お金と仕事
手芸・アクセサリー…ハンドメイドマーケットの実態、平均売り上げ
「メンテナンスをするまでが仕事です」過去に現れた〝怪物作家〟
コロナ前、休日にショッピングセンターや駅前などでよく見かけたのがハンドメイドマーケットです。手作りのアクセサリーや小物などを売る風景はちょっとしたイベント感があって、思わず立ち寄ってしまう存在でした。コロナによって人が集まることが難しくなった今、ハンドメイドマーケットはどうなっているのでしょうか? そもそもの成り立ちから、成功する作家に共通すること……ハンドメイドマーケットの運営会社に、知られざる常識をうかがいました。(ライター・安倍季実子)
話をうかがったのはハンドメイドマーケットの企画や、運営を支援する「KTP PROJECT」の川井田真さんです。
――ハンドメイドマーケットはいつからあるのでしょうか?
「ハンドメイドマーケットはフリーマーケットから派生したものです。かつては、フリーマーケットにハンドメイドのお店が混じっていたのですが、80~90年代にアメリカンカントリーが流行したおかげでハンドメイド人気が加速していき、徐々にフリーマーケットと分離していきました。そして、1994年にデザイン・フェスタがスタートしたことで、ハンドメイドマーケットが定着しました」
――KTPさんができたのは最近ですよね?
「出来立てホヤホヤです(笑)。『KTP PROJECT』の代表は20年ほどリサイクルショップを経営するかたわらで露店商もしていました。フリーマーケットに参加しだしたのは、ここ2~3年の話です。そこで出会った仲間で立ち上げたのがKTP PROJECTです。自分たちがフリーマーケットに参加する中で感じた不満や問題点をクリアにした理想のイベント会社をつくろうというのがきっかけになりました」
――ハンドメイドマーケットには、どんな方が出店していますか?
「9:1で女性が多いですね。副業としてやられている主婦が中心ですが、中には本業の方もいます。作家さんの年齢は10代~50代と幅広いのですが、一番多いのは30~40代です。弊社のマーケットに出店するには、独自に用意したグループへ会員登録してもらう必要があるのですが、誰でもできるわけではありません。ラゾーナ川崎プラザなどの大手ショッピングセンターでの出店となると、やはり信頼関係が大切になるので、まずは別のマーケットに参加していただいた上で、一緒に楽しく・真剣に取り組んでいただける方だとわかったら会員登録となります」
――会員登録までの道のりは、意外と長いんですね。
「はい。というのも、弊社のグループにはすでに独自のカラーがあって、それに合った方と一緒に取り組みたいという考えがあるんです。元々、自分たちも出店する側だったので、お節介したくなるというのがあって……。例えば、目標売り上げを設定するようにお願いしたり、ディスプレイやポップの出し方についても色々アドバイスしたりします。なので、それをよしとしてくれる人に会員登録をしていただいているという感じです」
「もうひとつ口を酸っぱくして言っているのが、『作品は作って終わりではない。お客さんに買ってもらい、使っている最中も面倒をみないといけない』ということです。ハンドメイドマーケットに出店するということは、自分のお店を持つということ。言い方を変えれば、個人事業主と同じということです。店主としての自覚を持っていただき、それに応えられるように、私たちは出店できる場所を探したり、イベントを開催したりしています」
――責任感を持つと、やはり売り上げも変わりますか?
「個人差はありますが、けっこう変わりますね。作家さんの中には職人気質で接客が苦手という方もいるんですが、私たちやまわりの作家さんのアドバイスを実行して、徐々に売り上げを上げている方が何人もいます」
「今はコロナの影響で全体的に下がりましたが、ラゾーナ川崎プラザの場合は、月の売り上げは平均で4万5千円位(ブース代を抜いて)です。天然石などの高単価なものになると15万以上を売り上げる方もいます。出店する回数は、副業や趣味でされている方は月に4~5回、本業の方は8~10回くらいが平均です」
――今の売れ筋シリーズやトレンドはありますか?
「今は布小物が安定して売れている印象ですね。言い方が悪いかもしれませんが、少し前はコロナバブルで手作りマスクがものすごく売れていました。その波を受けて、新しく手作りマスクを売り出す方もいましたし、中には1日に200~300枚を売る方もいました。不織布マスクがいいとなってからは需要が下がりましたが、一時期は本当にすごくて、『昨年のマスク不足を補ったのはハンドメイドマーケットの手作りマスクだ』と言っても過言ではないと思っています」
――過去にもマスクのようなブームはあったんでしょうか?
「特にこれといった大きなブームはないのですが、たまに驚くような怪物作家さんが現れることがあります。世界観が確立されていて、それを作品に落とし込める方です。印象に残っているのは似顔絵師ですね。その場でクオリティーの高いお客さんの似顔絵をサラサラ描くんです。作品を売るだけでなく、その場で作品を作るというエンターテインメント性もあったんだと思います。すごい人気だったんですが、神出鬼没でいつ現れるかわからない方でした(笑)」
「アクセサリー類は、リピーターを掴んで売り上げを伸ばすことがセオリーなので、怪物作家が出てきにくいジャンルです。でも、同じようなものを売っていても、接客の上手な人やアフターケア、顧客管理がしっかりできている人は大きな売り上げを出しています」
――具体的にはどんなことをされているのでしょうか?
「今でいうなら、インスタグラムですね。SNSに自分の作品や出店予定をアップするのは当たり前です。また、お客さんの中にはインスタグラムをやっていない年配の方もいるんで、そういった人にはハガキを出す作家さんもいます。作品を作ることも大切ですが、売る努力も大切です」
「さらに、リピーターが増えれば、新しい作品を作らないといけないというプレッシャーもあります。そういったことも踏まえて、同じ場所のマーケットに立ち続けるのは、すごく大変なことなんです」
「また、コロナによって、みなさんのお買い物事情や優先順位も変わってきたと思います。その上位に食い込めるように、ハンドメイドマーケットの主催者にも出店者にも、より一層の努力が必要になってきたと感じています。私たちができることと言えば、『無事にイベントを開催させること』です。ハンドメイドマーケットは天候に左右されやすいので、雨風を防げるように大きなビニールや風よけなどの準備を徹底しています」
――外出自粛はどのように受け止めていますか?
「先々のことを色々と考えましたね。社会情勢について考えると、私たちの仕事は矛盾していると思います。人が集まるようなイベントは控えた方がいいとわかってはいるけれど、ハンドメイドマーケットで生計を立てている作家さんがいるのも事実です」
――出店者にも何か変化はありましたか?
「イベントがなくなって張り合いがないということで、作品作りの手が止まる方が多かったようです。その一方で、アルバイトを削られた学生、派遣切りにあった女性やパートの方などが、ハンドメイドを始めてイベントに出店するケースが一気に増えました。面白いところだと、握手会ができなくなったアイドルがアクセサリーなどを作ってイベントに出店してファンを呼ぶということも。色々な意味でハンドメイドマーケットはブームになっていたんです(笑)」
――不安な中でも出店をされていたんですね。
「ラゾーナ川崎プラザさんでは1月に長期イベントを企画していただいたのですが、まさに2度目の外出自粛が出るかどうかというタイミングで……。状況的に不安だったんですが、感染対策を万全に行うことで開催できました」
「開催決定を常連の作家さんたちに伝えたら、ある方が『本当によかった』と言って涙を流されたんです。それを見て、ハンドメイドマーケットを終らせてはいけないなと。これまで以上に色々なことに気を配って、お客さん・作家さん・場所を貸してくださっている企業さん、みんなが安心して楽しめるイベントを心がけようと決意しました」
――ハンドメイドマーケットに出店するときに、気を付けることはありますか?
「当たり前のことなのですが、フリーマーケットとハンドメイドマーケットは全く性質が違うものです。使わなくなった中古品を売るのがフリーマーケットで、一から手作りしたものを売るのがハンドメイドマーケットだという違いを理解していただく必要があります。 その上で、出店者をまとめる会社や団体によって、参加規約や出店規約が違うことも知っていただきたいですね 」
「たとえば、著作権に当たるキャラクターが描かれた布やボタンなどを作品に使っていることがわかったら、その日の出店をお断りしています。このルールがすべてのハンドメイドマーケットで共通しているとは限らないので、何がOKで何がNGなのかは、事前に確認しておくといいでしょう。」
――では、買うときに気を付けたいことはありますか?
「まずは、『見たら、絶対に購入しないといけない』という考えを捨てていただくことですね。それよりも、作家さんとコミュニケーションをとることを意識してみてください。何を使って作られた作品なのか、どんなときに使えそうか。また、作家さん自身の人柄を知った上で購入することで、より価値のあるお買い物になると思います」
「あと、ショップカードが置いてあるお店は、SNSを通じてアフターフォローをしてもらえるので安心です。インスタグラムをフォローしたら、次の出店日時や新作情報もわかります。『近くでやるなら顔を出してみようか』とアレコレ考えるのも、ハンドメイドマーケットの楽しみのひとつです」
「そうやって、お客様の何気ない日常に少しの楽しみを添えられるよう、安全で楽しいハンドメイドマーケットを開催していこうと思います」
駅前などで開催していると、ついつい「寄り道」してしまうハンドメイドマーケット。簡単に出店できて、すぐにお金になるというイメージを持っていましたが、その裏には作家さんや運営側の見えない努力がありました。
「出店しても、売り上げが少なければ意味がありません。準備や営業に後片付けなどで一日中働いてクタクタになっても、満足できる売り上げが立っていたら、どの作家さんも笑顔で帰っていくんです」
これは、出店したことがあるからこそわかる、出店者側の心理なのでしょう。そのためには、作品を売る努力、購入してもらった作品のアフターフォロー、新作の考案、SNSでの告知など、店舗を持つお店と変わらない努力が必要です。
ハンドメイドマーケットを知れば知るほど、これが「寄り道」ではなく、ショッピングセンターなどと同じ「買い物」なのだとあらためて思いました。
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