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いじめ被害者が今度は加害者に…謝っても許してもらえるわけではない

『こども六法』著者の〝つらい記憶〟

いじめの被害者は被害を経験したあとに加害者になりやすいという傾向があるという ※画像はイメージです=Getty Images
いじめ
いじめの被害者は被害を経験したあとに加害者になりやすいという傾向があるという ※画像はイメージです=Getty Images
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目次

刑法やいじめ防止対策推進法などを動物のイラスト入りで解説した『こども六法』の著者、山崎聡一郎さんは、自分も小学校の時、いじめの被害にあったのに、中学校では加害者になってしまいました。「これくらい…」という思い込みの怖さ。謝って許してもらえないかもしれない現実。「自分の基準で他人のツラさを測らない」ことが大事だと訴えます。 ※記事は山崎さんの新著『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた 未来を切りひらく思考』(朝日新聞出版)から抜粋しました。

ぼくがいじめ加害者になった日

ぼくはいじめをきっかけに私立中学校に進学し、それ以降は晴れていじめを受ける生活から抜け出すことができました。多少は友だちもでき、部活動にも積極的に励むなど、平和な毎日を送っていました。

ところが、あろうことか、今度はぼくがいじめの加害者になってしまったことがあります。

ぼくは中学校では囲碁部に所属していました。事件が起こったのは、部長を務めていた3年生のときです。次期部長と思われていた2年生の後輩とトラブルになり、みんなで解決策を考えるために話し合いの場を設けることにしました。もちろん、当事者である彼には声をかけていましたし、彼の味方になるであろう後輩たちにも声をかけました。部員全員での話し合いでなければフェアでないと考えたからです。

しかし当日、約束の時間になっても、彼は話し合いの場に現れませんでした。本人不在のまま話し合いを進めた結果 、「彼には退部してもらおう」という結論に達しました。

ぼくとしては、本人にちゃんと声をかけていましたし、やましいことがないのなら、出席して自分で説明をするべきだと思っていました。ですから、退部という結果に対しても「仕方がないな」と考えていました。

ところが、自分がいないところで勝手に退部扱いにされた彼は、黙っていませんでした。先生に相談し、「いじめがあった」として学校でも大きな問題になりました。

「これくらい、いじめではないだろう」という思いこみ

そうなっても、当時のぼくには「いじめた」という自じ 覚かくがまったくありませんでした。話し合いの場に彼を呼んでいたし、彼をかばってくれる友だちもその場に来ていた。ぼくが受けていたいじめのように、殴る・蹴 るといった暴力や暴言による攻撃も一切していませんでしたから、「これくらい、いじめではないだろう」と知らず知らずのうちに思いこんでいたのです。

ですから、先生から呼び出され、いじめと認定されたときも、「えっ、これくらいでいじめになるの?」と驚きを隠せませんでした。でもいじめ防止対策推進法に従えば「被害者がイヤだと感じたらいじめ」ですから、当時はまだこの法律はなかったにしても、ぼくのしたことは当然いじめだったということになります。

今にして思えば、トラブルでもっとも腹はらを立てていた自分が、自分で話し合いの場を設けて、自分は積極的に彼の退部 を主張していたわけですから、加害行為の中心にいたことは疑いようもありません。

部長という立場を使って自分の主張を無理 やり通すだけでなく、他の部員も巻きこむことで、大人数で一人を追いつめるという、典型的ないじめの構図をつくり上げていたのです。

「これくらい、いじめではないだろう」と知らず知らずのうちに思いこんでいたという ※画像はイメージです=Getty Images
「これくらい、いじめではないだろう」と知らず知らずのうちに思いこんでいたという ※画像はイメージです=Getty Images

いじめ被害者が加害者になってしまう理由

自分は小学校でひどいいじめにあってツラい思いをした。だから自分はいじめの加害者には絶対にならない。同じようにツラい思いは誰にもさせたくない。

そんな強い決意を抱いていた自分がいじめの加害者になったという事実は、いじめの被害経験よりもショッキングな出来事でした。

いじめのツラさや残酷さを身をもって理解していたはずのぼくが、なぜ加害者になってしまったのか。実はいじめの被害者は被害を経験したあとに加害者になりやすいという傾向があります。当時のぼくもそうでした。

ぼく自身は、彼を精神的に追いつめながらも、それが「絶対にいじめにならない」という確信を持っていました。ぼくが受けた、殴る・蹴る、悪口を言われるといったいじめに比べれば、本人欠席の中、話し合いを進めることくらい、いじめでもなんでもないと思ったからです。

つまり自分の経験を基準に、「これくらいは大丈夫だろう」といじめのハードルを勝手に上げてしまっていたのです。

むしろ、精神的に追いつめている自覚を持ちながらも、「こういうふうにすればいじめにはならないはずだ」と何重にも保険をかけ、巧妙化させようとしていたとすら言えるでしょう。

「相手にイヤな思いをさせる」ことがいじめなのに、自分の経験に照らして勝手にいじめの線引きを変える。今思えば悪質と言うほかありませんが、情けないことにこれが、いじめの被害経験を経たぼくの現実でした。

世の中のパワハラやモラハラと言われている現場にも、同じような構図があります。

「オレたちの時代は深夜残業なんて当たり前だった」と言って、若手社員に対して、自分がしてきたのと同じ苦労を押しつける。

人間には、「自分はこんなに苦労したんだから、相手にだって同じ苦労をさせていいはずだ」と考える弱さがあるのです。

自分がいじめ加害者になってしまったら

もし自分が加害者になってしまったら、まずは相手と一旦距離を取って、これ以上の加害行為をしないことです。

おそらく「加害者だ」と指摘された段階では、まだ自分が加害者になっていると納得することはできないでしょう。でも、少なくとも周囲や被害者本人から加害行為だと指摘されているのであれば、その行為を続けることは避けるべきです。

加害行為をストップしたら、次は自分自身の行動をじっくりと省みることが必要です。どうしてその行為をしてしまったのか、その行為に対して自分なりに持っていた正しさとは何だったか。にもかかわらず、どうして自分の行為は正当化されず、「加害行為 」と言われるようになってしまったのか。

本当はこの話をていねいに聞き取って思考の整理を手伝ってくれる大人がいるとベターです。ただ、多くの大人は加害者を「反省させよう」としてきますから、「言 い訳をするな」と、話を聞いてくれない場合も多いでしょう。

その場合は、ぬいぐるみやペットなど、決して言い返してこないものを相手に話してもいいと思います。「自分は間違っていたんだろうか……」と自問自答することが、反省に近づく道です。「いや、自分は正しかったはずだ」という思いこみを誰にも受け止めてもらえずに反省するのはとても時間がかかりますが、逃げたり目を背けたりすることはおすすめできません。それでは、あなたはずっと「加害者」のままです。

どうして自分の行為は正当化されず「加害行為 」と言われるようになってしまったのか、考えることが大事だという ※画像はイメージです=Getty Images
どうして自分の行為は正当化されず「加害行為 」と言われるようになってしまったのか、考えることが大事だという ※画像はイメージです=Getty Images

心から「謝りたい」と思ったら

自問自答の末に、「正しいと思っていたけど、やってはいけないことをしたのだ」と自分で納得できるタイミングが来たときはじめて、被害者に自ら、心から謝ることができると思います。おそらく先生にうながされてすでに一度謝っていると思いますが、このときあらためて、自分から謝るといいでしょう。

囲碁部の件では、ぼくが自分の行いを反省して謝ったことで、幸い彼に許してもらうことができ、もとの友だち関係に戻ることができました。

謝ったからといって必ずしも仲直りできるとはかぎりません。それは自分が仲直りしたいと願い、相手が仲直りしてもいいと認めてくれることでしか成立しないからです。

でも、謝ることと仲直りすることは別の次元の話です。「謝ったのに許してもらえなかった」と怒り出す人がまれにいますが、その人は謝罪の意味をはき違えています。

謝るのは相手に対する情けではありませんし、何かを実現するための手段でもありません。「謝ってほしければ○○しろ」のように言う人がいたら、おかしいと思いますよね。この点はくれぐれも誤解しないようにしてください。

さて、この件があってからは、被害者経験をしているからこそ、自分が加害者になっていないか、常に意識するようになりました。

特に自分がリーダーなどの権力のある立場になったときには、周りの人に「気づいたら注意してね」と頼んで、行きすぎた行為がないかチェックしてもらうようにしています。

もしもあなたが過去にいじめでツラい思いをしたことがあるなら、ぜひ自分が加害者に転じてしまうことがないように、自分の基準で他人のツラさを測らないように気をつけましょう。

『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた 未来を切りひらく思考』(朝日新聞出版)の著者、山崎聡一郎さん
『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた 未来を切りひらく思考』(朝日新聞出版)の著者、山崎聡一郎さん 出典:『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた 未来を切りひらく思考』
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