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「たばこのない五輪」の“ほころび”、日本の受動喫煙対策との一致点

閉会式に出席した選手たちが見つめる中、披露されるパフォーマンス=2021年8月8日、国立競技場、諫山卓弥撮影
閉会式に出席した選手たちが見つめる中、披露されるパフォーマンス=2021年8月8日、国立競技場、諫山卓弥撮影 出典: 朝日新聞社

目次

国際オリンピック委員会(IOC)が「たばこのない五輪」を掲げる中、東京五輪の閉会式で参加者が“喫煙”をしていたことが問題に。実は、選手村には喫煙所が設置されており、「スモークフリー」を徹底することの難しさもあらわになりました。

日本では、五輪開催が後押しとなって、改正健康増進法により受動喫煙防止が義務化されたばかり。例外をどこまで認めるか、「東京五輪とたばこ」が突きつけた課題について考えます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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最も「たばこない」はずが…

Athletes from the United States smoke cigars during the closing ceremony REUTERS/Carlos Barria
Athletes from the United States smoke cigars during the closing ceremony REUTERS/Carlos Barria 出典: REUTERS
8月8日20時、国立競技場でスタートした閉会式。「東京の公園」をイメージしたという芝生のフィールドは、東京五輪・パラリンピック組織委員会によれば「リラックスした雰囲気を生み出す」ことが目的だったそうです。

それに沿うようにくつろぐ各国の選手たちでしたが、そのうち米選手団メンバーと見られる数人が葉巻のようなもの吸い、煙を吐いている姿が報道のカメラに捉えられ、問題になりました。

これは国際オリンピック委員会(IOC)が「たばこのない五輪」を掲げており、東京五輪・パラリンピック組織委員会も競技会場の敷地内について加熱式たばこを含めて全面禁煙としているから。

IOCが禁煙の方針を採択したのは1988年と、30年以上前のこと。現在も「すべての大会関係者の健康と安全を守るためにスモークフリー(たばこの煙のない)環境とする」「ノースモーキングポリシー(禁煙方針)は公衆衛生の観点からも重要」​​とされています。

そしてカルガリー大会以降、会場の内外の禁煙化が進められました。2005年には日本も批准するWHOの「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)」が発効し、10年にIOCもWHOと「たばこのない五輪」を目指す合意文書に調印した、という経緯です。

注目すべきは、この時期から、オリンピックは競技会場以外でも、屋内施設(飲食店等を含む)が全面禁煙とされる国や都市で行われることが慣例となっていること。これが、後に日本の受動喫煙対策を推し進めることになります。

東京大会では、前述したように、大会中のすべての競技会場敷地内について、加熱式たばこを含めて完全禁煙とする方針​​が、19年に示されていました。ロンドン大会やリオデジャネイロ大会では会場屋外に喫煙所が設けられていたので、東京大会の敷地内は近年で最も「たばこのない」環境になるはずだったのです。

そんな大会の、閉会式という最後のタイミングで、​予期せぬ“喫煙”が発生してしまいました。
 

コロナなければギリギリ成立

しかし、東京大会のスモークフリー化は、そもそも順調ではありませんでした。​WHO幹部のダグラス・ベッチャー氏が来日し、日本の受動喫煙対策の遅れを「前世紀のようだ」と批判した会見が行われたのは2017年4月7日のこと。

当時、教育施設、医療施設、政府施設、レストラン、交通機関など、​​公共の場の禁煙化が各国で進む中、日本はいずれの場でも法的な規制がなされておらず、世界最低レベルと指摘されていたことが背景にあります。

これは厚生労働省が改正健康増進法案​​の国会提出を目指していた最中の会見でした。法案は世論の一定の支持を集めるも、自民党の「たばこ議員連盟(たばこ議連)」​​の反発にあい、駆け引きが繰り広げられていた頃です。

来日時、ダグラス氏からも、当時は20年開催予定だった五輪が、公共の場の禁煙化を進めるマイルストーンだと指摘されました。厚労省も当時、五輪を控え「国民の更なる健康増進のために早急に受動喫煙対策の強化を図り、その実効性を高める必要がある」という見解でした。

その後、東京では、小池百合子都知事が東京五輪・パラリンピックの開催都市として受動喫煙対策を進める方針を打ち出し、国の法改正を待たずに条例成立を目指すと強調。国の健康増進法改正案より規制対象の広い​受動喫煙防止条例が18年6月に可決・成立しました。

そして同7月、国会で改正健康増進法が可決・成立。新型コロナウイルスの感染拡大がなければ東京五輪・パラリンピック直前だったはずの20年4月に全面施行することとされました。

この改正では、すべての人に罰則つきで禁煙場所での喫煙を禁じ、これまで努力義務だった同法の受動喫煙防止を義務化。経過措置など一部に批判はあったものの、これにより「たばこのない五輪」開催地としての体裁がギリギリのタイミングで整ったのでした。
 

“例外”は五輪、受動喫煙対策にも

世界的に遅れていた日本の受動喫煙対策を、結果的に進めることになった五輪開催。これを東京大会のレガシーと見る向きもあります。

そんな中で「すべての大会関係者の健康と安全を守るためにスモークフリーとする」という方針が浸透せず、閉会式で喫煙と見られる参加者の行動があったことは残念です。

一方で、今回の東京大会が本当にスモークフリーだったかと問われれば、気になる点も。実は選手村においては例外的に、屋外の喫煙所で喫煙が可能だったのです。

組織委によれば、選手村には5カ所の喫煙所がありました。選手村は建物内はすべて禁煙。屋外も原則禁煙であるものの、動線から離れた場所に喫煙所を設置していました。

「新型コロナウイルス感染症対策として、喫煙スペースでは2m以上の間隔で灰皿を設置し、利用者が十分なディスタンスを確保できる環境を提供」しており、この注意の下、人数や時間の制限はなかったとのことです。

選手村での滞在は長期間に及ぶため、滞在者に喫煙者もいる以上、喫煙所の設置は必要だという意見もあります。

ただし、徹底されなかった「スモークフリー」の延長に、一部の参加者による「閉会式での喫煙」というルール違反があったと見ることもでき、受動喫煙を防止するための理念を浸透させる上で、“例外”をどこまで認めるかという論点もあります。

このような“ほころび”は、日本の受動喫煙対策にも生じていました。

改正健康増進法においては、例外として「喫煙を主目的として要件を満たす施設は『喫煙目的室』を設けることができる」とされています。その結果、同法や東京都の条例の施行に際して、バーやスナックが、喫煙の認められるシガーバーなどと同じ『喫煙目的施設』に移行する動きが広がったのです。

要件とは「たばこの小売業者などから出張販売の委託を受け、対面販売をする」「米飯・めん類などの『主食』を提供しない」「未成年を入れない」などを満たすこと。

そうすれば、主食を除く飲食が可能なまま、喫煙可能な施設とみなされます。この例外措置を目当てに、バーやスナックがたばこ店から出張販売を請け負い、衣替えするケースが増えました。厚労省は「法の抜け穴をつく行為で、好ましくない」と指摘しています。

スモークフリーも改正健康増進法も、その目的は「たばこの害から健康を守る」こと。いかにしてこうした方針に実効性を持たせるのか、今回の問題はオリンピックだけでなく、社会としてどう受動喫煙対策を進めるか、課題を突きつけたといえそうです。

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