連載
#62 夜廻り猫
借金生活なのに猫の心配…「責任をとれるか?」夜廻り猫が描く優しさ
アパートのカーテンを閉めて休もうとした男性が、外にたたずむ野良猫に気づきます。エサはあるのだろうかと心配になり、「俺はカップ麺の買い置きもあるし、屋根もある……借金もあっけど」と自分を省みて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「優しさ」を描きました。
「明日もバイト早いから寝るか」とアパートのカーテンを閉めようとした男性。外に猫がいることに気づきます。
歩いていたのは心の涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵でした。男性は「野良猫も大変だろうな 川も海も汚いし、エサなんかないよな」とふと考えます。
「人間は楽だな。カップ麺の買い置きはあるし、なんせ屋根があるもんな……借金もあっけど」とひとりごちます。
外から男性を見つめる遠藤と子猫の重郎に対して、男性は「腹減ってんだ、カップ麺食うかな。でもエサやっちゃダメなんだっけ?」と慌てます。
「その後も面倒みればいいのか? でも責任とれるか? 生活できなくて借金している俺が……」
そんな風に心の中で葛藤する男性に、遠藤が「何かお悩みの様子、よかったら話してみなさらんか」と声をかけます。男性は「おまえらの生活の心配」と答えるのでした。
生活に困って借りたお金があるのに、通りすがりの野良猫を心配する優しい若者を描いた作者の深谷さん。普段から新聞やネットニュースをチェックして、時間の許す限り読んでいるといいます。
「いい話も悪い話でも、世界のどこかにこんな人がいて、こんなことをしている……それを知るのが無性に楽しくて」と話します。
しかし世界がコロナ禍に見舞われた昨年から「見出しを見ただけで読まない記事」が増えたといいます。
「つらい事実が浮き彫りになった1本の記事を読むと、2本目のつらそうな話は読めないなぁと思ってしまうんです。知る余裕がない」
深谷さんは「自分の住む世界を知ろうとしないとは、我ながら恐ろしいことです」と話します。
「そんな逃げを打っていては『あす、みんなが宇宙船で火星へ移住するのに自分だけ知らなかった』なんてことになるかもしれません。昔なら『荒唐無稽』と片付けたようなことでも、次々起きてますものね」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本8巻(講談社)が2021年11月22日に発売予定。
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