連載
#72 コミチ漫画コラボ
「専業主婦は、いつも家にいるんだから…」我慢の限界が思わぬ結果に
「家の仕事」を完全に休めるのは、いつ――?

子どもと夫のため、食事や洗濯・掃除といった日々の家事や雑務に追われていた専業主婦が、急に眠りから覚めなくなって――。SNSでマンガを発信しているemixさんは、家の仕事で多忙だった母が〝冬眠〟するフィクションの作品を描きました。「家族の抱える大変さをお互いに理解しないと、いつか軋轢が生まれてしまう。それに気づいてもらうきっかけになったら」と振り返ります。
「お前はいつも家にいるんだから」
主人公は39歳の誕生日を迎えた専業主婦の冬子。思春期の娘は反抗期まっただ中で、下の息子もまだまだ手がかかります。コミュニケーションがとりづらい娘のことを夫に相談しても、「お前はいつも家にいるんだから」と言われてしまいます。その翌朝、冬子が眠りから覚めなくなって……。
私は一人息子と夫の3人家族ですが、数年前のお正月にふと「煮炊きしないように『おせち』があるというけれど、洗濯だって片付けだってしなければいけない。じゃあ母親が『お母さんの仕事』を完全に休めるのっていつなんだろう?」って考えたんです。


根強く残るステレオタイプな家族観
――これまで母に任せきりだった家事を、残された夫や子ども2人がやろうと思っても、なかなかうまくいかない姿が描かれます。
母の日に「ありがとう」くらいは言うかもしれませんが、実際にやってみないと大変さって分かりませんよね。
そしてお母さんが一生懸命やっていることが「当たり前」になってしまうと、それにいつも感謝を示して行動するのは難しいです。

幸い自分の夫はマンガに登場する夫とは正反対ですが、ラジオや記事の人生相談を聞いたり読んだりしても、まだまだステレオタイプな家族観は根強く残っていると感じてキャラクターに設定しました。
好きで結婚したはずなのに
自分がいなくても家族の生活が回るなら、自分がいなくてもいいのかな?と思ってしまいますよね。「しんどい現実の生活」に戻っていきたいと思わせるものは何だろう?と考えました。

最初は夫と妻がお互いに好き合って結婚したはず。
けれど、仕事や家事に忙殺されて、相手のいやなところしか見えなくなったり、なぜ家族のために頑張っているのか分からなくなったり――。
目の前のことを必死でやって生活しているから、最初に思っていたことって忘れちゃうんですよね。当時の気持ちを思い出せば、目が覚めるんじゃないかと考えました。
家事だって仕事なのに……
――マンガでは、「家の仕事」を理解しない夫に対して、冬子が「どうせ家の中のことはママゴトだと思ってるんでしょ」と感じているモノローグが印象的でした。
そういう考えの人ってまだいると思うんです。
子どもの学校のPTAでも、あるお母さんが自虐的に「自分は働いていないから……」と言って役員を引き受けようとしていました。

外で働いていないからって暇だとは限りませんし、家事だって仕事ですよね。もちろん役員をやりたいならやればいいと思いますが、誰かのことを引き合いに出さなくてもいいのにと感じました。
「家事や子育てを当たり前にやるのが母親の無償の愛」なんて言われてしまうと、それは違うんじゃないかと思います。
人生折り返し「やりたいことをやろう」
子どもが中学生になったこともあって、子どものことだけではなく自分のやりたいことをしっかりやろうと考えて、家事を片付けたあと子どもが帰ってくるまではずっとマンガを描いています。
いい塩梅で家事の手を抜いているのもありますが、集中して家事に取り組む時間を決めています。
中学生の息子の部屋は自分でそうじしてもらいますし、洗濯物もたたまず渡しています。息子だっていつか一人暮らししたら自分でやらなきゃいけないことです。

小さな頃から絵を描くのが好きで、短大の頃はマンガの投稿もしていました。同人誌即売会に向けて描いていたこともありましたが、アニメ会社に就職したり、子どもが生まれて仕事を辞めたりして、描けない期間もありました。
でも、40歳になった時に「人生折り返しだな」と気づきました。これまで学校の集まりなど頼まれたことは全てやってきましたが、「自分のやりたいことを後悔のないようにやろう」と思うようになりました。
コロナの感染拡大で、それまで勤めていた週3回のアルバイトを辞めて、自宅でマンガを描いています。収入が減ってしまう不安はありましたが、何とかやりくりすれば問題ないかな、と考えています。
「それぞれが成長した日常」に戻る
当たり前にやっていることが、実はすごい大変なんですよね。それを分かったうえで、アップグレードした日常にまた戻るということが大切なのかなと思います。

「すれ違い」を向き合い直すチャンスに
今回は専業主婦の家庭を舞台にしましたが、共働きの家族でも人間関係の問題ってあると思うんです。
お互いの立場や環境が違えば、分かり合えないないこともあるし、軋轢も生まれます。
ちゃんと話し合ったり、相手の考えていることを理解する努力をしたり、そういう気持ちがないと、どんな家族であってもすれ違ってしまう。
「相手が分かってくれない」と言い合うのではなく、「もしかしたら相手のことを理解できていないのかも?」と考えてみて、すれ違いを相手と向き合い直すチャンスだと思えれば、きっといい方向にいくんでしょうね。

読んだあとにちょっと気持ちが変わったり、何かを考えるきっかけになったり……そんなマンガをこれからも描いていきたいなと思っています。