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日本語通じないなら「ポケトークでよくない?」10代の多文化共生
「外国人」ひとくくりにしないで
「多文化共生社会」ってなんでしょうか? 10歳の小学生に20歳の大学生が教えるワークショップが12月、開かれました。「日本語が通じないならポケトーク使えばいい」「YouTubeで見たジェスチャーをためす」。外国から来た人と一緒に働き、ともに暮らす。ワークショップでは、そんな日常が当たり前になっている世代ならではの発見がありました。
「多文化共生って、聞いたことある?」
12月3日、杉並区立杉並和泉学園の小学4年生約30人が参加して、「多文化共生ワークショップ」が始まりました。
企画し、講師役を務めたのは「多文化共生のまちづくり」をテーマに活動する、明治大学国際日本学部の山脇啓造ゼミの学生たちです。
「多文化共生っていうのは、違った文化を持った人と、お互いに違いを認め合って、一緒に暮らすためには、どんなことが必要か考えるっていうことです。みなさんに動画を作ってきました」
学生が見せた動画では、自分のクラスに転校してきた、架空の少女「インドネシア出身のナギラちゃん」が登場します。イスラムを信仰し、髪や肌を布で覆っています。
参加者は、日本人のクラスメート「太郎君」役になります。
「国語」「体育」「休み時間」「給食」など学校の一日を、外国人の転校生と一緒に模擬体験します。
朝の学級会では、先生が「班ごとに春休みの思い出を話しましょう」と呼び掛けます。でもナギラちゃんは、何だか話しづらそう。
「太郎君はどうすればいいかな?」。ゼミ生の問いかけに、班ごとに分かれた子どもたちは考えます。
小学生「インドネシア語で話してもらえば? ポケトークとかSiriで、(AI)通訳してもらえばいいんだよ」
いきなり文明の利器が登場します。
学生「いいね! でも、通訳機がなかったら?」
「あきらめる」と苦笑する子も。すぐに代案が出ます。
小学生「英語で話したら? 『世界の共通語』だから通じるかも」
4年生は、外国語(英語)を必修科目として勉強しています。
小学生「ジェスチャーで話してみたら?」 YouTubeで見たことがあるというジェスチャーも披露する子も。
別の子が続けます。
小学生「まずは話しやすい雰囲気にしてみたらいいんじゃない? 笑わせてあげるとか」
班にそれぞれいる大学生は「それ、いいじゃん!」と笑顔で促します。
ある班では、小学生が「日本語でも知っている言葉があるかも。『どこ?』とか、『誰と?』って、小さな質問をどんどんしてあげたら答えやすいんじゃないかな」と話し出しました。
並べた机と机を使って説明します。「最初は簡単な質問から話していって、だんだん近づいていったらいんだよ」と、離れていた机を少し引き寄せます。
そして机と机の隙間にふでばこを渡して「簡単な日本語の質問が、こうやって『橋』になるんだよ」。
この班に参加していた佐藤優香子さん(21)は「感動しちゃった」と小学生たちの話に聴き入っていました。
頭に浮かんだのは、小3から中1まで、ドイツで暮らしていた自分の「外国人」だった経験でした。通っていた地元のスケートクラブでは「たったひとりのアジア人」。言葉が分からず練習メニューについていけないことがありました。
ある日、チームメイトが、佐藤さんにスケートリンクに絵を描きながら説明してくれました。そして、調べてきてくれた日本語で「ここ、まっすぐ」と言ってくれました。
「私に関わろうとしてくれた気持ちがうれしかった」
海外で、自分が救われた「多文化共生の原体験」。佐藤さんは、小学生たちのアイデアを聴きながら、その時の気持ちを思い出していました。
ワークショップの「学校の一日」ではさまざまな「違い」や「戸惑い」が現れます。
――日本語で変な「あだ名」をつけられて、困っているみたい。どうする?
――宿題の範囲が分からないみたい。どうしたらいい?
日本で生まれて外国で育ったという小学生からは、「本人が『気遣われている』って分かると、気になってしまうかもしれない。静かに伝えてあげたり、まわりに注意したら良いと思う」と意見も出ました。
宗教による「違い」も考えました。
――体操服がみんなと違う
――給食の時間に、違う食事を食べている
宗教は触れづらい話題かと思いましたが、「イスラムって、マララさんだよね! すごいよね!」とニュースで知った有名人を思い浮かべてみたり、家族とモスク(イスラムの礼拝堂)を見に行ったことがあるという子が友人に「髪を隠すんだよ」と話してみたり、それぞれに前向きに受け止めているようでした。
意見が出そろうと、司会役の大後里咲(りさ)さんは、「答えはいっぱいあります。みんなが今考えたこと、全部が正解です。どうしたら良いのか、もしいつかナギラちゃんのような人に出会ったら、考えてやってみてください」と語りかけました。
動画とワークショップは、1つ上のゼミの先輩が作ったものを、受け継ぎました。日本在住の外国人にも意見をもらいながら作り、さまざまな学校でワークショップを重ねています。
「全部が正解」と語った大後さんは、「『こうだよ』と教えるんじゃない。自分で考えること自体が大事」ということを大切にしてきました。
飲食店でアルバイトをする大後さんは、外国から来たお客さんにも出会います。
注文時には、相手に伝わるように、分かりやすい表現「やさしい日本語」を使ったり、メニューを見せながら聞いたり。
「マニュアル」にはないものを、その場で臨機応変に考えて、対応することが求められると言います。
多文化共生って、何でしょうか。
「違いを知って、お互いを認め合って、一緒に暮らしていくために考えること」。
大後さんたちは、「一緒に生きる」だけではなく、「一緒に生きるために考える」ことそのものが、「多文化共生」だと言います。
そんな社会を大後さんは「みんなが暮らしやすい社会。その『みんな』に自分が含まれていると思うんです」と付け加えました。
「違う」ことで非難されたり、いじめられたり。同調圧力が強いそんな社会は、自分にとっても生きづらい。「だから、変えたい」と話します。
多文化共生はただの「理想論」ではありません。
ともに生きる中で、生まれる摩擦もあります。
ワークショップの雑談中、国名を挙げて「○○はひどい。○○人は嫌い」とちゃかした小学生たちがいました。その班にいた土橋成実さんは「国と人は分けて考えてほしい」と伝えました。
ワークショップの後、土橋さんは振り返りました。
「そんなふうに考えてはいけないよ」と子どもたちの持つイメージを否定はできなかった、それは「私自身も、ニュースで他の国の印象が悪くなったことがあるから」と言います。
一方で、実生活では日本語教室でボランティアをしながら、土橋さんも多くの日本に住む外国人に出会い、「外国人」と言っても、人それぞれだと、実感してきました。
それでも、よく分かっているつもりなのに、つい無意識に「外国人」と一くくりにして考えてしまうことがあることを反省しています。「だから、無理やりにでも個人を見ること」を意識してきました。
子どもたちは、インターネットなどで知る「国際問題」も即座に吸収し、影響されてしまいます。「学びのスピードが一段と早い彼らだからこそ『このグループはこう』という考えが堅く形成される前に、その人個人を見る大切さを知っていて欲しい」
ワークショップの最後に山脇啓造教授は、小学生に語りかけました。
「今日、参加したみんなが、ここにいる大学生ぐらいになる頃には、日本に暮らしている外国の人たちはもっと増えていると思います。いろいろな文化を持った人たちとご近所に住み、一緒に働いたりすると思う。多文化共生について考えていってください」
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