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コラム

「この子、ふつうじゃない」母を不安にした一言とアルビノ知る難しさ

ネットでは分からない当事者の事情

生まれたばかりのわが子は、「ふつう」の見た目ではない――。遺伝子疾患アルビノの当事者、雁屋優さんの母親は、医師からそう告げられ動揺したといいます(画像はイメージ)
生まれたばかりのわが子は、「ふつう」の見た目ではない――。遺伝子疾患アルビノの当事者、雁屋優さんの母親は、医師からそう告げられ動揺したといいます(画像はイメージ)

目次

「この子は、ふつうじゃないよ」。生まれつき髪や肌の色が薄い、遺伝子疾患・アルビノの雁屋優さん(26)が生まれて間もなく、母親に医師が告げた言葉です。育児の不安を解消するため、診療可能な病院を探す日々が始まりました。当初は疾患について知られておらず、苦労したそうです。それから時を経た現在、インターネットが発達し、必要な情報へのアクセスは容易になりました。それでも、アルビノに対する偏見や誤解は、なかなかなくならないと雁屋さんは語ります。その原因について、考えをつづってもらいました。

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母の疑問を解消してくれる人はいなかった

初めての出産というものが、女性にとって、そして私の母にとって、どれほどの意味を持つのか、私は知らない。経験していないので、想像するしかない。以下につづるのは、母と、生まれて間もない頃の私の話だ。

自分の体内に、別の生命が息づいていることを意識しながら過ごすこと数ヶ月。帝王切開の痛みに耐えて、母はやっとの思いで私を出産した。

娘の身体は色素が薄かった。プラチナブロンドの髪に、グリーン系の瞳、真っ白な肌。顔立ちこそ両親に似ていたものの、色彩は違った。

出産直後の母に産婦人科の医師が告げたのは、「この子は、ふつうじゃないよ」という一言のみだった。こうして、母の不安は始まった。

そもそも、母にとって育児は初めてのことばかり。更に、生まれた子どもは「ふつうじゃない」らしい。でも、ふつうじゃないって、どうふつうじゃないのだろう。何に気をつけて生活すればいいのだろう。

そういった疑問は際限なく湧いたが、母の周囲にそれを解消してくれる人はいなかった。

今なら、スマートフォンで「色素 薄い 子ども 病気」などと検索すれば、「アルビノ」もしくは「眼皮膚白皮症」という病名にたどりつくことは可能だ。

しかし、スマホどころか、携帯電話も普及しきってはいない1995年のことだ。詳細に調べることは、困難を極めた。

雁屋さんの母親は、「アルビノ」という娘の疾患名になかなかたどりつけず、不安な日々を送った(画像はイメージ)
雁屋さんの母親は、「アルビノ」という娘の疾患名になかなかたどりつけず、不安な日々を送った(画像はイメージ) 出典: Getty Images

分厚い医学書に見つけた、たった一行の情報

診断も情報もないが、打ちひしがれていても、事態は好転しない。母は赤子の私を抱えて、真夏の満員電車に乗り、病院巡りを始めた。どこかに、娘の病気を知っている医師がいる。そこに一縷(いちる)の望みをかけていた。

当時はインターネットも普及しておらず、この珍しい病気(当時は今と違い、アルビノは難病指定されていなかった)について知る人は、医師の中でも限られていた。何とかして、知識がある医師に会おうと、母は私を連れて病院を訪ね歩いた。

冷たい対応をされることもあったが、どうにかして、「髪や目の色が薄く生まれる遺伝疾患・アルビノ」という診断にたどりつくことができた。そこでようやく、私の目が悪いことや日焼けに弱いことなどを知り、日焼け止めクリームを塗る必要があるという情報や、眼科への通院へと至ることができた。

当時は、とにかく関連情報が少なく、親戚の方が探してくれたところによれば、分厚い医学書にたった一行記載されていただけだったという。

かつて、アルビノについて深く知るためには、難解な医学書を読まなければならなかった(画像はイメージ)
かつて、アルビノについて深く知るためには、難解な医学書を読まなければならなかった(画像はイメージ) 出典: Getty Images

情報収集の面では改善、しかし……

その点、現在はインターネットが発達している。「色素 薄い 子ども 病気」と検索すれば、様々な知見が手に入る。

最近は、アルビノの人々同士の交流会を主催する団体のサイトや、当事者が書いた手記を扱うメディアが増えてきた。アルビノは国の難病に指定されているので、難病情報センターによる解説記事もヒットする。

「ふつう」でない見た目の人々が、生きていく上で様々な障壁に直面する、「見た目問題」の一つとして、アルビノも知られ始めてきた。自身のことについて発信する当事者もいるので、その情報にアクセスすることで、アルビノについて知識を得られる。

総合して言えば、情報収集の面では、昔よりずっと改善された。しかし、手放しで喜べない現実もある。アルビノには、いまだに多くの誤解や偏見がつきまとうのだ。

ネット上で疾患名を検索できるようになっても、偏見や誤解は絶えないと、雁屋さんは語る(画像はイメージ)
ネット上で疾患名を検索できるようになっても、偏見や誤解は絶えないと、雁屋さんは語る(画像はイメージ) 出典: Getty Images

誤解と偏見越え、「生きている」姿伝えたい

「病弱」「短命」「アルビノはきれい」。アルビノにまつわる、誤解や偏見の一例だ。今も社会のあちこちにあり、当事者達を苦しめる要因の一つにもなっている。

このように、非当事者のアルビノに対する認識は、必ずしも正しくない。当事者と実際に会ったことがあり、一緒に学んだり働いたりした経験をもつ人は現実を知っているが、そうでない人は、あやふやな理解をしていることがある。

「どうやって生きているのか、想像もつかない」と、アルビノをあまり知らない人に言われたことがある。それほどまでに、当事者と非当事者の溝は深いのだ。

そんなこと、非当事者が知る必要なんてない、と思うだろうか。全てとは言わずとも、ある程度は知っておいた方がいいと、私は考える。非当事者は、いつか当事者の親になるかもしれないし、当事者を雇用する側になるかもしれないのだ。

そのときに、当事者がどうやって生活しているか、少しでも知っていれば、当事者の可能性を広げることにつながるのではないか。

アルビノの人々が「生きている」姿を発信することの重要性は、そこにあると思う。そのために、私は今日も、Twitterでつぶやき、ブログを書く。

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