫さん」のように、その時代に適したものを、当世の人々が生み出そうとする試みは、これまでも繰り返されてきたことでもあります。

同時に近年、これまで見過ごされてきた差別や偏見を解消しようとする流れが強まっているのも事実です。差別や偏見を再生産することのない、新しいパートナーの呼び方の模索は、誰もが当事者として取り組むことのできる一歩と言えるのではないでしょうか。

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