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遺体安置所でのケア、誰が? 遺族を支える専門チーム日本DMORT

被災地で活動した看護師が痛感した「心のケア」の大切さ

7月3日に静岡・熱海で発生した土石流で慎重に捜索を続ける警察官たち。災害時は多くの支援チームが被災地に入る=2021年7月5日、福留庸友撮影
7月3日に静岡・熱海で発生した土石流で慎重に捜索を続ける警察官たち。災害時は多くの支援チームが被災地に入る=2021年7月5日、福留庸友撮影 出典: 朝日新聞

目次

地震や土砂災害といった大規模災害・事故において、遺族への心のケアをおこなう団体「日本DMORT」を知っていますか? JR福知山線の脱線事故をきっかけに、看護師や医師らが活動を始め、遺体安置所で遺族のケアに当たっています。7月に発生した熱海の土石流災害でも現地に入りました。発足当初から活動する看護師は、ニュージーランドの地震被災地で遺族のケアの重要性を実感したといいます。活動内容や直面している課題も聞きました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)

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福知山線脱線事故きっかけ 遺族への支援

被災地では自治体や消防、警察、自衛隊などの行政組織はもちろん、NPOなど民間の災害支援団体を含めたさまざまな組織が活動しています。初期の人命救出から、インフラの復旧、地域の復興まで、多くの団体がニーズに応じた支援をしています。

その中で見落されがちなものの、大切なのが被災された方への「心のケア」です。一口に被災といっても様々な状況がありますが、被災者には精神的な負担が重くのしかかります。特に家族を亡くした場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥る可能性もあります。

なかでも土砂災害や地震といった自然災害や、航空機・列車などの大規模な事故では、遺体に向き合う遺族の心の負担は重大です。 そこで日本DMORT(ディモート、以下DMORT)は、遺体安置所で遺族のケアにあたる活動に取り組んでいます。

家族への支援の手引きなどもアップされる日本DMORTのホームページ
家族への支援の手引きなどもアップされる日本DMORTのホームページ 出典:日本DMORTのホームページ
DMORTはDisaster Mortuary Operational Response Teamの略で、「災害死亡者家族支援チーム」と訳されています。
家族が遺体に対面する時や手続きの説明時など、様々な場面で寄り添いながら、不調がないか目を配り、サポートします。

一般的に、遺体安置所で遺族に対応するのは警察や自治体の職員です。しかし、心のケアに関する専門的な知識や経験が少ないことも多く、慣れない環境下で精神的に不安定な遺族へ適切に対応できないこともあるといいます。
そこで、遺族への対応の専門的な研修を受けた看護師や医師を派遣し、遺族や職員らを支援するのがDMORTの主な役割です。
JR福知山線(宝塚線)脱線事故の現場=2020年4月25日、兵庫県尼崎市、朝日新聞社ヘリから、小杉豊和撮影
JR福知山線(宝塚線)脱線事故の現場=2020年4月25日、兵庫県尼崎市、朝日新聞社ヘリから、小杉豊和撮影 出典: 朝日新聞
DMORTは2005年、JR福知山線(宝塚線)脱線事故を契機に発足しました。

当時は、けがの状況によって病院への搬送の優先順位を決める「トリアージ」が初めて行われ、迅速に対応できたと評価される一方で、「救命困難」を示す「黒タグ」を付けられて病院には搬送されなかった被害者の遺族には、納得できるような具体的な対応がなされなかったといいます。

その問題提起から翌年、DMORTの前身となる研究会が立ち上がり、研修を重ねて人材を育成。2013年の伊豆大島土石流災害や、2016年の熊本地震へメンバーを派遣し、各県警との連携をさらに深めるために2017年、一般社団法人としてDMORTが設立され、医師の吉永和正さんが理事長に就きました。

異国の地で我が子を失う遺族 心のケアの重要性

DMORT理事で看護師の河野智子さんは、2011年2月にニュージーランドで発生し、日本人28人が犠牲となった地震で、日本赤十字社こころのケアチームとしてクライストチャーチに入りました。家族が遺体と対面する場では、ショックで倒れる人もいたといいます。

体調を崩した家族と一緒に病院にいったり、ホテルに戻るときに同行したり……。警察や外務省などほかの組織ではできなかった支援を担いました。

河野さんは「心と体は一体です。精神的な負担は、体にいろいろな反応を起こします。災害で亡くなられたご遺体は損傷が激しいことが多いです。そういったご遺体に接するご家族が泣き崩れたり、心のバランスを崩したりするのは自然なことです」と話します。

「医療や心のケアの専門知識がある我々であれば、顔色を見ただけで『支援がいるな』とか、歩いている様子を見ただけで『どこか様子がおかしいな』といったことがすぐにわかります」
2011年2月22日にニュージーランドで起きた地震。発生後、行方不明者の捜索が続けられた=2011年2月24日、西畑史朗撮影
2011年2月22日にニュージーランドで起きた地震。発生後、行方不明者の捜索が続けられた=2011年2月24日、西畑史朗撮影 出典: 朝日新聞
犠牲となった日本人は留学生が多く、遺族にとっては息子さん、娘さんがほとんどだったといいます。

「まして異国の地での突然のご遺体との対面。ご家族にとって精神的な負担は計り知れない。ご家族にとって私たち医療者の存在というのは少なからず意味があったのではないかと思っています」

熊本地震で本格的に活動、支援者支援の視点も

このニュージーランドでの体験から、遺族への心のケアの重要性を痛感したという河野さん。2016年の熊本地震でDMORTのメンバーとして本格的に遺体安置所での活動を行いました。

子どもを亡くしたご家族が号泣するそばに寄り添い、肩を抱き支えたり手を握ったり……。遺族の血圧を測るといった体調管理にも気を配りました。

熊本地震で発生した土砂崩れ。行方不明者の捜索にあたる警察の人びと=2016年4月17日、熊本県南阿蘇村、遠藤啓生撮影
熊本地震で発生した土砂崩れ。行方不明者の捜索にあたる警察の人びと=2016年4月17日、熊本県南阿蘇村、遠藤啓生撮影 出典: 朝日新聞

ご家族だけでなく、支援にあたる県警や自治体職員のケアも活動のひとつです。
熊本県警には臨床心理士もいましたが、いつもとは大きく違う職務にあたることで、遺族を支援する側にも精神的な負担があったといいます。

DMORTから7月の熱海の土石流災害現場に派遣された看護師・別所輝哉さんは、支援する人の支援である「支援者支援」の必要性を訴えます。

「警察や市役所の方々と一緒に活動しますが、僕たちみたいに日々人の死に向き合っている人ばかりではありません。支援する職員の皆さんのお顔を見ながら、適宜、声をかけたりして精神状態も気にしています。日陰になってしまいがちですが、助ける側も健康で帰ってほしいという視点も持って活動しています」と話します。

ご遺族のケア、警察との連携が要

とはいえ遺体安置所には、そう簡単には入ることは許されません。
2020年7月の九州豪雨災害では、熊本地震での連携がいかされ、現地で警察とともに活動することができました。それでも災害発生から6日目の現地入りとなってしまい、河野さんは「タイミングが遅かった」とも振り返ります。

「まだ9名ほど行方不明者がいましたが、遺体安置所が閉鎖となりました。数名のご家族に関わり、まだ行方不明者がいるのでもう少し留まって支援したいという気持ちはありましたが、遺体安置所が閉鎖となれば我々の活動も終了となります。断腸の思いで帰りました」

熱海で活動したDMORTのメンバーたち。「家族支援チーム」のビブスを着用します
熱海で活動したDMORTのメンバーたち。「家族支援チーム」のビブスを着用します 出典: 別所輝哉さん提供

7月3日に熱海で発生した土石流災害では、7月9日に遺体安置所での活動に許可が下りたといいます。

「行方不明者の捜索活動がなかなか進まない中で、我々も捜索活動を見守る時間が続きました。結局10日間の活動を終え7月18日で撤退となってしまいました。まだ行方不明者がいる状況なので、後ろ髪を引かれる思いでの撤退でした」

河野さんはさらに各都道府県警と連携を深めなければと考えています。
「ご家族への連絡やDNAのサンプル採取、書類のとりまとめや説明など、警察職員がやらなければいけないことはたくさんあります。そんな中でも、すごく優しい心を持ってご遺族に接しています。だからこそ、ともに協働しながら『ご遺族のケアは任せてください』と言いたいです」

DMAT、DPATとの連携は?

被災地での医療支援組織では、DMAT(正式名称:災害派遣医療チーム)とDPAT(正式名称:災害派遣精神医療チーム)が知られています。
DMATは医師、看護師、救急救命士らでつくるチームで、被災地域の医療支援を担います。DPATは同様の仕組みで、被災者の精神疾患発症の予防を支援します。

DMATやDPATは厚生労働省の防災業務計画に定められており、災害時に被災した都道府県などからの派遣要請で活動します。

車と大型バスが衝突した想定でおこなわれた訓練。負傷者の状態を確認するDMATの医師(右)と消防隊員たち=2018年9月13日、山口県下関市、白石昌幸撮影
車と大型バスが衝突した想定でおこなわれた訓練。負傷者の状態を確認するDMATの医師(右)と消防隊員たち=2018年9月13日、山口県下関市、白石昌幸撮影 出典: 朝日新聞

DMATやDPATと違って、民間組織であるDMORTは遺体安置所での遺族のケアに特化しています。DMORTは活動資金もほぼ会員からの会費のみで運営されているといいます。

そこでDMORTでは、遺体安置所で検視や検案を行い、遺族と向き合うことが多い警察との連携を深めることを模索しています。

河野さんは「我々の活動は、警察の理解がなければ成り立たない」と話します。現在は、4県警との事前協定を結んでいます。
DMORTの存在を知ってもらい、「遺体安置所で医療の知識のある者が協働する意義を理解していただきながら、さらに協定を広げていきたい」と考えています。

一方、熱海では、DMATやDPATのなかにDMORT養成研修を受けたメンバーが多数参加しており、連携に前進があったといいます。各団体の活動を調整する会議にDMORTのメンバーが出席するなど「他チームとの情報共有も円滑にできた」とDMORTの別所さんは言います。

求められる心のケアの理解と連携――取材を終えて

遺族への心のケアは、災害や事故などに遭った経験がなければ、その必要性が理解しにくいのが現実です。

新たな取り組みであるDMORTの活動は、DMATやDPAT、各県警や自治体との連携はもちろん、医療に限らず、被災地で支援を行う団体で理解が広がることによってさらに広がっていくはずです。

DMORTの「心のケア」によって救われる人も少なくないと感じます。災害や事故はどこで起きるか分かりません。だからこそ、支援に携わる多くの方々に少しずつでも「心のケア」の必要性が伝わればいいなと思います。

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