連載
#55 「きょうも回してる?」
こだわった焼き面の「シズル感」 宇都宮餃子11種をガチャガチャに
「宇都宮餃子会は、餃子だけの組合。餃子を取り上げられたら何もありません」
「旅くじ」「ホテルガチャ」――。企業がガチャガチャをビジネスツールとして活用する事例が相次いでいます。さらに、そこに地方活性化の要素が入り、生まれた「街ガチャin 宇都宮」。市内の餃子をアクリルキーホルダーにしたその姿はシュールかつ、えもいわれぬ魅力にあふれています。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
2021年からガチャガチャをビジネスのツールとして活用するケースが増えています。この活用には2つの背景が考えられます。
ひとつ目は、企業のアピール戦略です。企業は、ガチャガチャの筐体を置けるスペースさえ確保すれば、商品をアピールできます。
例えば、LCC(格安航空会社)のPeach Aviation(ピーチ)が「旅くじ」の名前で5000円のガチャガチャを販売したり、東武鉄道が宿泊券や食事券を商品にした「ホテルガチャ」を販売したりするなど、今でも様々な企業がガチャガチャのメリットを活かして展開しています。
もうひとつの背景はガチャガチャ業界の第4次ブーム牽引の立役者である専門店の出店ラッシュです 。
ガチャガチャが好きな人のみならず、ガチャガチャに興味がなかった人まで、日常の至る所にガチャガチャを販売する筐体を目にする機会が圧倒的に増えはじめたことで、ガチャガチャを購入することに抵抗がなくなったからです。
この2つが重なり、ガチャガチャをビジネスのツールとして活用する事例が相次ぎました。
特に、このビジネスツールとしての魅力を生かした地域活性化が注目を集めています。ご当地ガチャです。
地域活性化と言えば「ご当地キャラ」。各地で活躍するご当地キャラが地域の産業を盛り上げ、メディアにも多く取り上げられるようになりました。
しかし最近では、一時の異様な盛り上がり に 比べると、メディアに取り上げられることが少なくなったような気がします。そこで、地域活性化の次の手として打たれたのが 、ガチャガチャです。ご当地のガチャガチャは、以前からメーカーが国内の名所・名産として販売をしていましたが、ガチャガチャメーカー以外の企業がフィギュアなどを作った場合、初期投資が高すぎます。
ですが、 フィギュアではなく「アクリルキーホルダー」なら初期投資も抑えられ、小ロット生産でも作ることが可能になります。このメリットを活かして、特定の地域をピンポイントで選んだ「大宮ガチャ」、「浦和ガチャ」、「与野ガチャ」、そしてこのコラムでも紹介した「街ガチャin 船橋」などが発売されました。ニッチだけど地元民に愛されているスポットやキャラクターを紹介することで地域を盛り上げることに貢献しています。
今回は「街ガチャ」として3月に発売した「街ガチャ in 宇都宮」を紹介します。この商品は、Techガチャ研究所と協同組合宇都宮餃子会(以下、宇都宮餃子会)で制作した宇都宮餃子のアクリルキーホルダーです。
きっかけは、Techガチャ研究所に携わっている、栃木県出身の酒井朋慧さんが 「街ガチャin 船橋」を見て、栃木バージョンも作りたいと思い、宇都宮餃子会に問い合わせたことです。
酒井さんは「栃木といえば、餃子です。アクリルキーホルダーで作るなら、餃子は面白い 」と話してくれました。
酒井さんは宇都宮餃子会の事務局の鈴木章弘さんに宇都宮餃子の商品化の提案をします。偶然にも、鈴木さんはもともとガチャガチャを作りたいと模索をしていたところに、酒井さんの提案があったそうです。
鈴木さんは「酒井さんの提案の前にも、餃子の商品化のお話がありましたが、私が思い描いた着地になりそうになく、断念していました。酒井さんを含めた関係者の取り組みや、ものづくりに対するこだわりを聞いて、面白いものができると思いました 」と話します。また、メンバーの中に 栃木県の出身者もおり「これは何かのご縁ではないか」ということで、商品化につながったと言います。
たかがアクリルキーホルダー、されどアクリルキーホルダーです。この餃子のアクリルキーホルダーには、ひと目では気づかないこだわりが詰まっています。
驚いたのは、ラインナップにある10種類の餃子ひとつひとつサイズを計り、実物の約60%のサイズの大きさにして、各店の餃子の大きさが比較できるようにしたことです。また、焼き面を主役にしたデザインで、「焼き」の違いも見ることができます。
鈴木さんは「今回は平面上のアクリル板ですが、平面のなかに、どれだけ餃子の皮の焼き具合、つまりジュージューした臨場感を表現する『シズル感』を出せるか。これはすごく大切にしました」と話します。
さらに、鈴木さんには制作するうえで、ある想いがありました。
「宇都宮餃子会は、餃子だけの組合で、国内唯一です。餃子を取り上げられたら何もありません。どんな商品を作るにしても、『餃子を食べたくなる』や『餃子を愛おしくなる』という想いを抱けるものを作りたい。ガチャガチャと言えど、餃子をしっかり感じられるものを必ず作りたい」(鈴木さん)
鈴木さんの餃子への想いに酒井さんは共感し、餃子のサイズ感や色味など何度も試行錯誤したそうです。最初の試作品では、お店のお土産用の箱を全面に出したものと各店舗の餃子のアクリルキーホルダーでしたが、鈴木さんは「あくまでも主役は餃子です」ということで、餃子の焼き面を全面に出したアクリルキーホルダーに変更となり、いま の形になりました。
ラインナップの餃子の焼き面を区別できるかというと、正直私はどれがどれだかわかりません。しかし、鈴木さんの話 を聞いているうちに、一般の人にはどうでも良く、しょうもないことに、とことんこだわる。これこそ、ものづくりの醍醐味かもしれないと感じました。
「餃子の形自体がキーホルダーになったものはこれまでもありましたが、餃子の焼き面を主役にした商品はありませんでした」と酒井さん。
「餃子の焼き面を商品化するなんて、もはや意味がわかりません」と笑います。
でも、そこがポイントだと言います。「何だかわからないところも含めて、宇都宮餃子を知ってほしい。SNSを見ると、餃子好きはたくさんいます。ぜひ、手に取ってその違いに気づいて、実際に食べにきて欲しいですね」
完成品を見た鈴木さんは素晴らしい出来になったと感じ、「実際に手に取ったお客様に300円以上の価値を感じて欲しくて、しょうもないことにも、徹底的にこだわりました。私たちは毎日餃子を眺めていますが、餃子の形や焼き色はそれぞれ違うのは知っています。一般の方はそこまで気づきません。実際に、餃子を眺めるのは難しいですが、キーホールダーになると眺めることができます。宇都宮餃子の違いを知っていただく一番の良い機会です」と嬉しそうに話してくれました。
販売を開始してから、販売個数は3000個を突破し、増販になるほど好調だそうです。設置したお店も「お店の反応は良く、お店の人自身が喜んで購入して、『自分のところの餃子がなかなか出ない』と言ってくれています」(鈴木さん)
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設置した筐体は、Techガチャ研究所が開発した「ピピットガチャ」。この筐体は各種QRコード決済に対応しており、電源を入れれば設置できます。(一般の筐体は、お金の管理など手間がかかります。しかし、ピピットガチャはお店を運営しながら手間がかからないのが、今回の商品の特長と言えます)
街ガチャin 宇都宮は、味一番/宇都宮餃子館/宇都宮みんみん/ぎょうざの龍門/幸楽/香蘭/彩花/さつき/高橋餃子店/めんめん/シークレットの全11種類。1回300円。
また、 設置場所は、ラインナップに入っている10店舗の餃子店のほか、来らっせ(本店・パセオ店)、宮カフェ、道の駅「うつのみや ろまんちっく村な」ど宇都宮市内に設置しており、今後も設置店舗は拡大していく予定。
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