行く先々の「そっくり」な…

少し後、記者は高円寺に住み始めました。「おや?」自宅の近所に、そっくりなマンションを見つけました。




秀和レジデンスをこよなく愛し、最近『秀和レジデンス図鑑』(株式会社トゥーヴァージンズ)という本を出版した著者の谷島(やじま)香奈子さん、haco(ハコ)さんを取材し、その“偏愛”ポイントについて伺いました。
第一号・青山の竣工は1964年
当時は高度経済成長期。オリンピックもあり好景気の日本では、 政府が持ち家政策を推進したこともあり、いわゆる“マンションブーム”が始まっていました。第一号の設計者は駒沢オリンピック公園の体育館などでも知られる建築家の芦原義信さんでした。
その後、2000年までに144棟の秀和レジデンスが建設されました。そのうち現存するのは134棟。多くは東京都に集中しますが、北は北海道、南は福岡まで、日本の各地に存在します。
谷島さんは不動産・リノベーション会社の代表を務めていて、建築のプロであるだけでなく、秀和レジデンスの情報を集約したウェブサイト『秀和レジデンスマニア』の運営をしながら、自身も秀和レジデンスに住んでいます。
秀和レジデンスの特徴として、よく挙がるのが前述した「青い屋根瓦」「白い塗り壁」「曲線を描くバルコニーのアイアン」。谷島さんはそれ以外にも、プロ視点からの特徴があるとします。
「実は秀和レジデンスの全体の約3割は港区・渋谷区に集中するなど、都心の立地のいい場所に建っています。築年数は古いですが、管理がしっかりしており、賃貸・分譲ともに人気のマンションです」
利便性の高いエリアにたくさんあるということで、やはり記者のように「デジャヴ」と感じる人もいるかもしれません。それはこのような立地の特徴によるものと言えそうです。では、実際の秀和レジデンスでの暮らしはどんなものなのでしょうか。
「一番の魅力は、コミュニティーだと思います。秀和を好きな方が入居しているため、同世代では同じ感覚を持った方が多いと感じます。また、何かしらのデザインに関わる方が多い印象です。特に子どもが小さい頃は、同じマンションの方に助けられました。古いマンションですが、ゴミ置き場やエントランスの植物の管理もしっかりしていて、マンションが大事にされていることを感じます」
不合理を大切にしたデザイン
「どんどん気になりだして」、以来、各地の140棟弱、つまりほとんどの秀和レジデンスを見にいくほどになりました。
そんなhacoさんは、秀和レジデンスの魅力を「同じように見える特徴の中に、実はさまざまな違いがあるところ」だと説明します。
例えば、「白い塗り壁」はラフウォールと呼ばれますが、モルタルの塗り方が棟により異なり、その模様は「犬」のように見えるもの、さらに「蝶」「珊瑚」「稲妻」「波しぶき」などさまざまです。



hacoさんが出合ったときの「かわいい」という感想は、まさに秀和レジデンスのデザインのコンセプトだったことがわかるエピソードです。そして一見、合理的ではないように思われるデザインについて「『かわいい』を一番大切にしてもよかった時代を羨ましく思う」こともあると言います。

【連載】#ふしぎなたてもの
何の気なしに通り過ぎてしまう風景の中にある #ふしぎなたてもの 。フカボリしてみると、そこには好奇心をくすぐる由縁が隠れていることも。よく見ると「これなんだ?」と感じる建物たちを紹介します。