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「イヤなら今すぐ出てけ」〝猛獣〟だった母を持つ苦しみマンガに

出典: 田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

目次

「勉強は?」「早くして!」と口を出し、選んだ洋服には「ダメ出し」。進路は勝手に決めてしまう――。そんな〝うるさい〟〝うざい〟親は、なにゆえにうっとうしいことをするのか。子どもの思いは?
 
そんな疑問を、漫画家の田房永子さんが著書「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)で、解き明かしています。話を聞いてみると、ヒントは、田房さんが禁句にしている、親が言い返す時に言ってしまいがちなあの一言にあるようです。

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出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

理想像の押しつけがつらい

著書では、「人の100倍うるさいお母さんに育てられた」田房さんが、中高生だった頃に経験した嫌な出来事について、何がどう嫌だったのかを振り返っています。その上で、母親になった田房さんが、なぜ親は〝うざい〟ことをしてしまうのか、考察しています。

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

嫌だったことの振り返りは、こんな具合です。

田房さんが嫌だったことの一つが、中学受験。急に塾通いが決まり、別の習い事は打ち切られました

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

成人した後の田房さんの視点では、この件について、田房さんの事情はお構いなしだったこと、強制されたのに「お母さん」の頭の中では「娘が自ら選択した」とすり替わっていたことが嫌だったと振り返っています。

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

ほかにも、小学校の時に服を勝手に選ばれていたことや、「オシャレと料理が好きな女の子になってほしい」といった理想像を押しつけられたことがつらかったと、成人した田房さんの視点で思い返しています。

「ダメ人間」と思い込む

ただ、中高生の頃は、息苦しさはあったものの、「親に感謝しなさい」「お母さんは一生懸命なのよ」といった周囲の言葉を聞いては、「私が悪いのでは」と自分を責めていたそうです。「うるさい親を前にして苦しい時は、ダメな人間だと思い込みがちです」

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

そんな経験から、田房さんは「自分の事情を聞く」ことが大切だと話します。

「ずっと親の事情ばかり汲んでいたことに気づきました。私の事情は誰にも汲んでもらっていない。私の事情は私が汲んであげればいいと知ってから人生そのものが変わりました」

「行動」と「人格」を分けて尊厳を守る

「私の親は社会的に善人です。でも私にとってはとんでもないことをしでかす猛獣でした。でも猛獣の部分も、聞く人によっては『親ってそんなもんだよ』と笑われたりして、それらの落差をどう捉えればいいのか分からず長年苦しみました」と田房さん。

「そこで親の事情や世間の声は置いておいて、自分の『いやだった、つらかった、なぜならこうしてほしかったから』という事情だけに寄り添いました。そうやって自分を癒やしていくと、『毒親育ちのダメな人間』とむやみに自分を全否定していたのが、『親にこうしてほしかったという気持ちが強く残っている(行動の部分)けどがんばってなんとか生きてきた私(人格)』と分けて捉えることができるようになりました」と話します。

「親に対しての印象も変わり、もともと悪い人ではないという親の『人格』の部分と、いくら子に対してであってもそんなことはしちゃいけなかったはずだという『行動』の部分を整理して捉えられるようになりました。相手や自分の人格や尊厳は否定せず、間違った行動を罰する感覚です。この感覚は子育てにも役に立っていると感じます」

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

禁句は「お前のため」

2児の母親でもある田房さんが禁句にしているのは、「お前のため」です。

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

田房さんは、子どもの頃の自身の「事情」を聞いてきたことで自分を否定せずに済んだと話します。そのため、我が子の気持ちにも耳を傾けようとします。

ところが、つまずきました。

ある朝、登園時間になっても子どもが自宅で遊びたがりました。子どもの気持ちを優先しようにも、仕事を控えた田房さんは保育園に連れていかなければなりませんでした。

こうした体験を通じて、思います。

子どもには欲求や衝動がある。でも親は、ルール、集団生活など、社会で共有されている通念やシステムの中で生きていけるように伝える必要があるんだ――。

著書では、社会の通念やシステムを「A面」、子どもの気持ちや生理的な欲求を「B面」と呼んでいます。

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

田房さんは、この「A面」には「世間の声」が反映されているとします。この「世間の声」に、親自身の疲れや不安が加わると〝うるさい〟親を生むのだと言います。

「子どもには一定の睡眠時間が必要」というA面のルールを伝える際、親自身が疲れていたり、不安だったりすると、「早く寝なさい!」という〝うるさい〟一言が発せられると分析します。

出典:田房永子「なぜ親はうるさいのか 子と親は分かりあえる?」(筑摩書房)

こうした時、一緒に発せられがちな「お前のため」「あなたを思って」を、田房さんは禁句にしているそうです。

気持ちの「成分」を把握する

「『お前のため』と言った瞬間に、親が〝うるさい〟責任が、子どものせいにされてしまうと思うのです」

普段は「絵本を読むから」などと言って寝室へ促すことができるのに、その日に限って疲れから「早く寝なさい!」と大声を出してしまった時、「あなたのためよ!」と言ってしまうと、親自身が自分で汲むべき事情から目を背けてしまうことになると指摘します。

「親自身の気持ちは、どんな『成分』なのか、きちんと整理して把握しておくことが、〝うるさい〟〝うざい〟親となって、子どもを追い込むことの『歯止めに』にもなると思います」

取材を振り返って

田房さんのお話を聞いてみたいと思ったのは、#役に立つ呪縛 という企画とつながる部分があると思ったからです。

「役に立たないと」「有用であれ」――。私たちの社会には、そんな呪縛があふれているのではないか。そんな問題意識をもった同僚たちの声掛けで始まった企画です。

私は共働きの妻と娘(5)を育てています。この「有用であれ」というメッセージは、子育てでも伝わってしまうことがあるだろうと思っていた時に田房さんの著書に出会いました。

田房さんは、社会の通念やシステムを「A面」と呼んでいます。その「A面」には、「ナンバーワン」「努力すれば成功する」「優劣」「学歴」「肩書」といった「有用性」と親和性の高い言葉が並びます。

子育てを通じて、「有用性」「生産性」を軸にした価値観をどう伝えるのか、避けては通れないのかもしれません。

だから、せめて「お前のため」と言うことなく、そこに親自身の欲求が混ざり込んでいないか、自分自身に目を光らせたいなと思いました。

#役に立つの呪縛 ご意見お寄せ下さい

インフルエンサーが「ホームレスの命はどうでもいい」と発言して炎上、謝罪しました。

「役立つかどうか」「価値があるかどうか」で人間を判断するような基準の広がりが根底にあるのではないでしょうか。

一方で、「役に立ちたい」という個人の思いは、自らを苦しめることもあれば、肯定的にとらえられることもあります。

さまざまな視点で「役に立つ」を考えます。みなさんのご意見も「#役に立つの呪縛」でつぶやいてみてください。

メール(dkh@asahi.com)でも感想や体験談をお待ちしております。「#役に立つの呪縛」係へお寄せください。

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