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「ぶっちゃけ高い、でも…」攻めすぎポップのスーパー、裏に社長の愛

青森県十和田市にあるスーパーマーケット「ヤマヨ十和田店」で過去に掲示されていたポップ(写真はいずれも筆者撮影)
青森県十和田市にあるスーパーマーケット「ヤマヨ十和田店」で過去に掲示されていたポップ(写真はいずれも筆者撮影)

目次

「担当者が独断と偏見で選んだ自分好みの商品を……」「このコーナーの品はぶっちゃけ高いです」。青森県十和田市にあるスーパーマーケット「ヤマヨ十和田店」は店内のポップがツイッターなどのSNSでたびたび話題になります。攻めすぎポップは一体どのようにして生まれたのか。ライターの我妻弘崇さんが取材しました。

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青森のローカルスーパーが舞台

とにもかくにも、店内に飾られたポップ画像を見てほしい。

担当者が独断と偏見で選んだ自分好みの商品をジャンルとか一切無視して徒然なるままに並べていくだけのコーナーですので、売れるかどうかとかは全く考えてません。店長ごめん

ポップというよりは、「独白」だ。そして、これである。

「みんなだぁい好き! ちん〇」(※○の中はもちろん「み」です)

どう考えても攻めすぎだ――。

ここは青森県十和田市にあるスーパーマーケット「ヤマヨ十和田店」。こんなに目を奪われるスーパーに出会ったのは、初めてかもしれない。

「働く従業員が楽しくなければ、楽しく商売もできないだろうという考えから今のお店になった……でしょうか。他のお店にはない何かを探すこと。その場その場で新しいことに挑戦できることは、大手企業にはできづらいことだと思います」

そう面映ゆそうに説明するのは、ヤマヨ十和田店・代表取締役社長の新藤晴生さん。地元民から絶大な支持を受ける地元スーパーを切り盛し、先の破天荒なポップの数々にGOサインを出すアイデアマンでもある。

“十和田店”とあるが、ヤマヨはここ十和田に一店舗のみを構えるローカルスーパーだ。青森県には、GMS(総合スーパー)のイオンをはじめ、県内に10店舗以上を展開する佐藤長、ユニバース、マエダストアといった強豪SM(スーパーマーケット)が存在する。さらには、生協、よこまちストア、カブセンターといったスーパーマーケットも割拠し、さながらスーパー激戦区の様相を呈している。

その中にあって、ヤマヨ十和田店は一店舗のみにもかかわらず、商品のリーズナブルさと品質、そして唯一無二のポップを武器に、二店舗目の展開を視野に入れるまでに成長している。ローカルスーパーが生き残るには――。大胆なアイデアで活路を見出す、その背景を新藤さんに聞いた。

ヤマヨ十和田店の外観
ヤマヨ十和田店の外観

隣県のスーパーから学ぶ

かつてヤマヨは、青森県内に5店舗ほど存在していたという。

「当店は今は亡き私の父、新藤光夫が始める前は、別の者が数店舗ほど経営を行っていました。一度経営がうまくいかなくなったところ、私の父が代表となり、平成19年に十和田店のみを経営する形で、新たに開業した店となります」(新藤さん、以下同)

ヤマヨという店舗名はそのままに、立て直しを決意した先代・光夫さんは、 当時、水産物のバイヤーとして辣腕を振るっていた。「どのような思いで、スーパーをやろうと思ったのかは定かではありません」と新藤さんは前置きした上で、「当店は現在も水産に力を入れて営業をしていますので、あるいは当時から水産部門ならば、同業他社とすみ分けができると思い、参入したのかもしれません」と続ける。

青森県南部の内陸に位置する十和田エリアは、青果や精肉が集まりやすい反面、水産部門を不得意とする店が多かった。そこを強化すれば差別化ができ、目的来店につながるのではないか。今に続く、ヤマヨ十和田店の鮮魚の豊富さは、父・光夫さんから引き継がれたものだと話す。

先代の改革は、これだけではない。利用者は何を求めてスーパーに足を運ぶのかを学ぶため、東北地方にある他社のスーパーに体裁など構わずに助言を求めた。その一つに、激安スーパーとして知られる岩手県のとあるスーパーがあった。

「総菜やお弁当を安く提供するためのノウハウを教わったと聞きます。アドバイスを参考にしながら、生鮮部門に関しては良質なものを安価で……といっても、 精肉などはほぼ国産で、毎日銘柄和牛を販売しております。品質の高いものを求めるお客様もいらっしゃいますから、そういったニーズに応えられるような幅広いラインナップを提供する、ヤマヨ十和田店の基盤ができあがっていきました」

精肉にもこだわりが。それにしてもポップの破壊力たるや
精肉にもこだわりが。それにしてもポップの破壊力たるや

ヤマヨ十和田店に入店すると、大音量で流れるBGM「軍艦マーチ」が否応なしに耳に飛び込んでくる。実は、この「軍艦マーチ」。アドバイスを仰いだ岩手県の店でも繰り返し、店内に響き渡っている。おそらくは同店にインスパイアされたものだろう。

大手スーパーに対抗するため、生き残りをかけたローカルスーパー同士が共鳴する決起の調べ――だと思うと、無駄に胸が熱くなる。同行した地元民が「この曲が流れているとテンションが上がってしまい、いろいろ買いたくなる」と笑うように、さささいなことであってもアイデアの種は、大きな実を結ぶ。

激安ならぬ爆安、「赤字では?」の問いに店は

実際問題として、ヤマヨ十和田店は安い。とりわけ、弁当類は二度見してしまうほどのボリュームと爆安さだ。タイムセールが始まると100円台になるというから、どうかしている。

さすがに、「赤字では?」と聞くと、「やろうと思えばどこでもやれると思うんですよ」とさらりと答える。もう笑うしかない。

「他のスーパーだったら違うかもしれませんが、我々のお弁当・お惣菜は各部門の中では粗利がいいほうです。水産、青果、精肉、各部門のバイヤーが、県内を中心に質の高いものを安く仕入れるノウハウがあります。お弁当・お惣菜は、製品ではなく手作りなので、工夫次第で利益を創出することができます」

なんでも同店では、毎日600~1000個ほどのお弁当・お惣菜を作っているといい、ほぼ100%売り切っているという。廃棄率はゼロに近いと胸を張る。

「売れ行きが良くないと感じたときは、15時くらいからタイムセールをするときもあります。先のお弁当は半額になると125円になります。廃棄はいやなんですよね」

見る者を魅了する弁当・総菜の数々。安さだけでなく、ボリュームもすさまじい
見る者を魅了する弁当・総菜の数々。安さだけでなく、ボリュームもすさまじい

大手との厳しい競争も

一方で、ローカルスーパーには弱点とも宿命ともいえる架せられた十字架がある。コネクションやアイデア次第で良質なものを安価で提供することができる生鮮部門とは違い、一般食品、グロサリーと呼ばれる部門を低価格で提供することが難しいのだ。

チェーン展開をする大手は、商品の仕入を本社が一括で行う。そのため、同じ商品であっても仕入れる商品数が増えれば、メーカーや卸業者との価格交渉を有利に進めることができる。100個仕入れるよりも、1000個仕入れる方が割安となり、その分、店舗でも安く売ることが可能になる。新藤さんも「大手には太刀打ちできません」と否定しない。

総合スーパーや大手スーパーが資本力を武器に拡大の一途をたどる中で、吹けば飛ぶような地場の商店は次々と消滅していった。

「父は、『失敗したら船に乗ってでも稼ぐ』というようなことを言っていました。覚悟をもってこのお店を立ち上げた事情を知っていたので、そこまで覚悟があるのであれば付き合うしかないなと思いました」

父親の跡継ぎ、JAを退職

それまで新藤さんはJA の職員として働いていた。だが、父の店を守るため離職を決断。どうすれば生き残ることができるか。今から約7年ほど前、ヤマヨ十和田店の専務として知恵を絞るようになった。

「当初は、収益を度外視してグロサリーの値段を抑えて販売してみたのですが、時折、メーカーより他社様から販売停止するよう求められるといったことも珍しくありませんでした。そのため、近隣に合わせた値段を打ち出すしかないという現状が続きました」

密告にも似た他店からの忠告。足並みを揃えずに一店舗だけ低価格で提供するのはやめてほしい――、そういった趣旨がメーカーより届いたという。

「輪をかけて、ネットで購入できる時代です。また、どこのお店も同じような大手メーカーの商品であふれています。だったら我々は、お客様が買い物を楽しんでもらえる店を目指そうということになりました」

現状打開から生まれたポップ

専務として就任して1年ほど経った頃、「なんとか打開したい」という思いと、「来店して楽しめるようなスーパーにしたい」という志から生まれた、小さなアイデア。それがポップ作りだった。

「最初は珍しい地元の物や、地方のお土産屋でしか売っていないような変り種を遊びで販売してみようと。しかし、そのまま置いても、ただ高いだけの商品です。それならば商品の説明や、こんな商品をなぜ仕入ようと思ったのかを書いてみたらいいのではないかと。遊びなのだから、好きにポップを作っても良いのではないかと思ったんですね」

Come Again 発音が良いほど「かまあげ」っぽくなる

一見、ふざけているようにも見えるヤマヨ十和田店のポップは、真摯に課題と向き合ったからこその賜物だった。2013年(平成25年)の売上高は25億円。すでに水産物で高い数字を出していたが、ポップや他の生鮮に力を入れた結果、2015年の売上は27億円に、2017年は28億円、そして2019年には29億円にまで伸長した。

「大きくなればなるほどやれないようなことをやれれば」、そう新藤さんは語る。中には、メーカーや問屋から、「ヤマヨ十和田店さんだったら、こういうユニークな商品を取り扱ってくれるのではないか」というオファーもあるという。

「正直なところ、確実に売れないだろうなという商品もあります(苦笑)。ですが、やってみましょうという姿勢を大事にしたい」

また、大手スーパーは返品が可能なため、大手の尻拭いをするではないが、余った在庫を問屋を介して、小さなスーパーが引き取るというケースも珍しくないという。

「問屋が困ってしまうので、我々としても助けたいところがあります。持ちつ持たれつですから。とは言え、在庫が余ってしまう失敗もたくさんあります。その場合は、『失敗しました』という気持ちを包み隠さずポップで説明し、安価で売り切るしかありません」

大手の割を食いやすいグロサリー部門を、どのようにしてさばくか。この点がローカルスーパーにとって死活問題となる。しかし、ヤマヨ十和田店はポップというレバレッジを駆使することで、弱点すらも強みに変えてチャレンジをし続けた。その結果、来店した人を妙に虜にしてしまう同店にしかないオリジナリティーが生まれた。

「社員だけでなく、アルバイト、パートの方、興味がある人は直接私に、『こういうポップはどうでしょう?』と相談しにきてくれます。利用者が気分を悪くしないようなポップであれば大丈夫ではないかと。何かあれば、私が頭を下げればいいですから」

ポップはエッジの効いたユニークなものばかりではない。青果コーナーに掲げられている内容は、各野菜の栄養価や食べ方の指南などが書かれている。「へぇ~なるほど」と唸ってしまうようなトリビアもある。

買い物の楽しさを再確認

昔は当たり前にあった商店街の青果店や鮮魚店。買い物をすると、お店の人が「この部分は〇〇にすると美味しいよ」なんて教えてくれて、何だか得した気分になったことを思い出す。買い物とは本来、こういった楽しさが存在していたことを、ヤマヨ十和田店は思い出させてくれる。

「小さいからこそできることがあります。即断即決や小回りが効くといったことは、大手には真似できないと思います。その強みを活かして、これからも地域から信頼されるスーパーでありたいです」

今では、ポップを目当てに県外から訪れる人も珍しくないという。スマホを取り出し、写真を撮る人もいるほどだ。小さなアイデアが、今では大きな話題になった。ローカルスーパーから学ぶことは多い。

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