連載
#34 「きょうも回してる?」
車いすバスケをガチャガチャ化「なんちゃって商品にはできない」
批判の声もある中、実機ユーザーからエール

「バスケ車」をガチャガチャに
2019年に日本財団パラリンピックサポートセンターが社会人約320人に聞いた東京パラリンピックで観戦したい競技では、 車いすバスケットボールが1位になりました。
バスケットボール選手が使用する競技用車いす、通称「バスケ車」を作っている国内メーカーを知っていますか。
岐阜県養老町に本社を構える松永製作所です。アクティブユーザー向けの日常用車いすや、スポーツ用製品はMPブランドで展開し、最大限のパフォーマンスを目指すアスリートをサポートするとともに、ものづくりの新たな可能性に挑戦し続けています。
また、松永製作所は日本車いすバスケットボール連盟のオフィシャルサポーターであり、イギリスバスケットボール代表チームのオフィシャルサプライヤーとして、車いすを提供しています。
松永製作所が手掛けるバスケ車のなかに、「B-MAX」があります。B-MAXは、ダイレクトな操作感を実現する剛性と、スムーズな旋回性能を実現するしなやかさを両立する、業界初のセミアジャストフレームを採用したバスケ車です。
このバスケ車に魅了されたガチャガチャメーカーがありました。企業コラボをはじめ、アーティストコラボ、オリジナルなどの商品を手掛けているSO-TA(@SOTA170317)です。

実機を研究し、再現
今回紹介するのは、松永製作所のバスケ車モデル「B-MAX」を1/12にした「1/12 B-MAX」です。
SO-TAは「柏木工 1/12スケールチェアシリーズ」、「1/12和傘」、「AKRacing 1/12 Pro-X V2」など1/12シリーズの商品を展開していくなか、いす関連の商品を作りたいと考えていました。そこで出会ったのがB-MAXでした。
「バスケ車を作るのであれば、単純になんちゃって商品を作るのではなく、実機の1/12サイズを作ることが重要でした」と話すのは、SO-TA代表の安藤幸臣さんです。商品化するうえで、メーカーとのコラボが必要と思い、松永製作所とコンタクトを取ってB-MAXの商品化を進めました。安藤さんは「B-MAXは車いすのなかでも、スーパーカーのような存在感があり、かっこいいです」と魅力を語ります。

通常、ガチャガチャは3カ月から6カ月の間で商品化を進めますが、1/12 B-MAXはパラリンピックの開催に向け1年以上かけて作りました。社内には松永製作所から借りた実機を置いて乗ってみたり、デザインや性能を確認したりしながら、再現性を徹底的に高めていきました。
その結果、1/12 B-MAXは実機の機動性を重視したスポーティーでスタイリッシュなデザイン。車輪部分は可動します。
開発を担当した河上晶さんによると、商品化にあたって一番悩ましかったのは車輪のスポーク部分でした。
「設計データと、実機の車いすを見比べたときに、実機の車輪のスポークは1ミリ単位で作られるほど細くこだわって作られていました。しかし、1/12サイズでスポークが1ミリ以下になると、破損が起きてしまいます。最低でも1.3ミリぐらいは確保しておかないといけません。いかに実機のデザイン性を損なわずに、再現性を高めることができるかを考え、全体のバランスを取ることが大変でした」
このように、1/12の車輪のスポーク部分までも妥協せずに考え抜くことが、忠実なデザインの再現につながっています。座るシートの皺も再現していることには驚きを隠せません。

価格以上の価値を
安藤さんは、1/12 B-MAXを作りたかった一番の理由をこう話してくれました。
「単純に1/12サイズのミニチュアを作ることだけではなく、バスケ車や車いすバスケットボールがもっと普及し、もっと認知されることが、僕らが1/12 B-MAXを作った理由です」
この想いは、カプセルに入っている冊子にも込められています。通常カプセルに付属している冊子には、商品の組み立て方が掲載されています。しかし、冊子ひとつとってもSO-TAなりのこだわりがありました。
「冊子も商品の一部として扱いたい想いがあります。『松永製作所がどういう会社なのか』や、『この商品は何のために作られたのか』という情報を掲載することで、商品に愛着が湧きます。500円で買ったときに『クオリティーが高いね』で終わらせるのではなく、お客さんが500円以上の価値を見いだしてくれることを望んでいます」(河上さん)

さらに、河上さんは商品作りをするうえで「お客さんが商品を使用しているシーンをイメージできるかどうかを大切にしています」と教えてくれ、ユーザーの視点を重要視しています。
たとえば、プラモデルの場合には、好きな人が購入するので、組み立てるパーツ数が多くても負担にはなりません。しかし、ガチャガチャはお客様の幅がコア層からライト層まで様々です。
1/12 B-MAXでは、組み立てるパーツ数も許容できる範囲に抑えています。また、河上さんはバスケットボールのための車いすだとしたら、バスケットボールが必要なのではないかと思い、開発が進んでいるにもかかわらず、急遽バスケットボールを追加しました。ここにもユーザー目線を取り入れていることがわかります。

試作が出来あがり、1/12 B-MAXをSNSでPRした時に「車いすを扱うのはいかがなものか」という声があったそうです。しかし、「これ、俺が使用しているやつだよ。俺の愛機だ」という声もあり、河上さんは「発売を楽しみにしてくださるお客様も多かった。チャレンジしてみて良かった」と話してくれました。
安藤さんは1/12 B-MAXを作ったことについて、「確かに実機をそのまま1/12にすることは難しいことかもしません。省略せざるを得ない機能部分もありました。ただ、それを省略していないかのように見せるのが僕たちの仕事です。どうすれば実機の良さを損なわずにミニチュア化できるかが重要でした」と教えてくれました。
このことを聞いた時に、松永製作所がものづくりへの新たな可能性に挑戦し続けている姿と同じように、SO-TAにとっても、1/12 B-MAXを作ることはひとつの挑戦でもあったと感じました。
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1/12 B-MAX は、B-MAX DT レッド×レッド、B-MAX DT ブラック×レッド、B-MAX DT シルバー×イエロー、B-MAX DT ホワイト×ブルーの4種類。1回500円。
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ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani)
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。