MENU CLOSE

IT・科学

「薬機法チャレンジ」の何が問題? コロナ禍で広まる“地雷”広告

ネット上で「薬機法チャレンジ」と書き込まれることがあるが……。※画像はイメージ
ネット上で「薬機法チャレンジ」と書き込まれることがあるが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

コロナ禍の健康意識の高まり。メーカーがこれを“ビジネスチャンス”とみて薬機法上ギリギリを“攻めた”宣伝を行い、ネット上で炎上する事例が続いています。こうした事例を指して、皮肉を込めた「薬機法チャレンジ」「薬機法チキンレース」といったネット用語も使われるようになりました。

最近では「薬機法の関係で具体的に言えませんが、すごい商品なんです」のように、規制を逆手に取るようなフレーズも使われています。一方で、薬機法は最近になって改正・施行され、規制が強まった経緯もあります。巷にはびこる“地雷”広告について、最新の事情から考えます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
プレモルと絶品プリン。withnewsチームが見つけた共通点とは(PR)

「薬機法チャレンジ」とは

そもそも「薬機法」とは、医薬品医療機器等法​​のこと。条文では、医薬品などの「品質・有効性及び安全性の確保」と人々の健康への「危害の発生・拡大の防止」がその目的とされています。

つまり薬機法とは「有効か/安全かわからないモノによって、人々の健康に害を及ぼさないようにするための法律」だと言い換えられます。

広告についてもその中で定められていて、「虚偽・誇大広告(ウソや大げさな広告)」が禁止されています。

医薬品や医療機器がウソや大げさな広告をしてはいけませんが、もう一つ、特にコロナ禍では大きなポイントがあります。それは、医薬品や医療機器“以外”が人への効能効果をうたってはいけない、ということです。

厚生労働省によれば、人への効能効果をうたうことができるのは国が認めた医薬品や医療機器のみ。逆に言うと、医薬品や医療機器の承認を得ていないサプリメントや雑貨、家電が人への効能効果をうたうと、薬機法違反になるおそれがあるということです。

この効能効果というものを具体的に紹介します。例えばサプリメントの広告に「新型コロナウイルス(具体的な病原体の名前)対策」「免疫力アップ」とあれば、それは薬機法に抵触する、使用できないはずの表現です。

そこで、薬機法を把握するメーカー側は、いかに直接的に効能効果をうたわずに「効能効果があると思わせるか」という工夫を凝らす傾向があります。

例えば「人の周りに病原体が飛び交っていて、それらが特定の商品で解消するかのようなイメージ映像」のCMが流れているのを見かけたことがないでしょうか。こうしたCMをよくチェックすると、ウイルス・菌といった総称しか​​用いられていません。実は薬機法上、許されるとする範囲の表現に留まっているのです。

問題は、時にそれを逸脱した表現が見られること。前述の「新型コロナウイルス対策」「免疫力アップ」といった表現を、サプリメントなどの広告で見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。

実際に、新型コロナウイルスの感染拡大以降、こうした表現を広告に使用したことで、薬機法違反として書類送検や逮捕をされた事例が全国で複数あります。

このように、コロナ禍の健康意識の高まりをメーカー側が“ビジネスチャンス”と見て薬機法上ギリギリを“攻めた”宣伝を行うことを指して、ネットでは「薬機法チャレンジ」「薬機法チキンレース」などと呼ばれるようになりました。

「チャレンジ」というのはもちろん皮肉で、「チキンレース」とも言われているように、書類送検や逮捕をされる危険性を顧みず、目先の利益のために法を犯すことへの批判のニュアンスが込められています。こうしたケースがネット上で炎上するのもしばしばです。

「言えないがすごい」の誤解

そんな批判的な声も影響してか、近年メーカー側は薬機法の規制を逆手に取るような表現を使うようになりました。

その一例が「薬機法の関係で具体的に言えませんが、すごい商品なんです」といったフレーズです。健康に関する広告の問題を取材していると、よく行き当たるようになりました。

ただし、もしこれでメーカー側が「薬機法の規制を逃れる」ことを目的としているとしたら、そこには根本的な誤解があります。

ここで薬機法とは「有効か・安全かわからないモノによって、人々に害を及ぼさないようにするための法律」でした。「薬機法の関係で」できないというのは、「人への効能効果が国に認められていないからできない」ことと同義です。

「薬機法の関係で具体的に言えませんが……」という表現により、メーカー側は「国はこの商品の人への効能効果を認めていませんが……」と自ら明かしているのです。そもそもプラスの表現ではないものでも「すごそう」に見せるために使われているということになります。

また、薬機法違反を監視する東京都福祉保健局薬務課の担当者によれば、薬機法で禁止されている「虚偽・誇大広告​​」の判断基準となるのは、その広告を見た消費者に、ウソや大げさな広告により誤解が生じないかどうかです。

つまり、消費者の誤解を招くような表現はそもそも薬機法違反のおそれがあるということ。「薬機法の関係で(効能効果を)具体的に言えない」が「すごい」というのは、なぜ「すごい」かを「具体的に言えない」ために、広告としては「虚偽・誇大広告​​」に該当するリスクがあるとも考えられます。

一方、メーカー側の取材からわかるのは、メーカー側としては、実験室などの特殊な環境下での実験結果を根拠に、人への効果があるとは言えないけれど、人への効果に期待しているし、人への効果があると思わせたい、という矛盾を抱えていることです。

その結果、「薬機法に抵触しない範囲で宣伝に工夫を凝らす」という発想が生まれてしまいます。

しかし、そのような用品は本来、医薬品や医療機器として国に認められる前に積極的に宣伝するのではなく、人への効能効果が国に認められるように、研究結果を積み重ねるべきではないでしょうか。

そうすれば、ネット上の炎上により、商品やメーカーの評判を下げることも、場合により書類送検や逮捕をされることも避けられるはずです。しかし、どうしても販売が先行してしまうからこそ、空間除菌用品への批判が止まないとみることもできます。

同時に、消費者側にとっては、こうした広告を見かけたときは、注意して商品をチェックする“目印”だと考えていいと言えます。

インフルエンサーも対象に

こうした「薬機法チャレンジ」の問題は、SNS上で影響力を持つ、いわゆるインフルエンサーにもより深く関係するようになっています。

薬機法が改正され、今年8月、施行されたことが注目を集めました。その理由の一つは、広告側に薬機法の違反行為があったときに、それを中止する中止命令までしか出せなかったものが、より強力な措置命令が出せるようになったことです。

厚生労働省の担当者を取材しました。中止命令では、中止とそのような広告を繰り返さないこと、広告による公衆衛生上のリスク発生の防止が求められました。

今回、措置命令として、新しく「公示」が求められるようになりました。公示というのは、自分たちが問題となった行為をしてしまったことをあらためて広告を見た人に伝えなければいけないこと意味します。

公示の具体的なやり方については、広告側が勝手に「これで十分」と終わらせることはできず、行政と協議の上で決まるとのことでした。

そしてこの措置命令の範囲は「何人も」です。つまり、ネット時代になり、従来メディアだけでなく、ブログやSNS、動画サイトで活動するインフルエンサーなども該当する可能性がある、とのことでした。

「薬機法の関係で具体的に言えませんが……」といった表現は、商品の宣伝を依頼されたインフルエンサーが用いることもあります。また、薬機法についてメーカーほど詳しくないために、「人への効能効果をうたえない」ということを知らずに宣伝の投稿をしてしまうこともあります。

インフルエンサーもまた、今回の改正薬機法により、これまでより規制が強まったと言えます。

自分の好きなインフルエンサーが、もし薬機法に抵触するような宣伝をしていたら――自分のシェア・拡散が「薬機法チャレンジ」の片棒を担ぐことになりかねません。

「薬機法」という、多くの人には縁がないと思われている法律は、実は私たちの健康に密接に関わっているだけでなく、コロナ禍、そして誰もが情報発信できるネット時代に知っておくべき教養になりつつあるとも言えるのではないでしょうか。
CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます