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〝先生なのに芸人級〟20歳差の都立高担任コンビ M-1予選で熱演
49歳の学年主任と29歳の若手教師…「にしても漫才上手すぎ」
11月上旬、M-1グランプリ2025の3回戦で、「都立高校の先生」コンビが会場を沸かせました。49歳の数学教師と29歳の美術教師。勤務時間外にネタを磨き、学年集会や保護者会でも〝ライブ〟を重ねてきました。準々決勝には進めませんでしたが、ネタ動画には「漫才上手すぎる」と驚きの声が集まっています。
都立高校3年の担任コンビ
「どうも～。『キクバリ』と申します。我々、都立高校3年の先生で、私、1組担任。彼、6組担任。同じ学年で、学年主任やらせてもらってます～」（会場がざわつく）
「はい、じゃあ起立っ！」
「立たないでくださいね～」（観客が笑う）
「先生、天井珍しいね。天井変わってる」
「そう？ 変わってないでしょ」
「だってバレーボールが挟まっていない」
「バレーボールって、体育館じゃないんだよ！」（観客が笑う）
都立高校3年1組の担任で学年主任を務める数学教師の小張雄一さん（49）と、3年6組の担任で美術教師の菊川天照（てんしょう）さん（29）が、テンポ良く掛け合いました。
本業が芸人と言われても疑わないほどの仕上がりです。
「キクバリ」の2人はM-1グランプリ2025に出場し、3回戦まで進みました。エントリー数は史上最多の1万1521組。3回戦に進出したのは約380組で、そのうち、お笑い芸人を仕事としない「アマチュア」は、30組もいません。
M-1公式YouTubeチャンネルに上がる「キクバリ」のネタ動画には、お笑いファンから「かなり面白い！」「発声からしてお笑い芸人みたい」「にしても漫才上手すぎるだろ」といったコメントが寄せられています。
「漫才やりましょう」ベテランからのオファー
「最初、主任から熱烈にオファーをもらったときは『どうしようかな』と思いましたね（笑）。ものすごい分量のネタが送られてきても、『いいですね』と一言二言で返していました」
立ち位置右・ボケの菊川さんはそう話します。
2人の出会いは2019年の秋。大学院生だった菊川さんが教育実習で今の高校に来たとき、小張さんに声をかけられました。
「菊川先生ですよね。漫才をなさっていたそうで。実は僕も学生時代にやってたんですよ。今度どこかでやりましょうね」
菊川さんが大学のお笑いサークルで活動していたと同僚から聞いた小張さんは、「軽いあいさつ程度」に話しかけたといいます。
2021年、菊川さんが教師として高校に赴任してくると、小張さんは再び「機会があったらやりましょう」とアピールしました。初めは軽い気持ちだったものの、次第に〝漫才熱〟が高まり、ネタを4～5本書いて菊川さんにLINEしたそうです。
菊川さんは学生時代にM-1に出場し、2回戦まで進んだことのある上級者。
一方の小張さんは、祖父の影響で幼い頃から横山やすし・西川きよしやオール阪神・巨人の漫才に親しんでいましたが、コンビを組んで舞台に立った経験は大学の学園祭など数えるほどしかありませんでした。
しかし、菊川さんと出会ったことでお笑いへの情熱が再燃。
「彼の反応が薄くても、『そっか、ダメだったか』『次、がんばろう』と心は折れませんでした。久しぶりのネタ作りは楽しくて、いい刺激になっていたのだと思います」
結成はコロナ禍の文化祭
2022年、2人はたまたま同じ部署で席も隣同士になりました。波長があったのか、日常の会話がすでにボケとツッコミ。背中合わせで仕事をする同僚が思わず振り向いたり、吹き出してしまったりするほどだったといいます。
「隣の席になったら、もうこれは逃げられないな」と菊川さんは観念したそうです。
コロナ禍だった当時、9月の文化祭で「制限がある中でも大人が本気で頑張り、楽しむ姿を見せる」ステージが企画されました。
2人はエントリーするため正式に「キクバリ」を結成。7月から小張さんがネタを作りはじめたところ、8月に菊川さんも突然ネタを書いてきたといいます。
「やるとなったらストイック魂が出てきちゃうんですよ。もともと美術専攻なので、ものづくりになったらものすごく入り込んでしまうんです」
文化祭では計6個のネタを披露しました。
その後、「キクバリ」の活躍を見ていた男子生徒たちが、「漫才をやりたいから教えてほしい」と弟子入りしました。指導を受け、翌2023年の文化祭で漫才を披露。観客から大好評だったといいます。
生徒が挑戦する姿に刺激を受けた2人は、「Mｰ1に出よう！」と決意したそうです。
「漫才があるなら保護者会に参加します」
2023年から同じ学年の担任になり、そのまま持ち上がっている2人。これまで年2回の保護者会でも漫才を披露してきました。
毎回おろす新ネタは「生徒に見せるためだけではなく、保護者にも笑ってもらうため」に仕上げます。
最初はセンターマイクの前に立つ教師に戸惑う保護者もいたそうですが、2回目以降は会場の空気が変わりました。
保護者会当日に「今日は漫才ありますか？ あるなら保護者会に参加します」と電話がかかってきたり、3年生の最後の保護者会では「今回がラストライブと聞いたんですけど」と言われたり。
保護者もいちファンとして漫才を楽しんでもらえるようになりました。
1度目のM-1で「ホワイトアウト」
2024年、校長にも許可を得てM-1に初エントリー。「退路を断つ」ため、出場することを学年通信で生徒や保護者に伝えました。
練習は勤務時間外の30～40分。ときには同僚や生徒にも見てもらってウケ具合を観察したといいます。
1回戦の舞台では、2分ネタをやりきった後、緊張が解けて頭痛や吐き気が襲ってきたそうです。
小張さんは「思った以上にプレッシャーやストレスを感じていたんでしょうね」。
菊川さんは「50分の授業をしても気持ち悪くなったことはないのに、どれだけ器がちっちゃいんだって話ですよね」と笑います。
さらに、2回戦でも想定外の出来事が起こりました。
「冒頭の『つかみ』が終わった直後に、僕がネタを飛ばしたんですよ」と小張さん。
「人生で初めての『ホワイトアウト』です。目の前がパチンって真っ白になってしまいました」
隣の菊川さんにもその〝異変〟はすぐに伝わりました。「学年主任がネタ飛ばしましたよ！」と笑いにつなげてネタの流れに戻しましたが、2人の大舞台はそこで幕を閉じました。
会場からの帰り道、小張さんは頭を垂れて落ち込んでいたそうです。
後日、学年集会で生徒たちに結果を報告。「私がネタを飛ばして、失敗してしまいました」。振り返る中で感極まって涙があふれたといいます。
「生徒の前で号泣でしたね。応援してもらったのに申し訳ないって。保護者の期待にも応えられなかった。うまくできたからといって受からないこともある一方で、その土俵にも乗れなかったというのがすごく悔しくて……」
その後、一時は「もう漫才はやらない」と宣言していた小張さんですが、家族や周囲に背中を押され、ネタ作りに取り組みました。
2度目のM-1は
そして再び挑戦したM-1グランプリ2025。ネタを飛ばしたプレッシャーに負けず2回戦を突破し、3回戦までの数週間、3分のネタをブラッシュアップし続けました。
テーマは「会話」であること。ネタを意識した途端にセリフを言い合うようで面白みがなくなってしまいます。練習していても飽きがきて、行き詰まりました。
ネタを見た生徒からも「面白いけど、先生の普段のツッコミのほうが面白いですよ。ネタ用のツッコミになっていませんか？」と指摘されたそうです。
「面白さを追求するためには、逆に面白さを見せてはいけないんだ」
そこからは言葉の言い回しや「間」を綿密に計算。それでありながら自然体の会話を意識しました。
2人はあくまでもアマチュアですが、「初めてちゃんとしたネタ作りができたのかもしれない」と手応えを感じたそうです。
結果は惜しくも3回戦敗退でした。しかし、昨年のように不完全燃焼ではありません。むしろ、すがすがしさを感じていたといいます。
舞台に立つ前、菊川さんは小張さんに「アマチュアだろうとプロだろうと、この3分間は自分たちが占有できる時間。楽しんでやりましょうよ」と伝えたそうです。
見ず知らずの人たちが自分たちの漫才で笑ってくれ、「ここにいていいんだ」と認めてもらえたように感じました。
3回戦の翌日、小張さんはホームルームで生徒たちにM-1の感想を語りました。「全部が輝いていて、すごく楽しかった。人生最高の180秒だったよ」
時を同じくして、菊川さんも「本当すーっごい楽しかったよ」と伝えていました。「頑張って一生懸命やった。たった3分だけど、生きてる実感がする楽しい3分でした」
手段は何でもいい。何かに熱量を持って真剣に取り組んで、燃え尽きるような経験をしてほしい。2人はそう願っています。
「我々は先生ですから、最終的に生徒に還元しないとね。この経験を生徒に伝えることが目的ですから。結果が良くても悪くても」
2人にとって漫才とはどのような存在なのでしょうか。
小張さんは「自分の存在証明。生きてるって感じがしますね」。
菊川さんは「自由帳みたいな感じ」と話します。
「自由帳だから恥ずかしいことも書いちゃうけど、それをたまに誰かに見せてクスッと笑ってもらえるような、人生の落書きであり、余白のような存在かなと思います」
〝先生なのに芸人級〟20歳差の都立高担任コンビ M-1予選で熱演
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