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蛙亭のブレーク、男女コンビに起きた変化 女性芸人のキャラが多様化

夫婦からビジネスパートナーへ

蛙亭の岩倉美里(右)と中野周平=2020年2月、大阪市中央区、小杉豊和撮影
蛙亭の岩倉美里(右)と中野周平=2020年2月、大阪市中央区、小杉豊和撮影
出典: 朝日新聞

目次

この10年で男女コンビが増えている。その中、今もっとも注目を浴びているのが蛙亭のイワクラと中野周平だ。2000年代に南海キャンディーズが登場して以降、夫婦ではなくビジネスパートナーとしての男女コンビが定着。2010年代中盤からは、メイプル超合金、相席スタートらがM-1グランプリで頭角を現し始めた。蛙亭は、彼(彼女)らの何を引き継ぎ、何を更新しているのか。男女コンビの魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)

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女性漫才師のイメージ変えたしずちゃん

この20年で、もっとも長く支持されている男女コンビが「南海キャンディーズ」だ。山里亮太がしずちゃん(山崎静代)を誘い、2003年に結成。その翌年には、「ABCお笑い新人グランプリ」で優秀新人賞、「M-1グランプリ」で男女コンビでは初となる決勝進出、および準優勝という結果を残して一躍時の人となった。

2人の漫才は、両手を上げて登場し、センターマイクを前にサッとスタイリッシュなポーズを決めるところから始まる。マイペースなしずちゃんのボケに「新し過ぎるって。オレそれ広げる自信ないよ」「どうしよう……こんな状況生まれて初めてだ」といった困惑を吐露する山里。ツッコミと言えるほどの強い言葉はほとんど使われず、最後はしばし間を空けてからお辞儀をして終わる。

2004年当時、2人の漫才を見て「なんだ、これは……」と圧倒されたものだ。もちろん山里のワードセンスも光っていたが、それ以上に私にノイズが走ったのはしずちゃんのキャラクターだった。しずちゃんの「おっとり」「突飛」「自由奔放」という面白さは、それまでの女性漫才師にあった「ハツラツ」「勝気」「天真爛漫」という印象からだいぶ逸脱していたのだ。

ビジネスパートナーとして成功した第一人者

案の定、まずブレークしたのはしずちゃんだった。2006年には映画『フラガール』で女優デビューし、翌年の第30回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞。2007年からボクシングを始め、タレント活動と並行しながら試合に挑戦する姿にもスポットが当たった(2015年の引退までにオリンピック出場は叶わず)。

しずちゃんの活躍に、山里は嫉妬し続けた。楽屋の雰囲気は悪くなり、芸人仲間に愚痴を洩らすようになった。「お芝居やってる場合じゃない」と言って、『フラガール』の出演依頼をもみ消そうとしたことさえあったそうだ。(2021年6月に放送された『モモコのOH!ソレ!み~よ!』(関西テレビ)より)

それぞれピンの仕事が増え、2人の距離は開いていく。そのうち、徐々に山里の活躍も目立ち始めた。しかし、いかなる時も、しずちゃんは山里を悪く言うことはなかったという。関係が修復すると、「M-1グランプリ2016」に挑戦するなど、コンビでの活動を再開。また、2019年には、しずちゃんの紹介で山里と女優・蒼井優が結婚したりと、公私ともに深い関係性を築いている。

2000年代初頭まで、男女コンビと言えば夫婦だった。南海キャンディーズは、紆余曲折を経たものの長期的なビジネスパートナーとして成功した第一人者と言えるだろう。

会見後、記念撮影する俳優の蒼井優さん(中央)とお笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さん(左)としずちゃん=2019年6月5日午後8時1分、東京都新宿区、田辺拓也撮影
会見後、記念撮影する俳優の蒼井優さん(中央)とお笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さん(左)としずちゃん=2019年6月5日午後8時1分、東京都新宿区、田辺拓也撮影 出典: 朝日新聞

賞レースやバラエティーで男女コンビが活躍

南海キャンディーズの活躍を受けて、一気に男女コンビが増えると思いきやそうはならなかった。2000年代後半に注目を浴びたのは、ハジメとバービーのコンビ・フォーリンラブぐらいだろう。そのほか変わったところでは、父と娘のコンビ・めいどのみやげが挙げられる。

それが2010年代から、堰を切ったように増え始めた。「M-1グランプリ」では、メイプル超合金、相席スタート、ゆにばーす、「キングオブコント」ではにゃんこスターが決勝に進出。まんぷくフーフー、世間知らズ、ポンループ、駆け抜けて軽トラといったコンビも、ネタ番組やバラエティー番組で活躍し始めている。

2019年からは「第七世代」「大学お笑い」「歌うま芸人」など多様な切り口で若手が紹介されるようになり、納言、ラランド、パーパーといった男女コンビが注目を浴びるようになった。その中、独特の存在感を放っているのが蛙亭である。

なぜ2000年代に男女コンビが少なかったか

蛙亭の中野は、YouTubeチャンネル「ニューヨーク Official Channel」内の動画「ニューヨーク×蛙亭 30分ノーカットトーク」の中で「僕ら大阪NSC34期なんですけど、33期まではしばらく禁止だったらしいんですよ、男女コンビが。僕らは禁止とか言われなかった」と語っている。

NSC大阪校34期は2011年に入学した生徒たちだ。また同じ動画で、2009年にNSC東京校に入ったニューヨークの屋敷裕政も、「オレらも男と女でクラスが分かれてた」と当時を回想している。2人の発言から、もっとも芸人を多く輩出している吉本興業の養成所では、2010年まで男女でコンビを組むことに積極的ではなかったことが見て取れる。2000年代に男女コンビが増えなかったのは、この点が大きいのかもしれない。

とはいえ、イワクラと中野は最初から男女コンビを組もうとしたわけではなかった。養成所がコンビを組めていない者同士を集めた「相方探しの会」を開催した際、中野がイワクラを面白いと感じて声を掛けた。これをきっかけに交流が始まっている。

その後、学生時代から男の子と遊ぶことの多かったイワクラが、「一生『面白かったね』って言ってくれそう」という理由から中野を誘い、2011年8月にコンビを結成。男女コンビ歴で言えば、ゆにばーすや相席スタートよりも長いことになる。

蛙亭の岩倉美里(右)と中野周平=2020年2月、大阪市中央区、小杉豊和撮影
蛙亭の岩倉美里(右)と中野周平=2020年2月、大阪市中央区、小杉豊和撮影 出典: 朝日新聞

ブレーク前から絶賛されていた蛙亭

駆け出し時代は漫才も作っていたが、劇場のネタバトルで結果が出たのを機にコントがメインになっていく。独自の視点でネタを生み出すイワクラ、それを台本以上のキャラクターで演じる中野。次第に2人は、同業者から評価されていくようになる。

2019年末、私が霜降り明星にインタビューした際、せいやは2020年に注目すべき芸人として蛙亭の名を挙げている。(2020年1月18日に「bizSPA!フレッシュ」に掲載された「霜降り明星・粗品が語る、コンビ結成前夜『1年間、熱いメールを送り続けた…』」より)

当時、蛙亭は大阪でこそ知られていたが全国区ではなかった。しかし、せいやの言う通り、翌2020年から東京キー局のバラエティーで露出が増え始め、一気に人気芸人へと駆け上がっていった。ちょうど第七世代とともに人気を集めたコント村の面々(ゾフィー・上田航平、ハナコ・秋山寛貴、かが屋・加賀翔、ザ・マミィ・林田洋平)、東京03・飯塚悟志ら関東で活動する芸人が、蛙亭のコントを絶賛した影響もあっただろう。

現在、イワクラはオズワルド・伊藤俊介、ママタルト・大鶴肥満、森本サイダーと同居中だ。その模様を自身のYouTubeチャンネルにアップしたり、バラエティーで取り上げられたりと注目を浴び続けている。SNSをうまく活用するあたりも、若手ならではの強みと言えるだろう。

ジェンダー観の変化も影響

かねてより男女コンビに共通するものは何か。それは、女性がイニシアチブを取っていることだ。鳳啓助・京唄子にしろ、宮川大助・花子にしろ、「ハツラツとした嫁」「尻に敷かれる夫」のイメージによって笑いを生み出していた。

漫才コンビ・ツービートで一世を風靡したビートたけしは、2021年5月に放送された『たけしのその時カメラは回っていた』(NHK総合)の中で、「お笑いの世界だけは男尊女卑じゃなくて女尊男卑だった」と語っている。この流れは、現在でも基本的に変わっていないように思う。

南海キャンディーズ以降、男女コンビがビジネスパートナーとなって大きく変わったのは、女性側のキャラクターが多様化し、主にボケを担うようになったことだ。コンビの関係性も、「いい加減な男性をたしなめる勝気な女性」から、「自由奔放な女性に振り回される男性」へと主流が移っていき、蛙亭においてはその逆(男性に振り回される女性)を演じることも多い。このことは、一般社会におけるジェンダー観の変化も影響しているように思う。

イワクラは、何かと相方を「ムカつく」と言いながら、ネタ中のアドリブ力やバラエティーでの立ち振る舞いについては「頼もしい」と口を開く。一方の中野も、相方の遅刻癖を指摘しつつ、ネタの面白さにおいては厚い信頼を寄せている。

相方に対する褒め言葉は笑いにつながりにくい。だからこそ従来は、そうした一面がなかなか表に出て来なかった。しかし今は男女においても、相方の良し悪しを包み隠さず語るのがスタンダードだ。こうした対等な関係性こそが、男女コンビの持ち味にもつながって来ているのではないだろうか。

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