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できないことを頼む、みんな同じ 車いすモデルの考えるバリアフリー

「だからこそ、『これをしてほしい』『これができない』と発信する必要もある」

車いすユーザーのモデル、葦原海(あしはら・みゅう)さん=本人提供
車いすユーザーのモデル、葦原海(あしはら・みゅう)さん=本人提供

目次

車いすで出かけた際、無人駅で不便な思いをしたと訴えた車いすユーザーのブログが話題になりました。「車いすでの移動」について、他の車いすユーザーはどのような経験をしてきたのでしょうか。車いすユーザーの日常をTikTokでも発信し、「公共交通機関はほぼ毎日使っている」という車いすユーザーでモデルの葦原海(あしはら・みゅう、23)さんは、「心のバリアフリーが大切」と語ってくれました。

乗車前の30分のやりとり「当たり前」

16歳のときに事故で両足をなくし、19歳ごろからはモデルとして活躍をしているみゅうさんは、ファッションショーでのモデルをしつつ、学校での講演や観光地や宿泊先のバリアフリーアドバイザーなどをしています。

全国を飛び回りながらの仕事のため、電車をメインに新幹線や飛行機など日常的に公共交通機関を使っているみゅうさん。「コロナのため、いまは減っていますが、前なら基本ほぼ毎日利用していました」
日常的に使う駅などはありますが、利用するのが初めての駅にあたることもよくあります。

初めての駅にエレベーターがあるかどうかは、乗車駅での駅員とのやりとりの中で知ることも多く、その場合はエレベーターがある駅を経由して目的地の最寄りまでのルートを探すことも。

「エレベーターがないと想像以上に時間がかかることもあって、仕事先に『こういう事情で遅くなります』と伝える時もあります」

「そもそも、電車に乗る前に降りる駅を伝えるときなどに20~30分かかるのは当たり前。行き先が大きい駅だと、駅員さんが他の業務で忙しく『電話がつながらないからまだ乗せられない』と何分も待たされることもあります。そういうやりとりを毎日のようにしていると、それがストレスとは思いません。でも、仕事が詰まっていて急いでいるときは、『えっ』てなることもありますね」

講演する葦原海さん=本人提供
講演する葦原海さん=本人提供

「全部が全部、一人で移動できる…当たり前と思わない」

みゅうさんは、エレベーターを全駅で設置という状況にはなっていない日本の状況のことはどう思っているのでしょうか?
「(エレベーターを使って)全部が全部、障害者一人で移動できるようになるのが当たり前とは思っていない」とキッパリ。

「少数派のためにどれだけお金使わないといけないんだろうと考えることがあります。言い換えると、環境のバリアフリーがすすむのが一番いいかというと、どうなんだろうかということです」

観光地のバリアフリーアドバイザーとしての仕事もしているみゅうさん。考え方の根本に「観光地やホテルのテーマを一番大事にしたい」という思いがあります。それを損なわないようなバリアフリーを一緒に考えることを大切にしているといいます。

「たとえば、京都の歴史的な町並みを全部バリアフリーにすればいいのかっていうと、そうではないと思う。そのままの街並みを見たいという車いすユーザーもいるはずです」

ただ、それが意味するのは環境のバリアフリーが100%担保できないということでもあります。そこへの対応策は「心のバリアフリーを進めたらいいと思っています」。

葦原海さんの仕事風景=本人提供
葦原海さんの仕事風景=本人提供

エレベーターのない駅での出来事

みゅうさんは数年前、岡山で「心のバリアフリー」を感じる出来事に遭遇しました。

「当時、地方のエレベーターがない駅を利用するのは、これが初めて。対応を体験したいというのもあって、あえて一人で行きました」

新幹線で岡山駅に到着後、乗り換えた先の目的の駅にはエレベーターがなく、地上に降りるまでの経路も複雑でした。

岡山駅で駅員に目的駅を告げると、駅員はまず「何人かで持ち上げるかたちでいいですか?」と聞いてくれたといいます。みゅうさんは了承し、行き先駅に向かう電車に一人で乗り込みました。すると、目的駅の数駅前から、同じ車両に少しずつ駅員が乗ってくることに気付きました。

「最初、岡山駅から何人かが同乗して目的駅で手伝ってくれるのかと思っていたのですが、途中駅で少しずつ駅員さんたちが乗り込んできてくれる姿に『こうやって対応してくれるんだ!』と感動しました」

目的駅では駅員4人がみゅうさんの車いすを抱え、一人が荷物を運んでくれ、無事駅の外にでることができたそうです。
「別れるとき、『帰りは何日の何時ごろになりますか?』と聞いてくれて、帰りの際も待つことなくスムーズに乗車することができました」

「このときの対応はありがたかったです。駅や地域によって方法は違うと思いますが、エレベーターがついていなくても、対応方法さえきまっていれば、それで解決できるんだと感じた出来事でした」

駅のエレベーターの問題にひきつけて考えると、「エレベーターをつけるなら時間もお金もかかります。それをかけてでもやるべきという判断ならやったらいいと思いますが、(乗降客が少ない駅など)そうじゃない場合もある。そういう場合は、車いすユーザーに対応するための駅員のマニュアルさえあればいいと思います」。

「もちろん、自由に動ける権利は尊重すべきで、『車いすユーザーは苦労して当然』という考え方には賛成できません。だけど、『お金をかけて対応すべき』が当たり前かっていうと、そうではないんじゃないかと思うんです」

葦原海さん=本人提供
葦原海さん=本人提供

コミュニケーションコストがかかる毎日「面倒ではない」

ここまでみゅうさんの話を聞き、ふだん通勤の際は一人で黙々と移動する記者は、車いすでの移動には、かなりのコミュニケーションコストがかかるなと、正直感じました。
その気持ちを正直にみゅうさんに伝えてみました。「目的地を伝えたり、帰りの時間を事前に伝えたりする手間をできればなくしたいとか、面倒くさいとは思いませんか?」

するとみゅうさんからは「めんどくさくはないです。できないことをお願いするのは当たり前のことだと思います」と答えが返ってきました。

「健常者でも障害者でも、なにかできないことあればお願いします。例えば、買い物をするときに届かない場所に商品があったり、ショーケースに鍵がかかっていたら開けてもらうようにお願いしますよね。それと同じです」

「電車に乗るたびにお願いごとをしないといけないのは少数派だから、その少数派は『申し訳ない』という気持ちになると思うんですが、多数派でも少数派でも、それぞれできないことはお願いするわけで、その点は同じだと思うんです」

16歳のときに事故に遭うまで車いすとは無縁の生活をしていたみゅうさんは、「健常者のときは、障害者は何でもかんでもお願いしないとできないと思っていたし、それは不便だと思っていました。でも、車いすユーザーとなったいまは、それを申し訳ないと思ってしまっていたら自分のやりたいことや行きたいところに行けなくなってしまうと思っています」

「そこまで相手のことばかりを優先して自分が我慢するのは違うんじゃないかと思うようになったんです」

そこで鍵になってくるのが、コミュニケーション。

車いすを使う前は「障害者を助けない健常者は冷たい」という空気をどことなく感じていたというみゅうさんですが、いざ自分自身が障害者の側に立ったとき、「そもそも障害者に声をかけづらい気持ちもわかるし、見て見ぬふりになってしまうっていうのもわかるんです」
と理解を示します。

「だからこそ、障害者側が『これをしてほしい』『これができない』と発信する必要もあると思うし、こちらがお願いする前から、『迷惑になるんじゃないか』とか考えなくてもいいのかなっていまは思っています」

「手伝いをお願いしたときに、急いでいる人から『無理です』って言われても冷たいとは思わないし、逆にそういうときに『冷たい』と思ったり相手の状況を想像できないのはお願いする側に難があると思います」

葦原海さん=本人提供
葦原海さん=本人提供

TikTok投稿…「手伝う」目的じゃない声かけ増えた

みゅうさんは、10代から人気の動画投稿アプリTikTokでも、自身の生活風景を配信しています。1本あたり数百万回再生されることも珍しくありません。

投稿の多くは、フォロワーから届いた疑問へのアンサー。

「飛行機の乗り方は?」
「雨のときはどうしていますか?」
「ディズニーで乗り物に乗れるんですか?」
「足が戻ってほしいと思うときはどんなとき?」

howto系の質問から、一見するとちょっと聞きづらい質問など「踏み込んで聞くね…」と思わず思ってしまうものまで様々ですが、みゅうさんは一つ一つ、丁寧に、また軽やかに答えて行きます。

@myu_ashihara

群馬県から投稿❣️今夜21:00頃インスタライブするよ🥰##秋冬コーデ

♬ オリジナル楽曲 - みゅう🧜🏻‍♀️足は姫にあげた💗


みゅうさんが大事している考えは「あくまで『個人』として出すようにしている」こと。

「車いすユーザーといっても、どんな車いすに乗っているのか、どういう事情で乗っているのか、それ以前に性格が違います」

踏み込んだ質問も歓迎しているみゅうさん。「聞いてくれる人がいるからこそ私が答え、それを知ることができる人もいる。そうやって、身近に障害者の友だちがいない子たちでも、障害者の情報を得られるようにしておきたいんです」

TikTokの目的には「もっとフラットに興味を持ってもらいたい」という気持ちもあるそうです。

「講演会に呼ばれることもありますが、正直そこには興味ある人しか来ません。私はエンタメを通じて、興味がない人に知ってもらうきっかけを提供したい。橋渡しをしたいと思っています」

「興味を持ってもらう動機は『車いすだから』とか『障害者だから』とかじゃなく、『こういう人もいる』っていう、フラットな出会い方ができれば。だからこそ、TikTokでは気になったことをそのまま質問してもらっています」

そんな投稿を続けて約1年、フォロワーは22万人に達しました。

「この間の北海道出張のときなんか、車から降りてごはんを食べに行く2分間だけでも知らない人から声をかけられましたよ(笑)」

そこにあるのは「知名度があがってうれしい」という気持ちではありません。

「いままで車いすユーザーにに声をかけてこなかった子たちが、声をかけてくれるっていうのは、それ自体が経験になっています。『手伝う』が目的でない声掛けは、心のバリアフリーになっているんじゃないかな」

     ◇
葦原海さんが発信するアカウントはこちら
【YouTube】http://youtube.com/channel/UCIM_e5VPCSpAiGkE3HbeNBw?sub_confirmation=1…
【TikTok】https://tiktok.com/@myu_ashihara
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