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#112 ○○の世論

憲法改正、安倍さんじゃなければあり? 世論調査に現れた〝異変〟

消費税、野党投票層でも「維持」過半数に

憲法改正を求める集会で流された安倍晋三氏のビデオメッセージ=2017年5月3日午後1時49分、東京都千代田区平河町、山本裕之撮影
憲法改正を求める集会で流された安倍晋三氏のビデオメッセージ=2017年5月3日午後1時49分、東京都千代田区平河町、山本裕之撮影 出典: 朝日新聞

衆院議員選挙が19日に公示されたのを受け、朝日新聞社は19、20日に全国世論調査(電話)を実施しました。有権者の動向を探るため、衆院選での比例区投票先を聞くとともに、争点となる政策課題についても尋ねました。その中で、これまでの調査の傾向と異なる「異変」がみられました。(朝日新聞記者・君島浩)

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消費税、のど元過ぎれば?

衆院比例区の投票先は、自民が38%と立憲13%を上回り、公明7%、維新7%、共産5%などが続きました。

また、投票先を決める時、最も重視するテーマを選んでもらったところ、「社会保障」29%、「景気・雇用」27%が多く、「新型コロナウイルス対策」は18%で、「外交・安全保障」9%、「政治とカネ」8%が続き、「原発・エネルギー」は4%でした。

調査では、具体的な政策課題についても質問しました。

一つは消費税についてです。経済政策としては、立憲などがもともとアベノミクスの失敗をアピールし、「分配」を訴えていたのに対し、自民党総裁の岸田文雄首相も「分配」を重視するスタンスを示しました。

また、コロナをめぐっては、与野党とも「給付金」支給を合唱するなど、与党と野党の方向性の違いが分かりにくくなっています。

こうした中、消費税をめぐっては、与党が消費税率を維持する姿勢を貫いているのに対し、野党は期間や税率については差があるものの、税率を引き下げる、という点では一致しており、与野党間の違いがはっきりしています。

調査では、消費税を10%のまま維持する方がいいか、一時的にでも引き下げる方がいいか、聞いたところ、「維持」を選択した人が57%で、「減税」を選んだ人の35%を上回りました。

朝日新聞社の世論調査では、消費税増税の賛否を尋ねる質問では、「反対」が「賛成」を上回るのが、なかば常識となっていました。

例えば、ちょうど4年前の衆院選公示後調査で「再来年10月に10%に引き上げること」の賛否を聞いた時には、「賛成」は37%で、「反対」は55%でした。

19年には「今年10月に」という形で6回の調査で質問しました。3~7月の5回はいずれも「反対」が多数で、51~55%を行き来していました。

ところが、引き上げ目前の9月調査では賛否が46%で並びました。引き上げ後の10月調査では、「今回の消費税率の引き上げに納得していますか。納得していませんか」と尋ねると、「納得している」が54%と過半数を占めました。反対が根強かった政策でも、いったん導入されてしまうと、反対が徐々に収まっていく傾向があると言えるのかもしれません。

今回の調査は「増税」ではなく、「減税」の賛否を聞いたとはいえ、「減税」が少数だったことには目を見張りました。

消費税が導入されてしばらくは「財布のヒモを握る主婦層は消費税への反発が強い」というイメージがありました。消費増税についての調査では、女性の「反対」が男性を上回るのが通例で、19年の6回の調査でも、すべてそうでした。

しかし、今回の調査を男女別にみると、女性の「維持」は59%と男性の54%を上回りました。特に30~60代の女性では「維持」が6割を超えます。

回答者の比例区投票先からみると、自民投票層の「維持」が67%、公明投票層が56%を占めるのは腑に落ちます。しかし、「減税」を訴えている野党への投票層をみると、「維持」は、共産投票層の42%を除けば、立憲投票層の54%、維新投票層の56%を占めています。

財務省の矢野康治事務次官が、月刊誌「文芸春秋」に、与野党の政策論について「コロナ対策は大事だが人気取りのバラマキが続けばこの国は沈む」と指摘する寄稿をしたことが話題になりました。消費税率引き下げも「問題だらけで甚だ疑問」とやり玉に挙がっています。投稿の波紋が調査結果に影響を与えたかどうかは分かりませんが、矢野氏がこの結果をみれば、ほくそ笑むかもしれません。一方、野党が民意を読み違えているとするならば、戦略の見直しを迫られるかもしれません。

 

内閣不支持層の意識に差

今回の調査では、憲法9条の改正についても質問しました。

岸田首相はもともと9条改正には慎重とみられていましたが、最近では、憲法改正を悲願としていた安倍晋三元首相に接近。今回の自民党公約にも9条改正案を盛り込みました。

9条を改正し、自衛隊を明記することの賛否を尋ねました。「賛成」は47%で、過半数に達しなかったとはいえ、「反対」の32%を上回りました。

質問文は、安倍政権下で行われた4年前の衆院選公示後に実施した調査での文言と同じです。その調査では、「賛成」は37%で、「反対」の40%がわずかながらも上回っていました。今回は賛否が逆転したわけです。

4年前は、男性の賛否は49%対35%と「賛成」が多数。女性は26%対44%と「反対」が多数でした。今回の調査では、男女差が大きいのは同様ですが、男性は58%対29%と「賛成」が「反対」の倍で、女性は36%対35%と賛否が拮抗しました。

安倍政権時代は、この質問の他にも、別の聞き方で9条改正の賛否を問う質問を繰り返していますが、いずれも「反対」など否定的な考えが多数を占めました。したがって、9条改憲をめぐっても、今回「異変」が起きたとも言えます。

比例区投票先でみると、自民投票層は4年前と今回で「賛成」6割、「反対」2割という傾向は変わっていません。一方、公明投票層は4年前は37%対37%と賛否が並んでいましたが、今回は47%対30%と「賛成」多数に転じています。

立憲投票層の「賛成」は4年前は16%でしたが、今回は29%、共産投票層の「賛成」も4年前は8%だったのに、今回は17%、といずれもは「賛成」が増えています。維新投票層は4年前は44%でしたが、今回は68%にはね上がりました。

 

こうした変化の中でも、特に目を引いたのは、内閣不支持層の動向です。

4年前の安倍内閣は支持率38%、不支持率40%で、今回の岸田内閣は支持41%、不支持26%でした。

両内閣の支持層とも、9条改憲の賛否は自民投票層と同様、6割対2割。しかし、安倍内閣の不支持層では、賛否は19%対65%と「反対」が圧倒的に多いのに対し、岸田内閣の不支持層では36%対53%と賛否が接近しています。

【賛成】/【反対】
・岸田内閣支持層=61%/22%
・岸田内閣不支持層=36%/53%
*その他・答えないは省略

安倍政権は、与党に維新などを加えた「改憲勢力」が衆参両院で改憲の発議に必要な3分の2の議席を得ていた時期がありました。

安倍氏が集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法を成立させたことも相まって、改憲の現実味が増したことに対する警戒感の高まりが、「反対」の声を後押ししたとの見方もできるでしょう。

今はハト派のイメージがある岸田首相だからこそ、「反対」が強まっていないのかもしれません。ということは、岸田氏が今後、改憲に前のめりになればなるほど、「反対」が勢いを盛り返すのでは、との推測もできます。

今回の調査でみられた2つの「異変」。どうして生じたのか、たまたま起きた現象なのか、それとも定着していくのか。今回の調査だけから答えを導くのは難しく、今後の調査の課題となります。

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