連載
#36 「きょうも回してる?」
日産パオがガチャガチャに シートの色まで再現…恐ろしいまでの熱意
「すごいのをつくったなと留めてもらう」
1980年代は、第2次ベビーブーム世代を当て込んだホビー文化が花開いた時代。任天堂から家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」が誕生し、子どもから大人までアニメやビデオ、そしてテレビなどを通して遊ぶことが多くなりました。そのほか、ミニ四駆やロッテの「ビックリマンシール」など様々なサブカルチャーが生まれた時代でもあります。
自動車メーカーからは、数々の名車も時代を彩りました。スポーツカーでは日産のスカイラインGT-RやフェアレディZ、ライトスポーツカーでは日産のシルビア、ホンダのCR-X、高級GTカーではトヨタのスープラやソアラ、日産のレパードなどがあります。一方、普通の乗用車とは一味も違った可愛らしさや遊び心が満点のデザインが施された自動車も開発されました。
たとえばホンダのシティ、三菱のパジェロ、日産のBe-1などがありました。1980年代の自動車は、40代から50代のクルマ好きにとって、憧れの存在だったのではないでしょうか。
青島文化教材社(以下、アオシマ)の企画部でカプセルトイも手掛ける岩澤広樹さんも1980年代のクルマに魅了されたひとりです。
アオシマは2024年に創業100周年、プラモデルを作り始めて今年で60周年を迎える老舗プラモデルメーカーであり、1/24スケールのプラモデルを中心にさまざまな自動車模型を販売しています。
カプセルトイはさらにサイズが小さい1/64になります。最近では、20年11月に「1/64 Honda CITY コレクション(以下、CITY)」、12月にはパイクカーシリーズ第1弾「1/64 Nissan Be-1 コレクション(以下、Be-1)」と、1980年代の自動車を発売しています。
1980年代の自動車の魅力について、岩澤さんは「CITYやBe-1には懐かしさや可愛らしさがあり、今の世代にも受け入れられるPOPでキュートなデザインに仕上がっています」。1980年代のクルマで通勤するほどの愛好家だけに、説明にも熱が入ります。
商品を作る上で、岩澤さんは必ず実車の取材を行います。そこでは写真だけでわからない細部まで徹底的に調査します。
また、1/24スケールのプラモデルとカプセルトイの1/64スケールでは、設計のポイントも異なると言います。「サイズが小さくなる分、量産に耐えうるような作り方をしつつ、車の特徴を最大限に生かせるようなアレンジをしなくてはいけません」(岩澤さん)
そのような制約のなか、CITYやBe-1には、岩澤さんなりのこだわりが見られました。
上からのぞいてもらうと分かりますが、CITYでは当時の時代背景に合わせ、リアのラゲッジスペース(荷物箱を置く場所)にモトコンポ(クルマに積める折りたたみバイク)が入っている形状を再現しています。
当初、生産部門からは「難しい」と言われましたが、岩澤さんは「最低でもモトコンポが入っている雰囲気を出したい。それじゃないとCITYは成り立たない」と説得してモトコンポが乗っている形状を実現したそうです。
また、Be-1においては、ライト周りの黒い縁取りを再現しています。私が「お客様はそこまで気づかないのではないですか」と尋ねると、「黒い縁取りがあるのとないのとでは、車の表情が全然違っています。どうしても入れたいと工場の方に伝えました」と岩澤さん。
色を塗った時に実車と違ってしまっては意味がないと、試作品を何度も作って確認したと言います。限りなく実車に近づけようとする岩澤さんの車に対する熱意とものづくりに対する姿勢に感服しました。
今回は、パイクカーシリーズ第2弾「1/64 Nissan PAO コレクション(以下、パオ)」を紹介します。パオは、1989年に発売されたBe-1を筆頭にレトロ調のデザインで人気があった車種です。
このパオも、岩澤さんは実車の取材を行い、細部まで確認して開発に臨みました。
Be-1でフロントエンブレムを再現したように、パオのフロントエンブレムも肉眼で見えるか見えないかという小さな部分までも忠実に再現してあります。
また、フロントグリル(車の正面に備えられている開口部を覆う網状のパーツ)の部分は実車に限りなく近づけるために、苦労した点だと言います。
さらに、「一般的には、車の内装まで塗らずに黒一色が多いと思いますが、パイクカーはシートも特徴的な色が多いです」(岩澤さん)ということで、内装のシートまでしっかりと塗装してあります。
なぜそこまで岩澤さんはこだわるのか。そこには、岩澤さんには今までプラモデルを企画・開発してきた経験があります。消費者と長年向き合っているからこそ「お客様が喜ぶポイントがわかる」と岩澤さん。だからこそ、ユーザーをがっかりさせないため、ひょっとしたら気づかないかもしれない細部までも、こだわりを見せているのです。
今回のパオには、メーカー公認のアオシマオリジナルカラー(ピンク・グリーン)があります。オリジナルカラーを決めるために、メーカーに提案したり、あるいはメーカーから提案してもらったりしながら、当時の流行色と雰囲気を参考にし、決めたそうです。オリジナルカラーには、お客さんを喜ばすための遊び心が伝ってきます。
岩澤さんは「せっかく買っていただいたなら、飽きたから捨ててしまうのではなく、大事に取って置いてもらいたいです。手元に置いてもらい、あの時、アオシマはすごいのをつくったなと心の片隅に留めてもらえるように商品を今後も作っていきたいです」と話してくれました。
確かに他のガチャガチャメーカーにも自動車の商品はあります。しかし、アオシマの商品は、長い間、模型やプラモデルを作り続けた技術の結晶が集まったガチャガチャと言えます。
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1/64 Nissan PAO コレクションは、 アクアグレー、テラコッタ、ピンク(オリジナルカラー)、グリーン(オリジナルカラー)の4種類で、1回400円。
参考文献:「昭和55年写真生活:ダイアプレス」、「80s青春男大百科:扶桑社」
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