連載
#2 #コミュ力社会がしんどい
「あんた、自分のことばっかね」人間関係に悩む私に刺さった母の言葉
葛藤の末に知った「小さな気遣い」の価値
漫画家・ゆめのさん(ツイッター・@yumenonohibi)は、他人と上手に関われないことに、長年悩んできました。うまく交流するための努力を続けてきたものの、なぜか実を結ばないのです。いったい、どうしてーー。いつしか抱いた疑問に、明確な答えを与えてくれたのは、母の衝撃的な一言だったといいます。いわゆる「コミュ障」当事者としての体験について、漫画化してもらいました。
ゆめのさんは幼い頃から、コミュニケーションが不得手です。何とか改善したくて、人付き合いの指南書を読んだり、ネット上で役立ちそうな情報を探したりと、必死にもがいてきました。
しかし、いざ周囲の人々を前にすると、うまく話せません。日々、うっぷんがたまるばかりです。ゆめのさんは、母親と外食中、こんな愚痴をもらしました。
「わたしだって いろいろ考えて努力してるんだ!」「だけど気質の部分は、どうしても変わらない……」
もんもんとした思いを吐き出す彼女を見て、母親は淡々と、こんな風に返したのです。
「あんたって、いつも自分のことばっか考えてるわね」
つい押し黙ってしまう、ゆめのさん。母親と別れ、家までの道を歩きつつ、「そういやそうだな」と一人納得しました。
誰かと関わるとき、ゆめのさんの頭の中では、色々な感情が錯綜(さくそう)しています。変なことを言っていないか、不安だし緊張する……。でもそれは、会話の相手に対する配慮ではなく、自分の見え方を気にする思いから生じたものです。
当然、目の前にいる人には、関心が向きません。その結果、お互いへの理解を深め、通じ合えないまま離れることを繰り返してきたのでした。
「こんなんだから、うまい人間関係を築けないのか……」。ゆめのさんは落ち込みながら、ふと、一人の女性のことを思い出します。
いつもニコニコと楽しそうで、周りの雰囲気まで良くする存在。誕生日はもちろん、何の記念日でもないときにまで、プレゼントをくれるような人でした。
ある日、振る舞いの理由について尋ねると、彼女は答えました。「私も、他の人にもらってうれしかったから」
そんな小さな気遣いなど、きっとできないと、ゆめのさんは悩みます。「渡すタイミングがわからない」「おせっかいに思われるかも」。そうやって、また自分本位に考えて、行動も起こせないと考えるからです。
しかし同時に、自らの気持ちで頭の中をいっぱいにするより、相手を思って行動することの大切さにも思い至ります。
そして、その姿勢こそが、あらゆるコミュニケーションの極意であると気付くのでした。
自らの状況について、率直に描いたゆめのさん。他人と話すときは、いつも強い不安感や緊張感を覚えているそうです。その結果、相手の話や心情に、思いをはせる余裕がなくなってしまうといいます。
「自分の趣味の話や、好みの話には関心を持てます。一方で、その範囲は普通の人よりは狭い。枠から外れるような性格の人や、話題に対しては、ネガティブな感情が強く働き、会話自体が苦痛になってしまいます」
「そのことが相手にも伝わるから、人間関係が長続きしないのかもしれません」
一方、漫画に登場する知人女性は、ゆめのさんとは対照的でした。誰かの記念日に贈り物や手紙を渡すなど、ごく当たり前に、他者を思いやる習慣が身についていたそうです。そのお陰で、一緒にいて心安らげ、楽しいと感じられました。
自分を守ることばかりにとらわれて、相手を見ずにいると、人間関係をつくる機会を逃してしまう……。彼女の態度について思い出すと、そのことをつくづく痛感するのだと、ゆめのさんは話しました。
「コミュ障の人間には、誰かに贈り物をするというのも、緊張と不安にさいなまれる大変なことです。実際、相手から、いいように思われない場合もあるかもしれません。そのときのことを考えると、行動を起こすのをためらってしまいます」
「でも、知人に何かをしてもらえたときのうれしさや、感謝の気持ちは忘れないようにしたい。そしていつか、彼女のような行為が自然に出来たらいいな、と思うのです」
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