連載
#54 「きょうも回してる?」
試練のガチャガチャ業界、社長が賭けたニッチ路線は…働く車エブリイ
「働く車感を全面に出したルーフキャリアと、脚立を付属した付加価値は最高です」
ガチャガチャ業界の課題に立ち向かうため、「ニッチなジャンル」に果敢に挑み続けるメーカーがあります。1/64 スケールのスズキ「エブリイ」 で「無駄なこだわり」を追求する理由をガチャガチャ評論家のおまつさん(@gashaponmani)が取材しました。
ガチャガチャ業界は現在、3つの課題に直面しています。
一つ目は、原材料費の高騰です。ガチャガチャの商品は、塩化ビニル樹脂(PVC)やABS樹脂が多く使われていることから、多くのプラスチック材料が使われています。プラスチックの価格は原油価格に大きく影響を受け、石炭価格の上昇に伴うユーティリティコストや物流費の増加なども続いており、メーカーにとって厳しい環境に置かれています。
2つ目は、物流の遅延です。商品の8割近くが中国生産のため、21年から続くコンテナ不足などの影響により、輸送リードタイムが延びています。商品が出来上がっても、発売日に日本に届かない状況が今もなお続いています。
3つ目は、生産拠点の中国の賃金の高騰です。これはコロナ前からの課題であり、三菱UFJ銀行がまとめた中国主要都市の最低賃金推移を見ると、2011年から賃金は上昇傾向になっていることがわかります。
プラモデルなどの玩具は商品を求めているユーザー層によって、価格設定が自由にできるため、対策ができます。しかし、ガチャガチャの価格は200円や300円、高くても500円と相場が決まっているため、価格の変更の自由度がありません。業界全体が現在の価格で維持していくのが大変な状況になっています。
大手メーカーやガチャガチャ以外の事業があるメーカーは、この厳しい状況を乗り越えていく可能性があります。しかしながら、業界のほとんどが中小零細メーカーです。
中小零細メーカーは、現状の価格で商品化できるように仕様とコストを合わせる難しさを乗り越えつつ、かつ大手メーカー2社のバンダイやタカラトミーアーツの背中を追いながら、新規メーカーの参入が増えたことで、厳しい生存競争に打ち勝たないといけません。
さらに、薄利多売な業界のため、販売数量がある程度ないと赤字になります。私の肌感覚では、1商品が最低でも5万個以上売れないと採算が合わないように感じます。昨年、メディアにガチャガチャが多く取り上げられ華やかな業界だと感じる人がいるかもしれませんが、中小零細メーカーは生き残りをかけて死闘を繰り広げています。
トイズキャビンの代表の山西秀晃さんは「既存メーカーと戦って、生き残っていくためには、他社がやらないことをやるしかありません。絶対的な差別化をするために、トイズキャビンの色を打ち出していきます」と話します。
ニッチなジャンルで、こだわりを追求するトイズキャビンの商品には、ひとつの戦略があります。
「ガチャガチャ業界では、ガチャガチャにそんなに興味がないライト層でも商品を買ってもらわないといけません。その上で、マニアが欲しがる超ニッチ商品と、それがライトな層も巻き込める商品かどうかを、いかに選別するかが重要です」(山西さん)
トイズキャビンがニッチなジャンルで得意とするのが、自動車です。なぜなら、山西さんは元模型メーカー出身であり、約20年間車のミニカーやプラモデルを販売した経験があるからです。その経験から、どんな車が車ファンに人気があるか、どんな車だったらどれだけの受注数が取れるかを把握できると言います。
今回は「1/64 スズキ エブリイ コレクション2」です。本来なら1月発売予定でしたが、物流の遅延で3月1日からの発売となりました。
前作の「1/64 スズキ エブリイ コレクション」は2019年に発売し、1ヵ月半で完売しました。今回は「スズキ エブリイ」がグレードアップして再登場です。
スズキ エブリイは、商用車として多く使われている車で、郊外で良く見かけます。
スズキ エブリイを選んだ理由を尋ねると、山西さんは「誰もが知っているスポーツカーなどの商品はすでにあります。それと同じことをしても意味がありません。他社がやっていない商品であり、なおかつ、マニアも買ってくれ、ライト層にも需要があると考えたときに、スズキ エブリイでした」と教えてくれました。
また、山西さんは、「スズキのエブリイは生産台数が多い車のひとつです。さらに、フルモデルチェンジまでの期間が長いのです。モデルチェンジのスパンが長いからこそ、ずっと同じ形を売り続けることができるといいます」と、今後の販売を見越しての戦略を立てていました。
さらに、キャラクター商品は、放映期間には売れますが、時期が過ぎれば、販売の伸びが鈍くなります。しかし、車の商品は1度しっかりと作ってしまえば、メーカーの投入のタイミングで再び販売することができ、車の商品は流行り廃りがないと言います。
流行り廃りが無いからといって、山西さんは手を抜きません。
再登場した今回のスズキ エブリイもこだわりがたくさん詰まっています。
まず、リアハッチの開閉を可能にしたことです。山西さんは、「スズキ エブリイは、お客様がおも写で情景を使うことも考え、リアハッチを開閉にしました。それだけで情景映えがします」と、商用車だからこそ、遊び心を追加したい想いが見てとれます。
また、スズキ エブリイに乗った人ならわかるのですが、実物の車体は積載面積を広げるために、リアシートを展開したバージョンとリアシートを収納したバージョンがあるのですが、今回のガチャガチャ商品も同様の仕掛けがあり、車ファンが驚くニッチな部分も追求し再現しています。
これは、前作を踏襲しているこだわりですが、ニッチすぎたのか、「(前作では)まったく評価されませんでした。ひょっとしたら、ほとんどの人が気づいてくれなかったかもしれません。かなり無駄なこだわりでした」と、山西さんは笑って教えてくれました。
今回の目玉は2つあります。ひとつは、ルーフキャリアと脚立が付属している点です。
「前回、完売で買えなかった人や、もうすでに買ってもらった人に、もう1回買ってもらえるように、ルーフキャリアと脚立をつけました。電気屋さん仕様にも出来るし、工務店さん仕様にもアレンジできます。全5種類のうち、4種類にルーフキャリアと脚立をつけたことにこそ、今回の狙いがあります。超マニアな人にとっては、『これだけで300円払っていい』と思う人は一定層います」(山西さん)
2つ目は、働く商用車として、山西さんがどうしても郵便車を作りたい想いで、日本郵便に掛け合い、実現した郵便車(日本郵便許諾済み)がラインナップに加わっていることです。
最後に、山西さんに今回の仕上がりについて尋ねると、「働く車感を全面に出したルーフキャリアと、脚立を付属した付加価値は最高です。そして、目玉の郵便車が入ることが最大の売りになっています。買う人を100%満足できる仕上がりになっています」と話してくれました。
このこだわりこそ、トイズキャビンの色がでた商品です。
◇
1/64 スズキ エブリイ コレクション2は、スペリアホワイト、シルキーシルバーメタリック、ノクターンブルーパール、ブルーイッシュブラックパール、郵便車の全5種類。1回300円。
1/14枚