お金と仕事
早稲田の校風をくすぐる支援 オフィシャルカフェが学生思いの戦略
支援への見返り、あえて〝なし〟コロナ後も見据えた他店との差別化
新型コロナウイルス感染拡大による影響から、いろいろな救済措置が生まれました。中でも大学生は、アルバイト収入がなくなって苦しい生活を強いられ、最悪な場合は中退を選ぶケースも生まれています。早稲田大学のオフィシャルショップ「Uni. Cafe 125」が始めた、在校生のための「ランチサポートプロジェクト」は、早稲田の校風に合ったサポートプログラムで、1900食分(2021年7月21日現在)を集めるまでになりました。他店との差別化も考え編み出した制度。その舞台裏を聞きました。(ライター・安倍季実子)
話を聞いたのは、「Uni. Cafe 125」の商品開発・運営をしている株式会社デューク・コーポレーションの熊谷佑樹さんです。
「『Uni. Cafe 125』は、公式グッズショップ『Uni.Shop125』に併設する形で2002年にオープンしました。コロナ前は、学生さん、職員さん、ご近所の方、受験生、観光の方など、本当にたくさんの方がいらっしゃっていました」
お昼はいつも満席状態で、規模の割に売り上げも高めをキープしていたそうです。しかし、昨年、発生した新型コロナウイルスにより、状況は大きく変わりました。
「昨年の3月に外出自粛要請が、さらに4月には緊急事態宣言が発令されたため、早々に休業に入りました。まるまる1ヶ月以上休業し再オープンしたのは5月に入ってからです。スタッフたちは、長い間お店に立つことができず、それが何よりもつらかったみたいです。でも、オープンしてみると、大学はオンライン授業に切り替わっていたため、キャンパスに学生の姿はなく、職員さんの出勤も制限されてる状況でした。誰も予想していなかった二重のショックでした。再オープン後はテイクアウトのみの営業を3週間ほど続けたのち店内飲食をスタートしましたが、お客様はいなかったですね」
スタッフたちは大きな精神的ダメージを受けましたが、お店の売り上げも深刻だったと言います。
「本来なら春は繁忙期なのですが、当日の売上が頼みの綱でもある卒業式・入学式が、昨年は中止になり、今年は規模が縮小されました。さらに、もうひとつの柱と言える、サークルやゼミのパーティーもなかったので、昨年の売り上げ前年比は4月が一桁、5月も10%程度と営業継続が困難な状況でした。そんな状況だったので、コロナに入ってからすぐに何か打開策を講じないといけないと考えはじめました」
まず考えたのはクラウドファンディングでした。しかし、お店自体の歴史が浅いことや大学のオフィシャルカフェという立場上、ただ『助けてください』というこの案は断念しました。
「アルバイトの学生さんから『生活面が大変』などの辛い実情を聞いて、やはり何とかしなければと思いました。常連さんからの『学生さんたち大変ね。何とかしてあげたいね』という言葉もあったので、そこをつなげる方法はないかと探った結果、ランチサポートプロジェクトを思いつきました」
「ランチサポートプロジェクト」とは、ベーグルサンド1食分(400円)から可能な、現役の早大生(学部生・大学院生・留学生)への支援です。募った支援金で、1日30食分の日替わりベーグルサンドを用意し、「Uni. Cafe 125」のカウンターで1人につき1個を無料で提供しています。そして、「ランチサポートプロジェクト」の公式サイトでは、支援を受けた大学生からのお礼ムービーが確認できます。
「クラウドファンディングであることに変わりはないのですが、目的を店舗の支援ではなく『大学生への支援』に向けることで、オフィシャルショップとしての責務を果たせますし、コロナ以降も文化として根付ける施策なんじゃないかと思いました。もちろん、活動自体がユニークであれば他店と差別化できPRにつながるという考えもありました。そういった活動を続けることが、何か別の道につながるかもしれません。お金ではない価値が生まれる可能性を十分に秘めていると思いました」
「それに、コロナによって殺伐とした雰囲気になった世の中で、目に見える形の支援が広がって認知されたときに、関係者が誇りを持ってもらえるプロジェクトにしたいなと思いました。逆境を逆手に母校愛が芽生えるのではないかと。そうやって、大学関係者の絆を深めることが、オフィシャルグッズショップ&カフェとしての役割だと考えました」
大きなメリットを感じたプロジェクトですが、課題もありました。
「ベーグルの原価って、実はけっこう高いんです(苦笑)。お付き合いしていた業者さんが廃業されたこともあって、徐々に原価が上がっていたのですが、売値は据え置きにしていました。また、支援を募って学生に渡すだけだと、お店が何も努力せずにお金を得ていると誤解されてしまう可能性もあると思ったので、お店側の支援として消費税分の40円(カフェでの販売価格は税込みで440円)を負担することにしました。なので、売り上げ的にはギリギリ赤字にならないというレベルです(苦笑)」
「学生のコメント撮影や動画の編集もしているので、人件費なども含めると、早く見切りをつけて違う道を探した方がいいのでしょうが、これはお金うんぬんで継続するかどうかを決めるべきではないなと思っています」
支援集めに関しては、色々なクラウドファンディングを参考にしました。
「早稲田大学の校風を考えると、支援のお返しに何かリターンを送るよりも、全支援金を学生のために使用する方が好まれると思ったので、独自プロジェクトとして立ち上げました。でも、支援してくださった方々へ何もしないわけにはいきません」
そこで、熊谷さんたちが考えたのが「お礼ムービー」です。
「SNSの投稿で、グッズよりも大学の風景画像の方がいいねの数が多い傾向にあったので、今の早稲田大学の様子がわかる風景の方が喜ばれるんじゃないかと思いました。その後、リターン決めのディスカッションの中で『学生さんの生の声を届けた方がいいのではないか』という意見が出てきたので、ベーグルサンドを受け取った学生さんのお礼ムービーとなりました」
ランチサポートプロジェクトがスタートしたのは1月下旬。ほとんどの授業がリモートだったので、1日数人という状態からのスロースタートでした。
「支援されることに抵抗があったり、動画撮影を面倒に感じる人もいて『それならいいです』と断る人もいますが、留学生も含め少しずつ参加してくれる学生さんが増えてきました。『とても助かります』『早稲田大学がもっと好きになりました』『自分も卒業したら学生に支援をしたいです』といった感想をもらえた時はやりがいを感じますし、このプロジェクトの意義を感じることができます」
「少しもったいないなと思うのが、カメラのない所でのお礼です。たぶん、照れなのだと思いますが、『早稲田ってめちゃくちゃいい大学ですね』といった言葉は、カメラの前で言ってもらいたいというのが本音です(笑)。言葉をもらう側としてはうれしいのですが、どうせなら、その言葉をリターンとして届けたい。なので、どうやったらカメラの前で言ってくれるのか、あの手この手で撮影しています」
「お礼ムービー」以外にも、感謝の気持ちを手紙に書いてもらう取り組みも始めたという熊谷さん。現在、支援金は1900食分(2021年7月21日現在)に達しています。
一方、今後の展開を見据えた際の悩みは、プロジェクトの周知です。
「当たり前ですが、ランチサポートプロジェクトは、支援金が尽きれば終わってしまいます。専用サイトやSNSアカウントでの発信、フェイスブック広告を出すなどしてきましたが、これまで、一度に大きな支援金が入ったことはまだありません」
「現在は、夏休み中のためランチサポートプロジェクトは一旦お休みしていますが、9月24日より再びスタートします。この間も、引き続き呼びかけをして支援を集める予定です。そして、コロナ後もランチサポートプロジェクトを継続していき、早稲田大学の関係者の絆を深める文化に育てていきたいですね」
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