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IT・科学

「磁石2個誤飲はすぐ受診」医師が注意喚起のツイートをした理由

2018年4月の国民生活センターの注意喚起。
2018年4月の国民生活センターの注意喚起。 出典: 国民生活センター

目次

医師がSNS上で「複数磁石の誤飲」について注意喚起し、話題になっています。子どもが複数の強力な磁石を飲み込むと、「お腹の中でくっついてしまう」「腸に穴が開く」ケースもあるという、こうした危険な事故について、発信した医師に話を聞きました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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緊急手術が必要になることも

話題になったのはDr.アシュア( @reassure2001 )さんのツイートです。複数の磁石を誤って飲み込んでしまった場合、「お腹の中でくっついてしまう」ことがあり、「磁石の間に腸が挟まると」「穴が開く」ことがあると注意喚起されています。ツイートは1.2万回RTされ、「小さい子がいる親は気をつけて」などの反応がありました。

2018年の国民生活センターの注意喚起によれば、「強力な磁石のマグネットボールで誤飲事故が発生」し、幼児の消化管に穴が開き、開腹手術に至った例が、続けて寄せられたとのことです。いずれも「ネオジム磁石」をうたう強力な磁石を複数、誤飲したものでした。

消費者庁と国民生活センターとの共同事業である医療機関ネットワーク​​には、このマグネットボールの事例を含め、子どもが磁石を誤飲した、もしくは誤飲したと思われる事故情報が124件(2010年12月〜2018年3月までの伝送分)寄せられているそうです。

コロナ禍で家庭内の誤飲が…

Dr.アシュアさんに話を聞きました。Dr.アシュアさんの“中の人”は医師の成瀬裕紀さん。​​千葉県の松戸市立総合医療センターで勤務する小児科医です。今回、このような注意喚起をした理由は「コロナ禍で家庭内の誤飲を含めた事故が増えていると感じていたため」。

小児の異物誤飲は小児の全事故の約20%を占め、小児科医であれば日常の診療でよく遭遇するものだそう。通常異物の80〜90%は自然に排泄され、手術のような外科的処置を必要とするのは1%程度とのことです。ただし、誤飲したのが磁石である場合、事態が深刻になる場合があります。

「2000~2012年の米国のデータに基づく磁石誤飲の症例報告をまとめた報告では、医療行為が記録されている症例の内、約70%が外科的な処置を必要とし、自然に排泄されたのは20%をわずかに超える程度とされています(※1)。これは症例報告をまとめた報告ですので、すべての磁石誤飲事故をまとめたものではありませんが、磁石誤飲は誤飲事故の中でもリスクが高い事故と言ってよいでしょう」

磁石の誤飲の怖さは、複数の磁石を飲み込んだり、磁石にくっつく金属を一緒に飲み込んだりしてしまった場合、消化管を移動する途中で、その間に腸が挟まることです。

「挟まった腸に慢性的に力がかかることによって、腸の壁が壊死したり、腸の壁に穴が開いたり、腸が捻じれてしまったりして、非常に危険です。その結果、腸の切除を含む外科手術が必要になるといった深刻な事態に陥る可能性があります」

磁石の誤飲でも、単数の事例では危険性が低く、経過観察が原則とされます。しかし、複数磁石の誤飲の場合、特に時間差で誤飲した場合、危険性が高くなることが知られています。一方、複数磁石であっても、同時に飲み込んだ場合などは、磁石同士が接着して消化管内で塊となり、自然に排泄された症例報告もあります。

ただし、この「単数」「複数」の区別は、実際には難しいと成瀬さんは指摘します。

簡単に手に入るからこそ

それは、磁石誤飲は年少児に起こりやすいため、誤飲の現場を目撃できるケースが少なく、患者本人から「何個を飲み込んだか」の情報が得られない場合がほとんどだから。

「そして実は、レントゲンやCT写真では磁石がお腹の中に“あるか否か”は判別できても、“単独なのか複数なのか”を正確に区別することは困難であるという報告(※2)や、磁石が重なるとレントゲンで1個の物体のように見えるという報告(※3)もあり、病院を受診して検査したから安心とは言いにくいです。

磁石がまだ食道・胃に留まっている場合には、カテーテルなどで除去することも選択肢になりますが、胃を通過してしまうと簡単には取り除けません。海外のガイドラインでは、単独と思われるケースでもレントゲン撮影を繰り返して経過観察することが推奨され、複数誤飲のケースでは無症状でも入院の上、4〜6時間毎のレントゲン撮影が推奨されます。1個の誤飲だと思われるケースでも病院を受診の上、細かく経過観察してもらうことが必要です(※4)」

「過去には、飲み込んだ磁石を1個だけだと誤診した結果、腸管穿孔に至ったケースも報告されています(※2)」と成瀬さん。もしこうした磁石の誤飲事故が起きてしまったときは、自分たちで単数か複数かの判別はせず、まず病院に行くようにしましょう。

また、ツイートで特に気をつけるべきとしたネオジム磁石は、近年100円ショップなどで「強力磁石」として簡単に手に入るものです。

「ネオジム磁石は、業界でよく使用される高出力磁石で、その磁力は従来の磁石の10倍以上になることもあると言われています。国民生活センターの注意喚起の写真を見て、Twitterでもピアスと勘違いした方が多くいましたが、海外の報告では実際に10代の女児が舌ピアスの真似をしていて誤飲したケースが報告されています」

強力であるがゆえに、ピアスごっこのような「遊び」の余地を残してしまうネオジム磁石。「先ほど引用した磁石誤飲の患者さんをまとめた報告(※1)でも、患者さんの分布が年少児と年長児の二峰性を示すとされており、お子さんが小学生に上がった後も注意すべき事故と言えます」と成瀬さん。

「磁石誤飲の危険性を広く伝えることも重要ですが、誤飲の原因になった磁石は半数が子ども用のおもちゃ由来ではなかったという報告(※1)もあり、大人がおもちゃだけではなく家庭内で使用されている磁石を子どもたちから遠ざけるなどする努力も必要だと思います」

※1. Clin Pediatr (Phila). 2013 Nov;52(11):1006-1013.
※2. J Pediatr Surg. 2007 Dec;42(12):e3-5.
※3. Pediatr Radiol. 2013 Jul;43(7):851-859.
※4. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2012 Sep;55(3):239-242.

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