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連載

#2 ゴールキーパーは知っている

口コミで人気、ゴールキーパーグローブの正体 売ってるのは塾経営者

ネットで広がる「キーパーの楽しさ伝えたい」

第99回全国高校サッカー選手権の決勝、優勝した山梨学院のGK熊倉選手の手は黒いRGのグローブの中にあった=2021年1月11日、さいたま市の埼玉スタジアム2002、加藤諒撮影
第99回全国高校サッカー選手権の決勝、優勝した山梨学院のGK熊倉選手の手は黒いRGのグローブの中にあった=2021年1月11日、さいたま市の埼玉スタジアム2002、加藤諒撮影
出典: 朝日新聞

目次

サッカーのゴールキーパーに欠かせない道具が、ゴールキーパーグローブだ。近年はナイキやアディダスのような大手から、キーパーグローブのみを手がける会社まで、大小様々なメーカーが林立する。2016年に日本に上陸した「RG Goalkeeper Gloves Japan」も、グローブのみを扱うメーカーの一つだ。店頭ではなくAmazonを中心とした販売スタイルや、SNSやYouTubeを使った広告展開で、若い世代を中心に着実に支持を広げてきた。手がけるのは学習塾の経営者という異色の2人。きっかけは、一通の「怪しいメール」だった。(朝日新聞映像記者・関田航)

キーパーグローブというニッチな市場

ゴールキーパーにとってキーパーグローブはなくてはならない存在だ。

手のひら部分(パーム)はプニプニと柔らかく、同時にボールに吸い付くグリップ力がある。選手によって、着用したときのフィット感やサイズなどにこだわりが出てくる。

価格はさまざまだが、プロが使うようなものは素材が高級で、1万円以上するものもある。

メーカーは海外の大手スポーツメーカーから、キーパーグローブだけを扱うメーカーまでさまざまだ。

そんなキーパーグローブの中で近年、急激に日本のゴールキーパーたちに認知を深め、勢いを伸ばし続けているのが「RG」。本社をキプロスに構える国際的なメーカーだ。

この「RG」の販売を手がけるのが、福岡市の廣野立樹さん(38)と木島隆一郎さん(38)だ。

廣野さんは「(世界の)トップオブトップはあまりいないけど、(使用する選手は)ちょこちょこいる」と控えめだが、アルゼンチン代表経験もあるマリアーノ・アンドゥハル選手も愛用する。日本国内でも、全くのゼロから始まったが、今では大分トリニータの高木駿選手、モンテディオ山形の藤嶋栄介選手など、10人以上のJリーガーが愛用している。

廣野さんと木島さんは、福岡市内で、小中学生向けの学習塾を経営している。廣野さんは高校時代は野球部でピッチャーだった。大学で電気工学を専攻し、大学院修了後に起業。宅配クリーニングの事業をしていた。

木島さんは、大学の教育学部を卒業し一般企業に就職したが、脱サラ。共通の知人を介して知り合い、8年前に学習塾を立ち上げた。ただ勉強をするだけではなく「生きる力を身につけられる教育を」と、子どもたちと向き合う日々を送っている。廣野さんは「まさか自分がサッカーに関わる日が来るなんて、夢にも思わなかった」と笑う。

2人がサッカーの、しかもゴールキーパーグローブの販売という、かなり狭い世界の仕事を始めるようになったきっかけは、突然訪れた。

第99回全国高校サッカー選手権では、多くの選手がRGのグローブを装着しプレーした
第99回全国高校サッカー選手権では、多くの選手がRGのグローブを装着しプレーした
出典: 朝日新聞

きっかけは謎のメール「よく返信しましたよね」

サッカー経験者で、ゴールキーパーだった木島さんは、学習塾とは別に佐賀県でゴールキーパースクールを運営する。

ある日、Facebookで一通のメールが届いた。そこには「hello」「good morning sir」「do you speak english?」と記されていた。なんだろう、と不審に思ったが、やりとりを続けるうちに、海外のGKグローブメーカーが、日本での販売元を探しているという内容だと分かった。

「よく返信しましたよね」と廣野さんは笑う。

学習塾をともに運営する末住加奈さん(37)に通訳してもらいながら、サンプルを送ってもらおうとすると、逆に購入を求められた。

「だいたいの人はここで心折れるでしょうね」

だが、手もとに届いたグローブを木島さんが装着した瞬間、「これは日本で売れる」と確信。日本人が好む手にフィットするタイトな作りと、キャッチした瞬間に指がずれるのを防ぐ機構が新しく、今まで使用したどのグローブよりもいいと感じたという。

メールの送り主は、本社のあるキプロスでブランドを立ち上げたラミロ・ゴンザレス氏だった。廣野さんと木島さんは、RGのグローブを日本で販売することを決めた。

はじめはスポーツ用品の店舗に営業の電話をかけたが取り合ってもらえず、どうしようかと思っていたときに、Amazonの販売代行サービスを知った。営業にかかるコストや時間を節約し、全国どこからでも手に入れることが出来ることが可能となった。

販売開始前から、SNSで告知していたこともあり、2016年末に販売を開始すると、すぐにいくつか売れたという。廣野さんは「売れるんや……」と驚いたという。

ネット販売は試着が出来ないデメリットがあるが、その分、サイズや着用感などに関する問い合わせにはいち早く答えるようにしているという。

「ユーザーから一番近い位置にいる(メーカー)というのはゆずれない」と廣野さんは話す。いつでも、出来るだけ早くお客さんの疑問に答えるようにしており、高校生と夜中に「LINEのやりとり状態」になることもあるという。SNSでも、RGのグローブに関する投稿にはすばやく反応する。ユーザーは、メーカーが近くにいるという心強さを実感できる。

「RG Goalkeeper Gloves Japan」の廣野立樹さん(右)と木島隆一郎さん
「RG Goalkeeper Gloves Japan」の廣野立樹さん(右)と木島隆一郎さん
出典: 朝日新聞

口コミやネットで広がる評判

ほぼネット上のみの販売(現在は埼玉県の一部のスポーツ用品店がRGの商品を扱っている)だが、口コミやネット上の評判で、確実に評価を上げてきた。毎年冬に開催される全国高校サッカー選手権では、2年連続で優勝校のゴールキーパーがRGを使っていた。

今年度大会は、出場48校のうち、13校のゴールキーパーがRGを使用。昨年度はベスト4に進出した4校中、静岡学園と帝京長岡のゴールキーパーがRGを使っていて、急きょ、会場の埼玉スタジアム2002に観戦に行ったという。

「現場で見て震えました」と廣野さんは振り返る。

一方で、小さいメーカーならではの悩みもある。RGの契約選手でも、所属するクラブのユニホームなどを手がけるメーカーとの兼ね合いで、所属チームのユニホームを着ている写真を宣材写真に使用できないケースもあったという。

そういった場合は仕方なく、自宅で私服にキーパーグローブを着用した写真を送ってもらい、自社のホームページに掲載した。

「大手さんとは戦えない部分多々ありますね。日本代表の選手がつけるのも、まだハードルが高いし」。だが、着実に広がってきていると実感している。

木島さんは「ゴールキーパーは楽しいっていうことを広げていきたい。そしてグローブをつけたときの喜びも、より多くの人に感じてもらえたらうれしい」と話す。

いつか、自社のキーパーグローブを持って、キーパースクールを開きながら全国行脚するのが夢だという。「ユーザーと会っていきたいね」と廣野さん。持ち前の行動力とユーザーファーストの姿勢で、これからも日本のゴールキーパー界に風を起こし続けていくつもりだ。

第99回全国高校サッカー選手権の準決勝で、ともにRGのグローブを装着し対決した山梨学院のGK熊倉選手と帝京長岡のGK佐藤選手=2021年1月9日、さいたま市の埼玉スタジアム2002、加藤諒撮影
第99回全国高校サッカー選手権の準決勝で、ともにRGのグローブを装着し対決した山梨学院のGK熊倉選手と帝京長岡のGK佐藤選手=2021年1月9日、さいたま市の埼玉スタジアム2002、加藤諒撮影
出典: 朝日新聞

キーパーの楽しさ伝えたい――取材を終えて

小学校2年生から大学4年までゴールキーパー一筋だった筆者にとって、グローブは相棒のような存在だった。

他のポジションに比べて立ち位置が違うのは、道具においても同じだ。他のポジションの選手は絶対に持っていないのがキーパーグローブ。素人がセービングをするとパームの素材がやぶけるから、貸してと言われても貸さない。チームで数人しか持っていない職人の道具。それがキーパーグローブだ。

筆者が初めて買ってもらったグローブはウールシュポルトの赤いパームが特徴のもの。発足してまだ間もなかったJリーグのゴールキーパーも使っていて、店で見つけて、親にねだりまくったのを覚えている。

思い出深いのは、高校時代に使っていたプーマの3千円ほどの安いグローブ。インターハイ予選の前に買った。安さがたたってか、激しく指を負傷したが、治療に苦労した苦い思い出とともに、あのペラペラの感触を思い出す。

「RG」をつけてみた。手が包み込まれてフィット感が心地よく、どんなボールもキャッチできるのではないかという高揚感がわいてきた。

「ゴールキーパーの楽しさを伝えたい」

そんな作り手の思いが、草の根の人気につながっているのだろう。キーパーの奥深さをあらためて教えてもらった気がした。

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