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遺体安置所でのケア、誰が? 遺族を支える専門チーム日本DMORT
被災地で活動した看護師が痛感した「心のケア」の大切さ
地震や土砂災害といった大規模災害・事故において、遺族への心のケアをおこなう団体「日本DMORT」を知っていますか? JR福知山線の脱線事故をきっかけに、看護師や医師らが活動を始め、遺体安置所で遺族のケアに当たっています。7月に発生した熱海の土石流災害でも現地に入りました。発足当初から活動する看護師は、ニュージーランドの地震被災地で遺族のケアの重要性を実感したといいます。活動内容や直面している課題も聞きました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)
被災地では自治体や消防、警察、自衛隊などの行政組織はもちろん、NPOなど民間の災害支援団体を含めたさまざまな組織が活動しています。初期の人命救出から、インフラの復旧、地域の復興まで、多くの団体がニーズに応じた支援をしています。
その中で見落されがちなものの、大切なのが被災された方への「心のケア」です。一口に被災といっても様々な状況がありますが、被災者には精神的な負担が重くのしかかります。特に家族を亡くした場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥る可能性もあります。
なかでも土砂災害や地震といった自然災害や、航空機・列車などの大規模な事故では、遺体に向き合う遺族の心の負担は重大です。 そこで日本DMORT(ディモート、以下DMORT)は、遺体安置所で遺族のケアにあたる活動に取り組んでいます。
このニュージーランドでの体験から、遺族への心のケアの重要性を痛感したという河野さん。2016年の熊本地震でDMORTのメンバーとして本格的に遺体安置所での活動を行いました。
子どもを亡くしたご家族が号泣するそばに寄り添い、肩を抱き支えたり手を握ったり……。遺族の血圧を測るといった体調管理にも気を配りました。
ご家族だけでなく、支援にあたる県警や自治体職員のケアも活動のひとつです。
熊本県警には臨床心理士もいましたが、いつもとは大きく違う職務にあたることで、遺族を支援する側にも精神的な負担があったといいます。
DMORTから7月の熱海の土石流災害現場に派遣された看護師・別所輝哉さんは、支援する人の支援である「支援者支援」の必要性を訴えます。
「警察や市役所の方々と一緒に活動しますが、僕たちみたいに日々人の死に向き合っている人ばかりではありません。支援する職員の皆さんのお顔を見ながら、適宜、声をかけたりして精神状態も気にしています。日陰になってしまいがちですが、助ける側も健康で帰ってほしいという視点も持って活動しています」と話します。
とはいえ遺体安置所には、そう簡単には入ることは許されません。
2020年7月の九州豪雨災害では、熊本地震での連携がいかされ、現地で警察とともに活動することができました。それでも災害発生から6日目の現地入りとなってしまい、河野さんは「タイミングが遅かった」とも振り返ります。
「まだ9名ほど行方不明者がいましたが、遺体安置所が閉鎖となりました。数名のご家族に関わり、まだ行方不明者がいるのでもう少し留まって支援したいという気持ちはありましたが、遺体安置所が閉鎖となれば我々の活動も終了となります。断腸の思いで帰りました」
7月3日に熱海で発生した土石流災害では、7月9日に遺体安置所での活動に許可が下りたといいます。
「行方不明者の捜索活動がなかなか進まない中で、我々も捜索活動を見守る時間が続きました。結局10日間の活動を終え7月18日で撤退となってしまいました。まだ行方不明者がいる状況なので、後ろ髪を引かれる思いでの撤退でした」
河野さんはさらに各都道府県警と連携を深めなければと考えています。
「ご家族への連絡やDNAのサンプル採取、書類のとりまとめや説明など、警察職員がやらなければいけないことはたくさんあります。そんな中でも、すごく優しい心を持ってご遺族に接しています。だからこそ、ともに協働しながら『ご遺族のケアは任せてください』と言いたいです」
被災地での医療支援組織では、DMAT(正式名称:災害派遣医療チーム)とDPAT(正式名称:災害派遣精神医療チーム)が知られています。
DMATは医師、看護師、救急救命士らでつくるチームで、被災地域の医療支援を担います。DPATは同様の仕組みで、被災者の精神疾患発症の予防を支援します。
DMATやDPATは厚生労働省の防災業務計画に定められており、災害時に被災した都道府県などからの派遣要請で活動します。
DMATやDPATと違って、民間組織であるDMORTは遺体安置所での遺族のケアに特化しています。DMORTは活動資金もほぼ会員からの会費のみで運営されているといいます。
そこでDMORTでは、遺体安置所で検視や検案を行い、遺族と向き合うことが多い警察との連携を深めることを模索しています。
河野さんは「我々の活動は、警察の理解がなければ成り立たない」と話します。現在は、4県警との事前協定を結んでいます。
DMORTの存在を知ってもらい、「遺体安置所で医療の知識のある者が協働する意義を理解していただきながら、さらに協定を広げていきたい」と考えています。
一方、熱海では、DMATやDPATのなかにDMORT養成研修を受けたメンバーが多数参加しており、連携に前進があったといいます。各団体の活動を調整する会議にDMORTのメンバーが出席するなど「他チームとの情報共有も円滑にできた」とDMORTの別所さんは言います。
遺族への心のケアは、災害や事故などに遭った経験がなければ、その必要性が理解しにくいのが現実です。
新たな取り組みであるDMORTの活動は、DMATやDPAT、各県警や自治体との連携はもちろん、医療に限らず、被災地で支援を行う団体で理解が広がることによってさらに広がっていくはずです。
DMORTの「心のケア」によって救われる人も少なくないと感じます。災害や事故はどこで起きるか分かりません。だからこそ、支援に携わる多くの方々に少しずつでも「心のケア」の必要性が伝わればいいなと思います。
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