連載
#64 夜廻り猫
弟に作り続けた〝おにぎり〟弱者にしかできないこと マンガ夜廻り猫
難病になった母の代わりに、弟のお弁当のおにぎりを作っていた男の子。しかし幼稚園の先生は「お母さんに『ちゃんとお弁当作って』って言いなさい」と弟を叱って――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は弟に「おにぎり1個」を握り続けた兄のエピソードです。
きょうも夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵。「おまいさん泣いておるな 心で?」とひとり歩く男性に声をかけました。
男性が小学生の頃、母が病気になり、幼稚園生の弟のお弁当用に毎日おにぎり1個をむすんでいました。
しかし幼稚園の先生は、みんなの目の前で「お母さんに『ちゃんとお弁当作って』って言いなさい」と弟を叱りつけます。
先生は病気のことを知らなかったかもしれない……。でも、どうしたらいいのかも分からず、兄はただおにぎりをつくり続けました。
大きくなってから「幼稚園のとき先生にいじめられなかったか」と聞くと、弟は「覚えてないよ」と笑います。でも、弟は「つらかったこと」をそう言います。
ベンチに座った男性は、子猫の重郎に夜ごはんを分け与えながら「不運自体は怖くねえ 最悪死ぬだけだ でも人間は怖ぇ」とつぶやきます。
「人間ってさ 弱者が嫌いなんだよ 弱者になったらやられるばっかり」
遠くを見つめてそう言う男性に、遠藤はすかさず「しかしおまいさんはいいやつだ」と伝えます。驚いた顔をした男性に、遠藤は大きくうなずくのでした。
作者の深谷さんは子どもの頃、結婚式や入学祝い・新築祝いといった、周囲がお祝いを送る行事が不思議だったそうです。
「いいことがあった人はそれだけで一つ幸せですよね。だから本人ができる範囲でお世話になった人に『お祝いお礼』を配ればいいのでは、と思っていたんです」と振り返ります。
しかし年を重ねていくと、世の中の「公平」の実現を目指すのは人間の上っ面だけだと感じるようになったといいます。
「我々は救いがたいほど強い者に弱く、弱者に冷たい。放っておけばえげつないのが人間だからこそ、自分はどうありたいのか、どう変えていけばいいのか、考えていきたいと思っています」
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