話題
辻元さん、いま何しているんですか? 落選した〝その後〟聞いてみた
「疲れて弱って…モラトリアム大事に」
落選した議員って何をしているんだろう……? そう思ってアポを入れたのが辻元清美さんでした。立憲民主党の衆院議員として、国会で激しい論戦を交わしてきましたが、昨年10月の衆院選で日本維新の会の候補に敗れ、まさかの落選。「心も体も相当疲れて弱っていました」。1年に数日しかない休日、嫌われても首相に切り込む理由。落ちた今だからできる話を聞きました。(時事YouTuber・たかまつなな)※インタビューは昨年12月に行いました
――衆院選で落選された後、今は何をされているんですか?
介護の仕事をボランティアで行っています。これは国会に行っているときにやりたくてできなかったこと。介護のヘルパーの資格をずいぶん前に取っていて、これから高齢化社会だから、現場をもうちょっと勉強しなきゃと思っているんです。
――辻元さんが衆院選で落選されるとは思っていなかったので、正直、衝撃でした。今回の選挙の象徴的な出来事だったと思います。取材依頼などが殺到していてお忙しいと聞いています。
選挙のあと、取材とか番組出演の依頼が多かったんですけど、去年の11月中はほとんどお断りをしていました。12月からやっと受けようという気持ちになって。
政治活動は、落選もあれば当選もあります。落選してまた戻ってきて、一回りも二回りも大きくなって、いい仕事をされている方はたくさんいらっしゃいますからね。そういう意味では、(今回の国民の)厳しい判断の意味とか、この間に何を学び取るかを考える上で、とても大事な時間をもらったと思います。
――お気持ちの整理をされていたということですか?
そうですね。魂を休めていたというか。前の選挙からの4年間、希望の党騒動があったでしょ。それで6党1会派に空中分解しちゃって。私はそれをまとめて国会運営の責任者として国対委員長になったので休む暇はなかったです。
国対委員長を2年間務めた後は、予算委員会の筆頭理事という、論戦の最前線に行くわけですね。私の場合はそれだけじゃなくて、大阪に戻ってきたら大阪維新がいて、2回住民投票があって。住民投票は勝ちましたけど、橋下さん、松井さん、吉村さんとかと対峙(たいじ)していますから。
政治的にはそういう板挟みにあっていて、ネットでデマを流されたり、バッシングされたりすることも多かったので、相当緊張して活動を続けてきたんです。だから心も体も相当疲れて弱っていました。
――意外です。辻元さんって強くて、あんまり落ち込んだりしないのかと思っていました。
そんなことないですよ。初当選が1996年で、25年間活動してきたんですけど、25年以上活動している女性議員は、野田聖子さんと高市早苗さんと私と3人なのね。やっぱりすごく男性が多い世界なので、女だと馬鹿にされたり、ちょっとしたハラスメントにあったり。
例えば、私が予算委員会とかで質問をしていたら、安倍総理とかがやじを飛ばしたりするじゃない。総理大臣が質疑者にやじを飛ばすって今までないですよ。
――辻元さんの『国対委員長』という本を読ませていただいたんですけど、メディアで取り上げられることも意識して質問をされると書かれていました。一方で、例えば総理に対して厳しい質問をすると、そういうきついイメージとか、反対ばかりしているイメージもついてしまうと思うんですが、そこはどう思われますか?
メディアに取り上げられることを意識しているというのは、国民にどう言葉を届けるかということです。官僚に書いてもらったものをずっと読んでいる人いるでしょ。あれは大嫌いなんですよ。
予算委員会の、特に総理大臣に直接質問できる人は、国会議員の中でも特に数が限られているから、私はあそこに立ったときには、国民のみんなが聞きたいことを聞こうと。それも普通の言葉で、子どもが聞いても分かる言葉で問いかけたかったんです。
厳しいやり取りをする理由は、総理大臣を忖度(そんたく)してよいしょをしている国は、いい政治をしているとは思えない。どんな総理大臣に対してもおかしいことはおかしいと、はっきり言う存在が国会にいなくなったら、日本の政治は終わってしまうと思うので。
厳しい質問をすればバッシングも来ると思うけれども、誰かが言わないとだめじゃないかと思ってあの席に立っています。
――今回、衆院選の結果を専門家の方にいろいろと分析していただきました。辻元さんの選挙区については、敗因が立憲民主党の「政党拒否度」が高かったからではないかという指摘があります。つまり、立憲民主党を支持したくないという人が多かったのではないかということですが、これについてはどう思いますか?
立憲民主党への比例票はうちの選挙区も減っています。一方で、私は衆議院で8回選挙を戦っているんですけど、今回、辻元清美と書いてくれた票は過去3番目に多いんですよ。一番多かったのは、政権交代のとき。2番目が前回、立憲民主党ができてご祝儀相場みたいなのがあったとき。3番目が今回です。
でも今回は、吉村(大阪府)知事が来て私にとっては個人攻撃だと思えることをガンガン言われて。ほかにも鈴木宗男さんが来るわ、大阪市長の松井一郎さんは来るわ、自民党も元総理の安倍晋三さんは来るわ、河野太郎さんは来るわ、麻生太郎さんは来るわ。
そういうふうにいろいろな人が来た中で私は一人で戦ってきました。うちの選挙区は平均よりも投票率がすごく高くなった分、全部維新に行っちゃった。それでドンと負けたという感じです。
――立憲民主党に対する風当たりは強くなってきていると感じますか?
比例で私は惜敗率が4番目だったんです。前回、立憲民主党は近畿ブロックで5議席を取ったけど、今回は3議席しか取れなかった。風当たりはきつかったと言えると思います。
――なぜそうなったと思いますか?
野党第1党ということで気負いすぎていたんじゃないかと。野党はいつもチャレンジャーだし、立憲民主党を枝野さんたちと作ったときは、とにかく真っ当な政治に戻したいって立ち上がったでしょ。そういう姿が本来の姿だと思うんだけど、野党第1党だから政権交代しなきゃいけないとか、私が総理になったらみたいなことを枝野さんが言っていたじゃない。有権者の意識とずれていたんじゃないかと思いますね。
――野党第1党として政権交代を目指すことがずれていると……?
将来は目指してもいいんですが、現在は野党の数があまりに少ないので、野党の数を少しでも増やして、健全な議論ができる国会にしてほしいという感じだったのかなと。
政権交代と言えば言うほど、有権者の皆さんが「え?」って。「ちょっとあんたたちまだ早いんじゃない」と。
――今回、専門家の方に聞いた話だと、辻元さんの票の取り方として、ドブ板選挙が通じるようなところはものすごい得票率が高くて、都市型のところがすごく難しかったんじゃないかというお話をされていました。
小選挙区は都市型でもドブ板をやらないと無理だと思う。その上で、SNSとかで風を作っていく。私は組織がないので、どちらかというと都市型の風選挙で勝ってきたんですよ。今回は、それよりも大きな風が維新に吹いたということだと思います。
――国会では辻元さんをすごく見ましたし、ニュースでも頻繁に見ました。どうして負けてしまったんですかね。対抗の池下卓さん、今回、初めて知った人も多かったと思いますが……
この10年間、橋下さんが出てきてからの維新というのは、ただの風じゃないんですよ。自治体議員は300人ぐらい出てきて、大阪では第一党なわけですよ。
例えば私の選挙区で、何回か前の地方自治体議員の選挙があって、維新から立候補した人たちが1位、2位で通るわけ。この2人がその後、維新を辞めて、無所属で出たら落選したの。
だから、維新の選挙っていうのは、個人じゃなくてブランドなの。維新っていうブランドで勝っている感じですね。
――立憲民主党の課題についても伺います。立憲民主党を見ていると、本当に若い人とか女性が当選できるのかなと疑問に思ってしまいます。若い人が立候補した選挙区は、そもそも強い対抗馬がいて絶対無理じゃんというところだったりして、気の毒に感じてしまいます。もっと本気で当選させてあげたり、その後、責任を持ってその人の人生を支えてあげたりするぐらいはしてほしいと思うのですが。
今回、衆院選で相当善戦したのが、岐阜県の今井るるさんで年齢は25歳。一つの自治体ではベテランの古屋さんに勝ったんだよね。
彼女はまたチャレンジすると言っているので、そういう人たちをきちんとサポートするのは大事ですよね。私も初当選は36歳でしたけど、あのときに土井たか子さんの支えがなかったら、その後続いていなかったと思います。
――女性の名簿順位を上に上げるとかはもっとできないんですか?
それはいつも議論になるのね。いつか実現したいと思うけど、やっぱり党内でも反発がありますよね。名簿を上に上げると、誰かが1人落ちるわけじゃないですか。
――ベテランの人はいいじゃないですか。自分の実力で受かってくださいよ。
夏には参議院議員選挙があるけれども、候補者をまず男女同数にするとか、できるだけ若い人たちを出すとか、そういう努力を各政党がやるかどうかは、支持が上がるかどうかの大きな鍵になってくると思います。
――政治家に女性が増えない理由に、忙しさもありそうですね。辻元さんは、1カ月に何日ぐらい休めていましたか?
ほとんど休めないよね。月曜から金曜までは国会に行って、金曜日の夜に大阪に帰って土曜日、日曜日は朝から晩まで地元の活動があるでしょ。
私は土日のどちらかで街頭演説もやっています。月曜日の朝7時前に駅に行って、街頭でごあいさつして国会報告を配って、朝8時半ごろまでやったらその足でまた国会に出てというのをずっと続けるわけですよね。お正月とお盆に2日ぐらいずつ休んで、ゴールデンウィークに1日か2日休むかという感じです。
――1年に5日か6日しか休めないんですね。大変ですね。
小選挙区という制度では、すごく狭いところで選挙を戦いますので、いろいろな地元の行事にしても「自民党の議員は来ているのに」とか、「辻元は偉くなったんか、顔も出さへんな」とか言われるわけです。そうしたら行かなくちゃと思って行くじゃない。
――それが若い人や女性が政治家になりにくい要因の一つかもしれませんね。
私もそう思いますね。忙しいと大きく政策を考えるのが難しくなる。だから世襲議員が多くなる。親から地盤、看板、カバンを引き継ぐ。そういう人しか議員になれないような状況は考え直さなくてはいけないし、マイクで車で回るというこれまでの選挙運動も、やり方をもっとスマートにするとか、選挙制度のあり方を見直したほうがいいと思います。
――辻元さんは7月の参議院議員選挙に出られるんですか?
今はデトックスして、先のことは、年が明けて考えようかと思っています。地元の大阪以外にも、全国で応援してくださっている方から「辻元清美を応援しているのに大阪の狭い範囲でしか投票できない」ってご連絡をいただいたりして、すごくうれしいんですよ。
ただ、今はちょっと立ち止まって、せっかくもらったモラトリアムを大事にしようかなと。どう思う?
――差し出がましいですけど、次の衆院選に出てもう一回小選挙区で勝ったらかっこいいなと思います。その間、立憲民主党の党の立て直しをやってほしいです。女性の名簿順を上げることや、若い人を当選させやすくするとか。自民党の一党政治だと日本の政治は良くならないので、強い野党は絶対に必要だと思います。
強い野党がいりますよね。どこが与党になっても野党になっても、次、野党は取って代われるというね。イギリスだと、野党第1党のことを、野党を大事にするという意味で、女王陛下の野党って言います。国民の側も、こっちがだめだったらこっちを育てておいて、代われるぞという緊張感を政治に持たせることが、自分たちにとって利益だっていう認識があります。
野党だから叩いてしまえとかじゃなくて、野党もしっかりとサポートしていく。そういう空気とか制度を育てていくのも大事かなと思っています。
――私の会社では主権者教育をやっていて、全国の学校に出張授業に行って、選挙に行こうとか、政治に関心を持ちましょうという授業をしています。でも、正直、根付かせるのが厳しいなと思っていて、どうしたら根付くと思いますか?
一つは教育ですよね。例えば最近だと、権利を理解せずに社会人になる人も多いじゃない。急に雇い止めされても泣き寝入りみたいな。これは主張していいんですよって言っても、「え?」って感じで。だから、中学生、高校生ぐらいはしっかりそういうことを勉強するように変えていかなきゃいけない。主権者教育は大事です。
――日本では寄付文化の土壌が弱い上に、中間支援に全然お金が入らないんですよ。現場の子どもの貧困とか、動物がかわいそうとか、そういうのはもちろん大事ですが、「今」苦しんでいる人への直接への寄付と比べて、うちみたいな団体には集まりにくいですよね。
税制改革で寄付税制をやったとき、寄付した人が税を免除してもらえるようにしてインセンティブを持たせて寄付文化を育てようということになりました。財務省の抵抗がすごくあったけど、民主党政権のときだったから私がガッとやりました。でもいま寄付が集まっているかというと、そうでもないんだよね。社会全体で大事なことを支えていこうという、そういう寄付をもっと作っていかないといけないですね。
――今回、主要6政党の若手議員さんを取材して、どの政党の方もそんなに感覚がずれているとは思わなくて、こういう人たちに前線に立っていただきたいなと思いました。でも皆さん、自分の政党で、子どもや若者向けの制度をマニフェストの真ん中に持ってくるのが大変ですと言っていて、課題も感じました。若い子たちもこの数年、かなり声を上げるようになってはいますが、大人の人たちが聞いてくれないという徒労感や虚無感があるのを感じます。
民主党政権のときのマニフェストでは、親ではなく子どもに着目して、全ての子どもが平等で、全ての子どもにきちんと国がお金を出していこうとか、割とやっていました。少しずつ前進はしていると思うんですよね。
若い人たちが仕事に就きやすいとか、学びやすいとか、少し時間が経って子どもができたときに育てやすいとか、そういうところを手厚くするのは、彼らは納税者なので回り回って高齢者の支援にも繋がります。高齢になった人への支援はもちろん必要だけど、若い人たちに支援をして経済を活性化したり税収を上げたりした上で高齢者に使うほうが健全だと思います。
――最後に、政治家の人って距離感がすごくあるので、政治家の取説をぜひ教えてほしいなと。取り扱い説明書ですね。政治家をこう使ってくれみたいな取説があったら教えてください。
政治家を動かすには、自分の地元の政治家を動かすのが鉄則だと思うの。地元民だと自分の有権者じゃない。だから、みんな国会に行くよりも10倍ぐらい対応するわけよ。
それと、全党行くのは割と大事かも。「あそこの党の人はこうやってくれたんだけど、あれ?」とか言うと「あそこはやりました?じゃあもっと丁寧に」みたいになるから。
もう一つは自治体議員。よく政治を変えなきゃとか言う人に限って「あなたの住んでいる自治体の自治体議員の構成はどうなっているかご存じですか?議員は何人いるかご存じですか?」って言うと知らない人が多いわけ。
自分の住んでいる身近な市議会を傍聴に行くとか、何が市議会で議論になっているか、どういう議員がいるかを調べてみる。身近な議会をまず大事にしていくことが、意志決定に関与していく一つの道かなと思います。
――辻元さんに陳情したいときは、どんな手段で連絡するのがいいんですか?
一番いいのはメールとか文書ですね。電話だと言った言わないになるので、文書でいただいたほうが対応はしやすいです。
――演説中に紙を渡してもいいんですか?
いっぱい来ますよ。手紙とか来ます。あとは説得力のある中身じゃないと。A4ぐらいの紙に、どういう趣旨で自分は何を求めているかを書くのがいいと思います。企画書を書くようなつもりで。時々、ものすごい量を書いてくる人がいるけど、あれではなかなか動かないですよね。
――ありがとうございます。ぜひ皆さん、何かお困り事があったら、辻元さんのもとに。
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