連載
#78 コミチ漫画コラボ
タイムマシンで止めにいきたい〝ボクの告白〟好きな子に自作マンガを
いぬパパさんが自身の「傷をえぐって」描いた作品です
「高校生活もあとちょっと。告白するしかない!」。そう決意したはいいものの――。「タイムリープできたら、あの頃のボクを止めにいきたい」と語る、会社員漫画家のいぬパパさんは、高校時代の甘酸っぱい思い出をマンガに描きました。「いつかは描かないと昇華できないなと思っていました」と笑います。マンガに込めた思いを聞きました。
その女の子との出会いは、いぬパパさんが転校した先の中学校でした。同じ陸上部で、なんとなく好意を抱いていたいぬパパさん。中学校を卒業したときに「もう会うことはないんだな」と思っていましたが、まさかの同じ高校・同じクラスだったのです。
ハンドボールの部活に打ち込み、教室で朝練の準備をしていたいぬパパさんに、その女の子が「これからもっと寒くなるから」「がんばれ」とマフラーをくれるという出来事もありました。
いぬパパさんは「振り返れば、そこがポイントだったような気もします。『あ、くれるんだ』という感じで、実際に使っていましたね。チャンスもあったのかな」と話します。
しかし高校時代もあと残りわずか。卒業したら今度こそ会えなくなってしまいます。
「告白するしかない!」
いぬパパさんは「まあ、ここまでは分かりますね」とマンガに実況を差し込みつつ苦笑します。
当時のいぬパパさんは、告白の方法に、なぜか「マンガを描いてあの子に送ろう!」と決意するのです。
マンガの内容は、地球を侵略しにきた異星人と高校生がハンドボールで対決するという異色のストーリー。投稿用の大きな原稿用紙に2カ月ほどで描き上げ、「3月10日にここで待ってます」という呼び出しのメモとともに、その子の自宅へ送ったのです。
クラスメートにはマンガを描いていることを内緒にしていたといいますが、いぬパパさんは「当時は、ほかの人と違うことをするのが『個性』みたいな気持ちがありました。『ボクの気持ちを知ってもらうにはこの方法しかない!』と思い込んでいたんですよね」と苦笑します。
そして呼び出した当日。その女の子は待ち合わせ場所に「よっ」と現れたのです。
「なんで来ちゃうかな!!」「アンタが呼んだんや」と心の声が応酬します。
そしてこの時点で、当時のいぬパパさんはスッと冷静になり、「自分のアプローチ方法はおかしかった」と気づいてしまうのです。
結局ガチガチになって、2時間経ってもたいした話はできず、告白することはできませんでした。
スマホもLINEもない時代だからこその大失敗。いぬパパさんは「逆に今だとこんな大失敗はなかなか起きないのでしょうか」と笑います。
そのあと同窓会などで、この女の子に会ったかどうかを聞いてみると、「2年後に見かけたんですが、大失敗の思い出もあって声がかけられなかったんですよね」と振り返ります。
いぬパパさんはその経験を、半分フィクションとしてマンガに描いて昇華しています。
大学を卒業し、会社で働き始めてからはマンガを描かなくなったといういぬパパさん。子どもが生まれた25~26歳ごろから、育児のエピソードをマンガで表現し、ブログなどにアップしていったといいます。
4コママンガの投稿サイトに挑戦するようになり、隙間時間でマンガを描く生活を続けてきました。
数年前からは、書籍のイラストや広告などマンガを描く仕事を兼業で続けています。タブレットを持ち歩き、通勤時間や移動の合間など、30分や1時間といった時間を見つけては、絵を描いているそうです。
ツイッターのプロフィールには「夢を追い続ける人を応援したい」と記しますが、「自分に言い聞かせている」ところもあるといいます。
「けっこうみんな『年だから』『若いのにすごい』と言いがちですよね。けれど、何歳からだって挑戦はできる。特にマンガは年齢制限もないし資格も要らないし、何歳から描いてもいいんです」と話します。
特に雑誌に投稿するだけでなく、今はコミチやツイッター・noteなど、ネットに自分の作品をアップすることもでき、チャンスが広がっていると指摘します。
最後に「本当にタイムマシンがあったらどうしますか?」と尋ねると、いぬパパさんは「会社員にならずに漫画家を目指す道を選んでいたと思います。今より厳しい道になっていたかもしれませんが」と笑います。
「傷をえぐって描いたマンガでしたが、いつかは描かなきゃいけなかった体験をようやく描けました。『同じようなことをやらかした』とコメントをくれた人もいて、皆さん意外と失敗しているのかなって思いました。今度は、そんなみなさんの体験やエピソードを募集して、マンガにしてみたいですね」
いぬパパさん:妻、子ども2人、ウサギと埼玉県川越市で暮らす。印刷会社の営業担当として働きながら漫画家をしている。モットーは「働きながら描く」。何歳からだって夢を追いかけられるということを体現している。「夢を追い続ける人を応援していきたいです」
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