グルメ
コロナで試食NG…苦境のベーグルチェーン店、フードロス対策で成果
「BAGEL & BAGEL」の手応え「知ってもらうきっかけに」
ベーグル専門店チェーンの「BAGEL & BAGEL」は、駅ナカなど、好立地に出店していたのが災いし、新型コロナウイルスの影響をもろに受けました。肝いりの新店舗が半年で閉店、売り上げは減る一方に…。そんな中、試食NGに対応するためわかりやすい商品名を考えたり、催事販売を強化したり、チャレンジ精神を失わずにいます。フードロスを助けてくれる「応援消費」では、参入して〝思わぬ効果〟を実感したといいます。コロナ禍における外食チェーンの生き残り策について聞きました。(ライター・安倍季実子)
話を聞いたのは「BAGEL & BAGEL」を運営する株式会社アルテゴの広報・海野真未さんです。
――「BAGEL & BAGEL」は、カフェ展開や異業種とのコラボなど、独自の展開をされているイメージがあります。
「1997年に第1号店をオープンして以来、首都圏を中心に30店舗を展開しています。元々チャレンジ精神の豊富な社風というのもあって、2010年ごろからは卸売りをするようになりました。ほかには映画とのコラボ商品の販売や他社と共同した店舗もオープンしています」
「自社の取り組みとしては、2019年に、『世界の食材をヘルシーなベーグルサンドで楽しめる』というコンセプトのカフェ『BAGEL & BAGEL ~Worldwide~』を南町田に出店しています。実は、コロナの直前の2020年2月には、渋谷に『BAGEL & BAGELGrill kitchen』というテイクアウト専門店も開きました。グリルサンドはアメリカや欧米では定番ですし、韓国でも食パンを焼いて作るサンドが人気です。それをベーグルでやってみようとなったのですが、開店してすぐに外出自粛や緊急事態宣言が出たために休業となり、約半年で閉店となってしまいました……」
「個人的には、バターをたっぷり塗った鉄板で焼き上げるベーグルサンドは、ベーグルのしっとり感やもちもち感がアップする、お気入りの食べ方だったので、それをたくさんの方にお伝えできなかったのが残念でした」
――コロナ前と後では、どんな変化がありましたか?
「『BAGEL & BAGEL』の店舗は、基本的に駅ナカや駅近といった好立地にあるため、外出自粛期間や緊急事態宣言中は外出される方が少なくなり、大きな影響を受けました。外からの流入の多いハブ駅が最寄りの店舗に関しては、いまだにコロナの影響を受けている状態です」
「カフェ店舗に関しては、例年より店内利用のお客様が減っている状態が続いています。また、アウトレット店舗では観光需要が落ち込んでしまったため、こちらも大きな影響を受けました。非日常の場所にあるお店は苦戦しますね。その半面、テイクアウトの方は例年並み、もしくは例年以上となっています」
――コロナ以降、外食チェーン店の立ち位置はどんな風に変わったと思いますか?
「もともと進んでいたデリバリーやECサイトなどのオンラインを使って自宅まで届くというシステムやマインドが一気に加速したと思います。そして、ほとんどのお店で、お客様が実際に実店舗に行かなくてもお買い物ができる環境が整いました。実店舗を構えて営業する以上、心地いいコミュニケーションができたり、その場で作っているからこそおいしいタイミングで提供することなど、飲食店として当たり前のことがより大事になってきたと感じています」
――「BAGEL & BAGEL」での変化はありましたか?
「大きく変わったというわけではありませんが、もともと『ベーグルはヘルシーなもの』というイメージはあったものの、しっかりと伝えられていなかったのです。コロナ前から、これがひとつの課題としてあったのですが、いろいろと新しいことに挑戦する中で自然と後回しになっていました。コロナになってからは、この辺のブラッシュアップが一気に動き出しました」
――どんなことをブラッシュアップしましたか?
「具体的にいうと、冷凍保存で1カ月持つことの訴求とまとめ買いセットの実施です。冷凍保存できることを知らない方が多かったので、周知をはじめたら、まとめ買いされることが増えました。あと、健康志向の方に訴えるような工夫もしました。以前からヘルシー・ビューティー系のベーグルはあったものの、それらの特徴などを強く打ち出していなかったので、『低糖質』、『オレイン酸入り』などといった情報を見える化しました。こちらは、詳細を伝えるサイトを作り、そのぺージに飛ぶQRコード付きのシールを商品に貼っています」
「また、試食で味を知っていただくことができなくなったので、イメージしてもらいやすいネーミングにするなど試行錯誤しています。あとは、実店舗以外の催事販売をスタートしたことも大きいですね」
――催事はいつからスタートしたのですか?
「去年の春からです。コロナによる閉店店舗も出はじめていた時期で、社内的には不安ながらも何かをはじめたいという雰囲気もあって、当時の製造工場で工場催事として開きました。それが、自粛期間中で開いていないお店が多かったこともあり、思っていたよりも好評でした。そのため、少しずつ駅ナカ・駅前やショッピングセンターの催事場などにも出店するようになりました。これを一時的なもので終わらせるのではなく、きちんとした事業にしようということで、新しく催事チームも誕生しました」
――1年以上やってみて、課題は出てきましたか?
「催事販売は、その場限りになりがちで、次のステップをどうするのかが悩みです。なかなか実店舗に行けないという方には、EC販売を利用していただけるようご案内もしていますが、お客様との接点を持ち続けられるかは、頭を悩ませるところですね。でも、簡単には出店できなくなった今、催事は大事なので、今後も続けていく予定です」
――「TABETE」を利用することになったきっかけを教えてください。
「昨年末に、『ルクア大阪店』の施設様からお話をいただいたのがきっかけです。当時はまだ施設内で導入している店舗がなく、効果がわからなかったのですが、コロナになってからロスが顕著になっていたこともあって、ひとまずやってみることになりました。『TABETE』の利用者さんたちは、その特徴を納得した上で購入されますし、弊社としては大幅なロス削減ができました」
「TABETE(タベテ)」
――具体的に、どのくらいのロスが削減できましたか?
「恵比寿店を例にすると、1カ月に約300個がロスになっていたのですが、それと同等分に当たる、5個詰め合わせセット50~60セットが『TABETE』でレスキューされるようになりました。金額的には半額くらいになるので、売り上げアップにつながったというわけではありませんが、このロスの削減は、長い目で見るととても大きいものです」
――フードロス以外の効果はありましたか?
「意外なことに、『TABETE』を通じて『BAGEL & BAGEL』を知っていただくことができました。これは予想していなかった嬉しい効果です。ただ、店舗が入っている施設さんによっては、『TABETE』を導入できないケースもあるので、そういった店舗のロスをどうするのかが新しい課題です。この辺りは作り手の私たちが柔軟に対応するべきだと思うので、何か対策を考えないといけないですね」
コロナによって生まれた「応援消費」は、1年以上が経った今でも続いています。当初は一時的なものというイメージでしたが、1年をかけて、れっきとした販売ルートのひとつになりつつあります。
ホットペッパーグルメ外食総研が行った調査では、コロナ禍で飲食店を支援する気持ちで利用した経験があるかどうかという質問に対して、30.7%が「支援の気持ちから飲食を行ったことがある(30.7%)」と回答。また、「支援の気持ちから飲食を行ったことはないが、今後行いたい」と回答した人は43.3%もいたと発表しました。
この「応援消費」の波を受けるように、2018年4月にサービスを開始した「TABETE」でも、コロナ禍でユーザー数が一気に増え、2020年の9月には30万人に達しました。
フードロス問題といえば、世界的に深刻な、ちょっと難しい問題と思われる人も多いかもしれませんが、飲食店にとっては利益を圧迫する悩ましい問題です。以前のように自由に外出・外食ができなくなったいま、飲食店にとって、フードロス削減は売り上げアップと同様な大きな課題となってしまいました。
そんな中で、『BAGEL & BAGEL』は「TABETE」の思わぬ効果として、ブランド
自体を知ってもらうきっかけになるという手応えを感じています。すぐには大きな利益に結びつかないけれど、お客さんとの関係を強化してくれることは、モノや情報があふれる現代においては大事な作業です。『BAGEL & BAGEL』の取り組みは、コロナ禍の飲食店にとって、貴重な気づきになるはずです。
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